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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第二章 セラエノ道中膝栗毛
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子供達の企み

 ハスタァの疑問に、マージョリーが訥々と答え始めた。


 事の発端は、キョウがアンナとウルに、メガ・クトゥンの改装を命じた時まで遡る。


 二人はキョウからメガ・クトゥンの改装を任せると告げられた時、心の中で密かに小躍りした。

 アンナは操縦系と足周りの改装を担当すると宣言すると、これ幸いとウルは内装を担当すると宣言して、それぞれ作業に掛かった。

 作業開始当初、二人は必要最低限の連絡を取り合い、互いに不干渉の態度で作業を進める。

 アンナはどんな些細な事でも、理由をつけてメガ・クトゥンの操縦をしたがり、ウルはラーズを助手につけて、失敗した時の保険にと、やや多めの資材を発注した。


 そう、彼等は何とか自分も旅に同行出来ないかと、それぞれの方法でアプローチしていたのである。


 お互いに、バレたらキョウに告げ口されて水泡に帰すと思い込み、疑心暗鬼の牽制混じりの共同作業であった。疑心暗鬼は作業の連携に齟齬を生み、中弛みが生まれ、そのせいで進捗状況がやや遅れ気味であった。しかしながら、アンナにとっては、それが怪我の功名となる。彼女は中弛みとなった時間を利用し、絶対に足手まといにはならないと胸を叩ける程、操縦技術に磨きをかける事に成功していた。


 さて、となると、お次は同行する為の手段である。


 まともに頼んでも、危険と言われて断られ、改めて留守番を頼むと、きつく念を押されるのは火を見るより明らかである。アンナはどうやって潜り込むか、あれこれと思案しながら、ウル達の作業する倉庫に向かった。彼等の作業の進捗状況を確認する為と、自分の思惑がバレてはいないかを確認する為にである。倉庫の中に人がいる様子は無い、アンナはそのまま足を進め、ウル達の作業を確認する。作業台に無造作に置かれた計画書を手に、改装中のトレーラー部に入って行った。

 彼女はすぐに、計画書の図面と実物の間に違和感を感じる。リビングスペースと、プライベートのカプセルスペースが、微妙に狭いのだ。そして、操縦席後部と格納庫の間が、連結部であるという事を差し引いても、どうにも幅が有り過ぎるのだ。

 彼女は図面と見比べなければ、発見し得なかったであろう、その部分を確かめに向かうと、そこには外壁と壁の間に、それとは分からない巧妙に偽装された隠し扉と、ンガ・クトゥンが格納出来る幅の空間を発見する。

 何のためのスペースなのだろうと、訝しげに思う彼女の耳に、その奥から男の子の声がした。アンナは息を潜めて、耳を澄ませる。


「ウル兄ちゃん、ンガ・クトゥン固定用のフック、取り付け終わったよ」

「ようし、これで次は僕達の為のカプセルを備え付けて完成だ!」

「これを知ったら、キョウ兄ちゃんもマージお姉ちゃんも、きっとびっくりするだろうな」

「ああ、でもまだバレる訳にはいかないから、仕上げのカプセル設置は今夜、みんなが寝た後でこっそり作業するぞ」

「合点」


 会心のイタズラを決めた表情で、二人はハイタッチを交わした。


「聞いたわよ」


 ラーズとウルは、ハイタッチを交わした姿勢のまま凍りついた。錆び付いて回転の悪くなったネジの様に、ギギギと首を動かし振り返ると、両手を腰に当てて身を乗り出し、自分達を見つめるアンナの姿を認めた。生憎逆光で、二人にアンナの表情を確認する事は出来なかった。


「いや、アンナ、違うんだ! これは……、なぁ、ラーズ……」

「うん、違うんだよ、アンナ姉ちゃん、ねぇ、ウル兄ちゃん……」


 二人は風前の灯となった完成目前の計画をどうにかして守るために、必死にアンナに言い訳しようとするが、全く予期せぬ突然の出来事に泡を食うだけで効果的な言い訳をする事が出来なかった。


「ふうん、外壁と内壁、各フロアの隔壁のサイズを微妙に誤魔化して余剰空間を作り出し、それを隠し部屋にして潜り込み、こっそり連れて行ってもらう計画だったのね」


 アンナは気が動転して狼狽える二人を余所に、その計画に感心してそう感想を述べた。その口調が、余りに淡々としていたため、ラーズとウルは褒められているとは気がつかず、蒼白な表情でアンナの言葉を聞いていた。


 絶対にキョウ兄ちゃんに報告される。

 もう、おしまいだぁ。


 そう思い、二人はまるで死刑判決を聞いている被告人の様な面持ちでアンナの話しを聞いていた。

 しかし、続けて発せられたアンナの言葉に、まず驚き、次に呆気にとられ、そして狂喜する。


「二人とも、よく考えたわね。私も協力するわ、だからカプセルベッドは三つ用意してね」


 逆転無罪を勝ち取ったラーズとウルは予備の材料を使い、超特急でアンナ用のカプセルベッドを作り上げた。互いの目的が一致している事を知った三人は、腹の探り合いや無意味な情報秘匿から解放され、共通の目的に向かい、一致団結して知恵を出し合った。

