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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第二章 セラエノ道中膝栗毛
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悪巧み

 サッチ座長が示した方向を暫く飛ぶと、キョウ達の目に野盗の群れが飛び込んで来た。説明通り精霊機甲を含む大軍で有るが、もう一方の隊商の姿が見当たらない。「妙だな」と思いつつも、キョウは速攻での解決を試みつつも、マージョリーの実戦訓練を施した。


「マージ、いい距離だ、超長距離魔導槍砲(ばんしん)の準備を」

「ええっ、何で!?」


 マグダラ伴わずに出撃したため、近距離の格闘戦闘で片をつけるものだと思い込んでいたマージョリーは、驚いてキョウに聞き返す。


「早めに敵の数を減らしておけば、後の戦闘が楽になる。今戦闘のイニシアチブを握っているのはこっちだ、出来れば気づかれる前に片をつけたい」

「簡単に言うわね、マグダラ居ないのよ」

「今までの特訓の目的は何だっけ?」

「ハイハイ、わっかりましたぁ~」


 マージョリーは不承不承、リュミエールに超長距離魔導槍砲『蕃神(ばんしん)』を展開装備し着地しようとするが、キョウはそれを制止する。


「マージ、飛行したまま撃ってくれ」

「えっ!? キョウ、今何て言ったの?」


 一段以上上がったハードルに、耳を疑いマージョリーは聞き返す。


「このまま撃つんだ、マージ」


 淡々と繰り返すキョウに、マージョリーは呆れながらもしぶしぶと、その言葉に従った。


「全く、撃てば良いんでしょう、撃てば。どうなったって知らないわよ」


 マージョリーがトリガーを引くと、超長距離魔導槍砲『蕃神』が火を吹き、その反動を殺し切れずにリュミエールが空中で後方に回転した。不安定な弾道で飛んだ魔導弾は野盗の群れの脇を舐め、二三機を破壊しただけで、遥か彼方へ消えて行く。思わぬ事態に動揺し、野盗達は辺りを見回す、この野盗達はかなり戦い慣れている様で、至近の機体と臨時のペアを組み、互いの背中を守りながら警戒し、見る間に落ち着きを取り戻していった。

 その一部始終を見届けたキョウは、あちゃーといった表情浮かべると、悲鳴を上げながら必死で機体を立て直すマージョリーに指示を出した。


「ダメだマージ、やり直し」

「だからまだ一人じゃ無理だって……」

「マージ!」

「ハイハイ」


 キョウに促され、マージョリーはもう一度トリガーを引くが、その結果はまた同じだった。呆れたキョウはマージョリーにアドバイスをする。


「マージ、いつでも全力で一生懸命なのは君の美点だけど、常にフルパワーで攻撃する事は無かろう」

「だぁってぇ……」


 手練れの野盗集団は、マージョリーの二射目を捌くと、素早く射点を特定し、あっという間にアザトースとリュミエールを取り囲む。接近戦闘に移行したため、マージョリーは超長距離魔導槍砲『蕃神』から近距離武装、紅蓮剣ヤマンソ、聖水剣ハイドラに兵装転換しようとしたが、キョウはそれを制止する。


「マージ、僕との一騎討ちで感じた、あの感覚を思い出すんだ」

「……あの感覚……」

「手本を見せてやる、よく見ていろよ、マージ」


 アザトースの左右の肩部装甲がスライドした。



 この戦闘を遠くから伺う目があった、サッチ座長に子供達の後をつける様にどやされた、あの座員の目だ。彼はアザトースとリュミエールが野盗達に取り囲まれた瞬間、もう勝負はついたと判断する。


「いくらすげえ精霊機甲を持ってても、あんなに下手くそじゃ……。あ~あ、囲まれてやんの、もうダメだなアレは。座長に報告だ」


 座員のンガ・クトゥンは、アンナ達の待つメガ・クトゥンに向かって走り出した。座員はメガ・クトゥンに転がり込むと、悲痛な表情でサッチ座長に報告する。


「座長! 大変だ! あの二人、られちまった!!」

「何だって!! そいつは一大事だ、アンナちゃん、今すぐ逃げるんだ!」


 二人のやり取りを見て、マグダラの目が妖しく光る。


「ちょっと、そこのアンタ」

「俺っちですかい?」


 不意にマグダラに声をかけられた座員は、間抜けな顔で返事をした。


「そう、アンタよ。マスター達が殺られたって、本当なの?」

「……本当でさぁ、赤い精霊機甲がでっかい大砲を二回外して、その隙に囲まれてあっという間に」


 嬲る様な妖しい目付きと口調で聞いてきたマグダラに、一瞬呆気にとられた座員だったが、捲し立てる様な口調で答える。最後に自分の首筋に、手刀を当てて説明をした座員から視線を逸らせ、マグダラは一瞬顔をしかめる。


