発覚
孤児院を家出してから三日目の夜、遂に子供達は目的のキョウ達の乗るメガ・クトゥンを視界に収める。子供達は逸る心を抑えつつ、夜まで待つとアビィの首飾りの勾玉からナイアルラートを呼び出した。そして中の三人にバレない様に結界魔法を張って貰い、抜き足差し足で隠し扉から隠し部屋に忍び込み、ンガ・クトゥンを固定した。固定作業を終えると、子供達は各々のカプセルベッドの中に潜り込み、初めての大冒険の疲れから、泥のように眠るのだった。
疲れと緊張から解放された子供達が目を覚ましたのは翌日の昼過ぎだった、アンナのンガ・クトゥンに積み込んでいた食料で腹拵えをした四人は、これからどうやってキョウ兄ちゃんとマージお姉ちゃんの前に出るか、そして旅の同行を認めさせるかを話し合った。しかし、勢いでここまで来たものの、基本的にノープランだった彼等の知恵の泉は既に枯れ果てており、三人寄っても文珠の知恵とはいかなかった。結局話し合いで効果的な作戦を思い付けず、幸い水と食料を多めに持ち出ていた事から、最初の目的地のセラエノまでは息を潜めて隠れ過ごし、後は出たとこ勝負と決めたのだった。
おいおい君たち、水と食料だけじゃ、それは無理じゃあないかなぁ……、肝心な物を忘れていないかい?
子供達の思惑は、翌朝目覚めと共に上がったマージョリーのけたたましい悲鳴と共に、敢えなく潰える事となる。そして隠し部屋から引き出されたアンナ、ウル、ラーズの三人は、マージョリーの前に正座させられる事となった。
子供達の計画が潰えた理由は、彼等が失念していた最重要懸念事項、トイレ問題であった。夜中のトイレに起きたアビィがカプセルから抜け出し、隠し部屋からトイレに行って用を足すと、寝ぼけまなこを擦りながらアンナのカプセルではなく、マージョリーのカプセルに潜り込んだのである。アビィはそのまま四日ぶりのマージお姉ちゃんのぬくもりを満喫して、朝までぐっすりと眠ったのだった。朝、二の腕に感じた重さと痺れの感触で目を覚ましたマージョリーは、何かしらと思って目を覚ますと同時にその原因を知り、目を見開いて驚いた。
「えぇええええええええええ!」
「マージおねえちゃん、おはよう」
「ア、ア、ア、ア、アビィ! どうしてここにいるの!?」
悲鳴を上げたマージョリーは、大輪のひまわりの様な笑顔を浮かべて朝の挨拶をするアビィに叫ぶ様に質問をすると、彼女はご機嫌の笑顔で事の顛末を話した。程なくして隠し部屋からラーズ、ウル、そしてアンナが引き出され、マージョリーとキョウの前に正座する事に相成った。アリシアからの連絡で、子供達の家出を知っていたマージョリー達だったが、まさかこんなに用意周到だったとは予想をしてはいなかった。マージョリーがいつから計画を立てていたのかを問い質すと、アンナとウルはキョウに改装を命じられた時からだと答えた、そしてキョウも正座をさせる側からする側へと立場を変える事となる。子供達は必死に役に立って見せる、足手まといにはならないとマージョリーに訴えるが、マージョリーは渋面を浮かべてキョウを睨むだけだった。
そんな彼等に助け船を流したのはマグダラとイブン・ガジであった。二人は自分達が滅魔亡機戦争の折り、マリア騎士団に参加したのは今のアンナより少し年上だった事、当時もラーズ程度の子供が連絡員として参加していた故事を挙げ、危険の無い所での手伝いを認めてはどうかと提案した。しかし、危険の無い所という曖昧な線引きは出来ないとマージョリーは難色を示し、セラエノで迎えに来るノーデンスと共に帰る様に子供達に命じたのだった。
ガックリと項垂れる子供達に、今度は包み隠さずメガ・クトゥンの改装について説明する様にとキョウが求めると、これが最後のチャンスとばかり、一生懸命に説明した。キョウは子供達だけでジャンクの山から作り出した、アンナ用のンガ・クトゥンに目を見張り、外壁に設けられた隠し扉に唸り、そして操縦席に隠して装備された魔導クリスタル、輝くトラペゾヘドロンと契約精霊ブラックナイトの存在に感嘆した。そして子供達の心意気をただ頭ごなしに押し潰すのは愚策と考えていたキョウは、基本的にマージョリーの意見に賛成しつつもセラエノに到着するまでの間、テスト期間として子供達に手伝いをさせてはどうかと提案した。自分を想う子供達の心に内心痺れる程の喜びを感じ、本音は少しでもその気持ちに応えたいと思っていたマージョリーは、キョウの提示した落とし所に一も二もなく飛びついた。そして子供達が増長しない様に、わざとしかつめ顔でそれを許可したのだった。
そうして子供達が暫定的ではあるが、メガ・クトゥン内に自分の位置を確保した夜、事件は起こった。オートキャンプ変型をして、夜営の体制を整えていたマージョリー一行の元に、アンナが応急処置を施した、旅芸人一座のメガ・クトゥンが駆け込んで来たのである。
