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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第二章 セラエノ道中膝栗毛
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旅立ちの翌朝

 様々な紆余曲折を経て準備を終えたアンナとウルが、完成したメガ・クトゥンをキョウに引き渡したのは、ノーデンスが新しい愛機、ナイトゴーントハイパーボリアカスタム、その名も『クマちゃん』を手に入れた翌日である。

 アンナとウルは、キョウが内装の偽装を一目で見破るのではないかと、手に汗を握りチェックを終えるのを待っていた。

 しかし、キョウは内装関係にはあまり頓着しないのか、必要な物がきちんと揃っていて、きちんと機能するかどうかを確認すると、意外な程あっさりとOKを出し、緊張する二人を拍子抜けさせた。


 キョウが重点的にチェックしたのは、操縦系と足回り関係である。アンナが施した改装は、操縦ユニットにトレーラーを二台連結した八本脚の多脚仕様のメガ・クトゥンに、更にホバー変型機能とオートキャンプ変型機能を組み込んだ意欲的な機体である。各脚のスムーズな連携と、シームレスなホバー変型が、メガ・クトゥンの運動性と乗り心地を左右する。


 因みに、ここルルイエ世界では、装輪車両はマイナーである、理由は精霊魔法の普及だった。人々は古くから精霊達と共存し、その領域を侵さない様に生活環境を整えてきた。

 道路も人間に便利な様に、整地して出来た物は無く、何百年に渡り踏み固められて完成して行った。街道と呼ばれる大きな道路は、かつてルルイエ世界を二分して争われた、滅魔亡機戦争における軍靴の跡である。この戦争が如何に大規模で、長期間に渡り続けられたかを示す、貴重な史跡でもある。こうして出来た道路であるが故に、その状況は天候、季節に左右される。この様な道路事情では、装輪車両は不向きである、それに対応するために、ここルルイエ世界では、移動機械は多脚仕様及びホバー仕様が採用され、進化してきた。因みに装輪車両は屋内向けの車椅子や、カーゴキャリア等に用いられる。


 一通りのテストを終え、キョウがアンナに向けて最高のコルナを贈り、彼女の面目を大いに立たせる。同時にそれは旅立ちが決まった瞬間でもあった、孤児院総出で必要な物資を積み込み、出発の準備を済ませると、翌朝に出発と相成った。


「行ってらっしゃい、キョウ様、マージ様、お姉さま。どうか、お気を付けて」

「留守は任せろ、ネオンナイト! 子供達はこの俺様が、しっかり守るから安心しろ!!」

「行ってらっしゃい、マージお姉ちゃん」

「お土産、忘れないでね!」


 アリシアを中心に、ノーデンス、そしてアンナやラーズにウルといった孤児院の子供達が手を振って、姿が見えなくなるまで見送った。


 メガ・クトゥンの姿が見えなくなっても、子供達は名残惜しそうに、その場を離れようとしなかった。

 アリシアも同じ気持ちだったが、三人から後事を頼まれて預かった身とあれば、いつまでも浸ってはいられない。「いけない、いけない」と、両手で自分の頬をパチパチと叩いて気合いを入れ、気持ちを切り替えて引き締める。