「全く、馬鹿マージ。ウル、ラーズ」


 一言マージョリーに文句を言ってから、マグダラは男の子二人に声をかける。


「はい、マグダラ師匠」

「なーに、マグダラ姉ちゃん」

「ちょっと二人で様子を見てきて」


 マグダラの指示に、二人の子供達が表情を明るくする。


「やったぁ!!」

「行ってきます、マグダラ師匠!」


 小踊りして格納庫に駆け込み、それぞれのンガ・クトゥンに乗り込んで、勇んで外に飛び出し駆け出すと、(くだん)の座員が一座のメガ・クトゥンを回して追いかけて来た。


「坊ちゃん達、案内します」

「ありがとう、おじさん」

「お願いします」


 二人は座員に礼を言いながら、ンガ・クトゥンを巧みに操り、一座のメガ・クトゥンに飛び乗った。座員はそれを確認するとメガ・クトゥンを疾走させ、夜の闇の中に消えて行く。彼らを見送るマグダラとアンナの背後で、サッチ座長が人知れずほくそ笑んだ。



 案内を買って出た座員の操るメガ・クトゥンの中で、ウルとラーズは違和感を感じていた。それは初めは小さいものであったが、次第に大きくなっていく。初めの小さな違和感は、時間が経つにつれて不安に成長していき、(おり)の様に焦燥感を堆積していった。


「なあ、変じゃないか、ラーズ」

「ウン、ウル兄ちゃんもそう思う?」


 互いに違和感を感じている事を確認し合ったウルとラーズは、お互いに頷き合うと視線を前方でメガ・クトゥンを操縦する座員の背中に向けた。


「まだ遠いんですか?」

「ああ、まだかなりありやすぜ」


 ウルの質問に座員は答えるが、その声の質は若干ではあるが、先程自分達の所に駆け込んで報告した時の様な緊迫感が薄れていた。二人はその若干の違いを聞き取り、座員が本当は自分達をキョウ達の所に案内しているのではなく、どこか別の場所に連れて行こうとしている事に気がついた。

 二人の感じていた違和感とは、キョウ達に向かっている筈のこのメガ・クトゥンが、徐々に目的地から離れて行く感じがしている事だった。二人は闇雲に飛び出して来たのでは無い、今までキョウやマグダラに鍛えられてきたお陰で前述の通り精霊と深く親和している、そのためアザトースやリュミエールを探し出す事は二人にとっては造作もない事である、そんな事は知る由もない座員はサッチ座長の指示に従って、二人を案内するふりをして安全地帯へと誘導していたのだ。座員の行動に不信感を覚えたウルとラーズは、メガ・クトゥンを降りて、自力でキョウ達の元に向かう事に決めた。


「おじさん、ありがとう、ここまでで良いです」

「じゃーねー、バイバ~イ」


 二人がそう言い残してメガ・クトゥンから飛び降りると、座員は目を剥いて驚いた。


「何だって!? そんな事されたら、座長にどやされちまうぜ……」


 座員は青い顔で急ハンドルを切り、メガ・クトゥンを方向転換させて二人を追う。いい加減ガタがきて、寿命が近づいているメガ・クトゥンのあちこちが負荷に耐えかねる様に軋み、嫌な音を響かせる。


「うひゃー、持ってくれよー」


 座員はそう呟くと、機嫌を損ねて久しい動力系に鞭を入れ、強引にウルとラーズが操るンガ・クトゥンの前に出て、無理矢理その足を止めた。


「危ない!」

「うわぁ!」


 ウルとラーズが巧みにンガ・クトゥンを操り、メガ・クトゥンを避ける。


「何するんですか!?」

「危ないじゃないか! おじさん!!」


 抗議する子供達を無視して、座員はメガ・クトゥンの操縦席でペダルを踏んだり、魔導炉のスイッチを押したりしている。そして窓から半身を乗り出して車体を確認すると、煙を吐いている魔導炉を認めてガックリと肩を落した。


「こりゃどやされるだけじゃすまんかも、せめてガキども確保しとかないとマジいな……」


 ぶつくさと小声でボヤく座員は、操縦席後ろの荷台に固定されているンガ・クトゥンに乗り移ると、寿命が尽きたメガ・クトゥンから飛び降り、ウルとラーズの前に立ち塞がる。


「いやぁー、坊ちゃん達、ここから先は通せないなぁー」


 座員は人の良い笑顔を浮かべ、揉み手でウルとラーズにおもねる様に話しかけた。


「何でだよ、おじさん」

「俺達、早く師匠の所に行かないと!」

「いやいや、あの二人はもうダメだし。危ない事をして後を追うより、安全な所に逃げて生命を繋ぐ方が、その師匠とやらも喜ぶんじゃないかなぁ?」


 逸る子供達を何とか宥めすかそうと、座員は努めて丁寧な語り口で説得するが、選ぶ言葉を間違えた。キョウとマージョリーの実力を知らない座員は、二人の実力を熟知する子供達の疑念を更に深い物とした。