旅芸人一座のメガ・クトゥンが急制動の騒音と土煙を上げて、マージョリー一行のメガ・クトゥンの脇に寄せると、中からサッチ座長が止まるのももどかしいといった勢いで、立ち込める土煙もものともせずに転げ落ちる様に飛び出した。サッチ座長は血相を変えてマージョリー達のメガ・クトゥンに駆け寄ると、操縦席の扉を激しく叩きながら、大声でわめき始めた。監視カメラでその様子を確認したキョウとマージョリーは、彼らを追い剥ぎかその類いだろうと判断し、子供達をリビングに集めて合図が有るまでそこを動かない様に指示を出した。
リビングはキョウとマージョリーが共にメガ・クトゥンから出払った時、マグダラが戦闘等の管理、管制を行うCIC室を兼任しており、外部からの攻撃では、例えそれが精霊機甲からのものでも、おいそれと破壊出来ない様に工夫が凝らされている。子供達の安全を確保した二人は、それぞれのンガ・クトゥンに乗り込み、トレーラー後部の資材搬入用の出入口から外に出た。二人の戦闘能力を以てすれば、ンガ・クトゥンは不要なのだが、手っ取り早い解決を望んだ彼等は、圧倒的戦闘力の違いを示し、相手の意志を挫く事にした。
「こんな夜遅くに何の用だ?」
キョウの問いかけに振り向いたサッチ座長は、気配も感じさせずに背後に忍び寄った二機のンガ・クトゥンの姿に肝を潰した。
「ひぇえええ、怪しい者じゃありません! 話しを聞いて下さい!」
サッチ座長が腰を抜かしながら叫ぶと、マージョリーは自機が手にする鉄棍を彼の鼻先に突き付けて詰問する。
「こんな夜更けにやって来て、乱暴に見ず知らずのメガ・クトゥンの扉を叩いておいて、怪しくないとはよく言ったものね。どう怪しくないのか聞かせて貰おうじゃないの!?」
キョウの静かな殺気とマージョリーの剣幕に蒼白となったサッチ座長は、膝から力が抜けて尻餅をつくと、アワアワと二人を見上げるだけで、何も喋る事が出来なかった。
その様子をリビング内の外部警戒モニターの画面越しに見ていたアンナが慌てて外に飛び出し、間に割って入った。
「待って、マージお姉ちゃん、キョウお兄ちゃん」
突然のアンナの行動に、キョウとマージョリーは狐につままれた表情で、互いの顔を見合わせた。
アンナのとりなしで、リビングに通されたサッチ座長は、出された水を飲み干して人心地つくと、真剣な眼差しをキョウとマージョリーに向ける。
「大変です、この街道上で隊商が野盗の大軍に襲われています! 私達は何とか逃げ切りましたが、ここに奴等が来るのも時間の問題です! 早く逃げなさい!」
サッチ座長の報告に、キョウとマージョリーが顔を見合わせる。
「キョウ!?」
「ああ。サッチさん、野盗はどっちの方向にいる?」
「はい、向こうです」
サッチ座長が示した方向は、進行方向とは反対側であった。マージョリーは改めて子供達の無事に胸を撫で下ろし、抱き締めた。そして、真剣な眼差しでキョウを見つめる。
「キョウ!!」
「ああ、行こう、マージ」
「行くって……、どこへ……?」
「ん? 野盗を退治に」
まるで散歩に出かける様なキョウの口調に、サッチ座長は目を剥いた。
「そんな! お二人がお強いのはアンナちゃん達から聞いていますが、たった二人でなんて、死にに行くようなもんだ、奴等は精霊機甲も持っている。悪い事は言いません、一緒に逃げましょう」
押し止めるサッチ座長に、キョウとマージョリーは笑って答える。
「すぐ戻るから、ここで寛いでいてくれ」
「子供達を頼むわね」
格納庫に向かう二人の背中を、おろおろしながら見つめるサッチ座長に、マグダラが蔑む様に声をかける。
「ちょっとアンタ、マージはともかく、私のマスターを誰だと思っているのよ」
呆れた視線を向けるマグダラと、出撃した二人に、全幅の信頼を寄せるアンナの眼差しに、サッチ座長は力なくソファーに腰をおろした。
「アンナ、早速の出番よ、しっかりね」
「はい、マグダラ先生」
マグダラの檄に、アンナは緊張した面持ちで返事をすると、リビングをCICにモードチェンジし、モニター画面で格納庫内の様子を確認する。画面にはそれぞれの精霊機甲に乗り込むキョウとマージの姿があった、アンナは大きく深呼吸をすると、手早くコンソールを操作する。
「キョウお兄ちゃん、アザトースの拘束、外します」
「了解。起きたか? アザトース」
魔導拘束が外れ、キョウが声をかけると、アザトースの魔導炉が始動し、起動シーケンスを開始する。それをCICから確認したアンナは、次にマージョリーのリュミエールの魔導拘束を解除した。
「マージお姉ちゃん、リュミエールの拘束、外したよ」
「オーケィ、アンナ。行くわよ、リュミエール」
マージョリーの声に反応し、リュミエールが起動シーケンスを始める。格納庫は、二機の精霊機甲が排出する魔導気が満ちる。
「格納庫、ハッチ開きます」
アンナの操作で逆Tバー方式のハッチが開く。
「アザトース、行って来る」
「リュミエール、出るわよ」
二機の精霊機甲が魔導気を煌めかせて飛び立つその姿を、子供達は頼もしそうに見送るのだった。