「さぁ、みんな、戻って今日のお勉強とお手伝いよ。あの三人がいないからって怠けていたら、帰って来た時に笑われるわよ」


 アリシアの言葉に、子供達は元気良く手を上げて「ハーイ」と答えた。その姿を見て破顔したノーデンスは、豪快に笑った後でアリシアの言葉に付け加える。


「おう、みんなその意気だ、偉いぞ。三人の留守中に一生懸命頑張って、帰って来た時に成長した姿を見せつけて、驚かせてやろうじゃないか!なぁ!」


 そう言ってノーデンスが拳を天に突き上げると、子供達は元気良く「おー!!」と答え、拳を天に突き上げる。そして我先に孤児院の建物に向かって駆け出した。

 その姿を眩しそうに見つめたアリシアは、もう一度三人が旅立って行った彼方に振り返る。


「キョウ様、お姉さま、マージ様、留守は私がお引き受けしました。どうか悔いの残らない様、御存分に戦って下さいませ」


 そう心の中でもう一度強く誓い、エールを送ってアリシアは、子供達の後を駆け足で追うのだった。


 こうしてマージョリーの孤児院の子供達は、アリシアを先生にして日常に戻って行った。


 朝起きると、みんなで用意して朝食を摂り。

 片付けを終えると勉強の時間。

 勉強の後は昼食を摂り、その後の時間は男の子達はンガ・クトゥンの操縦教習。そして女の子達は黄金の蜜蜂の世話と黄金の蜂蜜の採取。

 夕食の後は消灯まで子供達の自由時間として自主性に任せ、自分はベタニア商会の執務をする。


 そんな日常がこれからやって来る。


 そう考えていたアリシアの思いは、夜が明けて早々に、木っ端微塵に打ち砕かれた。

 朝食の支度に起きた子供達の人数が、四人足りない。

 ラーズとアビィはともかく、責任感が強くいつも早起きのアンナとウルが寝坊とは珍しい。


「まさか、そんな事は無いわよね……」


 アリシアはある種の胸騒ぎを覚え、台所を子供達に任せ、四人の寝床に向かった。


「さぁ、もう朝よ、起きなさい!」


 そう言ってラーズの布団をめくり上げると、そこにはラーズの姿は無く、代わりにカムフラージュの人形が横たわっていた。アリシアは思わず「ひいっ!」と悲鳴を上げてのけ反り、一瞬で顔が引きつって青ざめる。

 ドタバタと駆け回り、アビィ、ウル、そしてアンナの布団を引き剥がすと、どの寝床の中にもラーズのそれと同じく、カムフラージュの人形が横たわっていた。


「ななななな、なによコレぇ〜〜〜!!」


 アリシアはペタりと尻もちを着き、彼女にしては些かはしたない悲鳴を上げたのだった。騒ぎを聞きつけた子供達とノーデンスが見た物は、「留守はお任せ下さいって約束したのにぃ〜!これじゃぁ私の面目丸潰れじゃないのよ〜っ!」と、子供の様に転げ回って、じたばたと手足を動かし四人の子供達の身勝手で理不尽な仕打ちに、届かない抗議の声を張り上げるアリシアの姿だった。


「ラーズ達、狡い。僕も行きたかったのに……」


 彼女の姿を見て、ラーズ達が内緒でこっそりマージお姉ちゃん達を追いかけて行った事を察した一人が、口を尖らせてそう言うと、周りの子供達も、口々に「僕も」「私も」と不平を漏らした。


「あなた達何を言ってるの!? 私だって行きたいわよ!」


 アリシアは、支離滅裂な叱責を飛ばして子供達を黙らせると、キッと睨む様な目つきでノーデンスを見つめる。とばっちりを喰らうと予測して、半身を逸らして身構えるノーデンスに、アリシアが厳しく指示を出す。


「何ボケっとつっ立ってるのよ、ノーデンス。さっさと四人を、連れ戻しに行きなさい!」

「行っても良いが、多分追いつけないぞ。まぁ多少の危険はあるかも知れんが、腕前だけなら坊主達に敵う野盗はここら辺には存在しないし、それよりだなぁ……」

「それより、何よ!?」


 三人の留守中のハイパーボリア防衛と、子供達の育児に教育、それになんと言っても後方支援と情報収集の重要性を鑑み、己を殺して孤児院に留まったアリシアである。しかし、本音は自分も三人に同行して、傍らで役に立ちたかったのだ。

 連れ戻しに行くのさえ自分で行きたいというのに、悠長に構えるノーデンスに対し、この脳筋は人の気も知らずにと、アリシアが食ってかかる。

 しかしノーデンスは、まぁまぁ落ち着けと言わんばかりに、やんわりと答える。


「それよりも、お前さんの配下の『なんとかシャーズ』を使ってだな、子供達の先回りをしてネオンナイトに知らせて、保護して貰った方が良いんじゃないか? 坊主達の安全の面からも、そうすべきだと俺は思うんだが……」

「あの子達の同行を、なし崩しに認めるって言うの!?」


 そんな事を認めたら、今夜中にこの孤児院から、子供達がいなくなってしまう。


 いくら脳筋のノーデンスでも、それは分かっているので、そうではないと頭を振って説明を続ける。


「いやいや、そうは言っていない。まずは坊主達をネオンナイトに保護して貰い、セラエノに着いた所で『なんとかシャーズ』に身柄を渡し、そこへ俺が迎えに行く。そうすれば、誰も慌てる事無く行動出来るだろう。」