「キョウ兄ちゃんが、野盗なんかに負けるもんか!」

「おじさん、僕達が師匠の所に行くと、何か拙い事でもあるの!?」

「まさか、そんな訳無いって。俺っちは親切で……」


 ウルの質問に座員は内心狼狽える、そして動揺を悟られまいと、わざとらしい笑顔を顔面に貼り付け、親切心を強調しようとしたが、その言葉は子供達に遮られる。


「怪しいなぁ」

「本当に親切心ならありがとうございます。でも、僕達なら大丈夫です、そこを通して下さい」


 あくまでも押し通ろうとするウルとラーズに、座員は遂にキレてしまった。思い通りにならない子供達に業を煮やし、その本性を現す。


「このガキども、下手に出てりゃ良い気になりやがって! 子供は素直に大人の言う事を聞いてりゃ良いんだ!! おい、みんな出て来い、こうなりゃ力ずくだ!!」


 座員の合図で、数機のンガ・クトゥンが姿を現す。ウルとラーズは顔を引き締め辺りを見回す、皆知った顔だ、昨日一座のメガ・クトゥンで見た芸人達だった。彼等は手馴れた動きで二人のンガ・クトゥンを取り囲む。


「ラーズ、油断するなよ」

「ウル兄ちゃんこそ、ドジ踏まないでよ」

「生意気言うな、行くぞ!」

「合点!!」


 ウルとラーズは立ち塞がる座員達のンガ・クトゥンを突破すべく、自機を操り踊りかかった。


 ウルとラーズが、豹変した座員達と戦闘を始めた頃、メガ・クトゥンに残ったサッチ座長とアンナ達の間でも、ひと悶着が起こっていた。


「早くここを離れましょう、このままでは貴方達まで野盗の餌食になってしまう」

「いいえ、ここは離れません、キョウお兄ちゃん達もラーズ達も、野盗なんかには絶対に負けません」

「信じられない気持ちは分からないでもないが、たった今報告が有ったでしょう。意地を張っていては手遅れになる」

「意地なんか張っていません、報告が間違っています」


 二人の押し問答は、ラーズ達が出発した後に、偵察に出ていたと称する座員の一人が、ラーズ達が野盗に襲われて全滅したとの報告を持ち込んでから始まっていた。

 部下の座員の報告を聞いたサッチ座長は、青い顔でここから逃げる事を提案するが、マグダラもアンナも頑として首を縦に振らない、それは誤報だから動く必要は無いと頑なに主張していた。


 らちの開かない問答が続き、サッチ座長はとうとう本性を剥き出しにした、善人の仮面をかなぐり捨て、下卑た口調で傍らのアビィを乱暴に抱き上げて、隠し持っていたナイフを突き付ける。


「おい、嬢ちゃん達、大人しく俺の言う事を聞け! じゃないと、このガキをコイツでブスりだぞ」


 サッチ座長の態度の豹変に、思わずアンナとマグダラは息を呑む。言葉を失った二人を見て、事は成ったと確信したサッチ座長は、勝ち誇った様に話し始める。


「やれやれ、面倒かけやがって、小娘共が。メガ・クトゥンを直して貰った礼に、せめて偉い貴族様にでも売ってやろうと思ってたのによ、このままじゃ野盗共に横取りされちまう」

「そんな……」

「悪く思わねぇでくれよ、嬢ちゃん。今の世の中、お人好しが馬鹿を見るのさ。恨むんなら、自分のお人好し加減を恨むんだな。さぁ、とっとと出発するんだ」


 信じていたサッチ座長に裏切られ、動揺するアンナに、座長はメガ・クトゥンを操縦する様に命令した。


 サッチ座長は、子供達と出会った時に、この計画を立てていた。アンナ達の話を聞くに、そのキョウ兄ちゃんとかマージお姉ちゃんとかいう奴らは、底抜けのお人好しらしい。このルルイエ世界では、そんな馬鹿な奴らは生きていけない、早死するのかおちだ。だったら俺達が生きる上での肥やしになって貰おうじゃないか。


 そう算段をつけたサッチ座長は、近隣を根城とする、自分が顔の利く野盗達に、単独行のメガ・クトゥンの情報を流した。そしてキョウ達のメガ・クトゥンを訪ね、一芝居打ったのである。


 キョウ達の始末を野盗達に任せ、アンナとアビィを攫って権利者有力者に売り、メガ・クトゥンを奪い、ラーズとウルを騙して一座に入れて芸を仕込む。


 そんな青写真を描いていたサッチ座長だったが、そうそう上手く事が運ぶ訳が無い。何しろ彼が目をつけたターゲットは、確かに筋金入りのお人好しだが、並のお人好しではないのだ。

 彼が都合良く描いた筋書きは、実は初めから破綻していたのである。まぁそれでも、善意の第三者として皆から感謝される未来図も有るには有ったのだが、それは(くだん)の座員が、キョウとマージョリーの戦闘の結末を確認せずに報告に戻った事で、完全に潰える事が確定してしまったのだが……


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