「それもそうね。サンチョ!パンサ!この事をキョウ様達に知らせて。それからあの子達の護衛もお願い!」

「ハッ」

「直ちに」


 ノーデンスの言に、一理あることを認めたアリシアは、配下のエルトダウン・シャーズ呼び出すと、影の中から、部隊長と思しき二人の人影が現れた。

 アリシアが厳しい表情で指示を与えると、二人は短く了解の返事をして、素早く行動を開始した。


 彼等の後ろ姿を満足げに見送ると、アリシアはノーデンスに向き直り、早速アンナ達を追う様にと改めて指示を出す。


「さぁ、ノーデンス、あなたも早く四人を追いかけて」

「うぬっ!? 」


 アリシアと一緒に、エルトダウン・シャーズの二人を見送ったノーデンスは、さて俺は彼等からの報告が来るまでに、伝手を頼ってメガ・クトゥンを借りて、それから……。と思案を始めた所に、再度同じ指示が下されて、面食らってアリシアの目を覗き込む。

 そんなノーデンスの目を『馬鹿なのアンタ?』と言わんばかりの呆れた目つきで覗き返し、アリシアは指示を繰り返した。理屈や効率はどうあれ、今後の孤児院の維持の事を考えると、大人として今すぐ四人を連れ戻す姿勢を子供達に示す必要がある。それはキョウとマージョリー、そしてマグダラに後事を託されたアリシアにとって当然の判断だった。


「は・や・く・あ・ん・た・も・つ・れ・も・ど・し・に・い・き・な・さ・い。」

「だから、今から追いかけても追いつかんと言っているだろう。ここは奴らに任せて、俺達は坊主達を受け取る算段を整えてだなぁ……」

「どうして追いつけないの!?」


 アリシアはノーデンスの説明の後半部分を聞き流して遮り、馬鹿な事を言うなと目で言いながら、質問を被せた。


「悔しいが、ンガ・クトゥンの扱いは坊主達の方が上だ、同じンガ・クトゥンで追いかけて、追いつける訳が無いだろう」


 そう答えるノーデンスを、虫でも見る様な目つきでアリシアは、再度質問をする。


「何で同じンガ・クトゥンで追わなきゃいけないの?」

「そりゃ……、決まってるだろう……」


 ノーデンスはたじろいで、アリシアから視線を逸らす。アリシアは歯切れの悪いノーデンスの、逸らした視線の先に回り込み、さっき発した言葉よりも、些か詰問の色を強めて彼に迫る。


「何が決まっているのよ!? 」

「……いや、だからだなぁ……」

「だぁかぁらぁ、何が決まっているのよ!? 」


 煮えきらないノーデンスの態度に、フラストレーションMAXとなったアリシアは、名状し難い不機嫌オーラを燃え立たせ、這い寄る様にノーデンスに迫る。その姿にたじろいだノーデンスは、遂に本音を口にした。


「まさか、俺にアレに乗って行けと言うんじゃないだろうな!?」

「何がまさかよ、そんな事当たり前じゃない、何のための『クマちゃん』よ!!」

「そんな馬鹿な!!」

「馬鹿はアンタよ、ノーデンス! しのごの言わずにさっさと行く!!」


 アリシアの剣幕に追い立てられ、ノーデンスはトボトボと肩を落として格納庫に向かった。


 もし、アレに乗ってハイパーボリアの外に出て、人目についたら俺の賞金稼ぎとしての人生はおしまいだ。


 ノーデンスの耳には格納庫に響く自分の足音が、今まで自分が築き上げて来た賞金稼ぎとしての威厳と畏怖が崩壊していく音に聞こえていた。


「はぁ……」


 大きなため息をついたノーデンスは、愛機にかかったシートをめくるのだった。


 薄いシートがこんなにも重いとは……


 肩を落とすノーデンスの前に精霊機甲(フェアーリー)、ナイトゴーントハイパーボリアカスタム『クマちゃん』が偉容を現す。主人を認識し契約精霊イェグハが魔導炉に火を入れ、機体は順調に稼働状態へと移行していく。

 主人の内心とは裏腹に、やる気満々のオーラを全身から発散する愛機を見上げ、ノーデンスは力なく呟いた。


「どうしてこうなった……」


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