 その結果、若干遅れ気味だった改装作業の進捗状況が、一気に改善する事となる。

 時間に余裕の出来た三人は、作業を通じてそれぞれの知識を教え合う。アンナは二人からンガ・クトゥンの操縦を学び取る。既にメガ・クトゥンを乗りこなすアンナである、二人のレベルに追いつくまで、さしたる時間はかからなかった。ラーズとウルは、アンナから精霊機甲やンガ・クトゥンの整備術を学ぶ。今までは壊しても、修理は人任せだった二人は、この学習を通してンガ・クトゥンの仕組みを学び取り、その知識を操縦に活かして、更なる実力の向上に繋げていった。ウルは整備や修理も簡単な物は一人でこなせる様になり、ラーズもアンナの助手は務まる程度になっていく。


 そうしてアンナのカプセルベッドが出来上がり、例の隠し部屋に取り付けようと、三人が夜更けにこっそり寝床を抜け出し、無事秘密裏に作業を終えてハイタッチを交わした瞬間である。


「わたしのおへやは?」


 不意に背後からかけられた声に、三人は心臓が口から飛び出る位に驚いた。かろうじて叫び声をあげる事だけは防ぐ事に成功した三人は、自分自身を褒めながら振り返る。


「ねぇ、アンナおねえちゃん、わたしのおへやは?」

「にゃる、がしゃんな?」


 そこには、アビィがナイアルラートと一緒に、ワクワク顔のキラキラの瞳で見上げる姿があった。


「そんなの無いよ」


 ぶっきらぼうにラーズが答える。


「アビィはこの前マージお姉ちゃんと出掛けただろ、今度は留守番……」


 ラーズはラーズで、黙ってついていく事の危険性を理解している。大事な妹分のアビィを危ない目にあわせたくないラーズは、彼女から視線を逸らし、わざと意地悪な口調でそう言葉を続けた。しかしながら、彼の内心を知る術の無いアビィは、その言葉が終わらないうちに顔を歪めて、みるみるうちに瞳に大粒の涙を浮かべていく。

 視線をアビィに戻して、アビィのその姿を認めたラーズは、瞬時に自分自身の失敗を悟り、蒼白になった。そう、今はいつもの調子で泣かせてはダメなのだ!


「バカ!! ラーズ……」


 そうウルはラーズを叱責したが、実の妹を持つ彼とて、アビィの大泣きを止める効果的な手段を持たない。

 狼狽えまくる二人を救ったのは、やはり最年長のお姉ちゃん、アンナであった。


「ごめんなさいねアビィ、あなたの分のお部屋は無いの。あなたはまだ小さいから、一人でおねむは寂しいでしょう、だから私と一緒に寝るのよ、アンナお姉ちゃんと一緒は嫌?」


 その言葉に、アビィは泣き出しそうだった目をクリクリさせて、アンナを見上げる。


「アンナお姉ちゃんと一緒は嫌?」


 もう一度、念を押して優しく聞いたアンナに、アビィは大輪のひまわりの様な笑顔を向ける。


「アビィ、アンナおねえちゃんといっしょがいい」


 御機嫌の笑みを満面に浮かべるアビィを前に、何とか誤魔化して宥める事に成功した三人は、ほっと胸をなで下ろすが、この後どうアビィに対応するかを考えると、急速に気が重くなっていった。


「どうするんだよ、アンナ姉ちゃん、あんな事言って」

「知らないわよ、ラーズが泣かす様な事言ったからでしょう」

「ナイアルラートも一緒だし、仕方ないよ。師匠達にバレない様に、今は仲間に入れておこう」


 ウルがそう締めると、三人は上機嫌でナイアルラートと手を取り合って喜び踊るアビィを見て、大きなため息をついたのだった。


 メガ・クトゥンの最終調整を行いながら、三人はアリシアとマグダラの目を盗み、こっそりとアンナ用のンガ・クトゥンを製作する。野盗の打ち捨てて行ったジャンクの中から使えそうなパーツを選び、組み立てられたンガ・クトゥンは、ラーズとウルのそれに比べて一回り大きい。

 大きくなった理由は、アビィを乗せる為にタンデムシートを付けた事と、数日分の食料と水を積み込む為である。それと、乗りこなせるといっても、アンナは女の子である。暴力を好まない、優しい彼女には近接戦闘は無理だろう。やむなく戦闘になった場合、少し鈍重でも防御力と大火力に主眼を置き、軽快なラーズとウルの機体の火力援護を目的とした設定の機体となった。


 彼等の周到な準備は、ノーデンスの『クマちゃん』の完成目前に最終局面を迎える。


 アンナはメガ・クトゥンの操縦ユニットに、密かに精霊機甲用の魔導クリスタルを組み付け、精霊と契約して、いざという時の備えにしようと考えていた。

 新月の夜、倉庫の資材庫の奥に、厳重に管理され保管されている最高級の魔導クリスタル『輝くトラペゾヘドロン』をこっそり持ち出したアンナ、ラーズ、ウル、そしてアビィの四人は、森の奥の泉で斎戒沐浴をする。

 そうして身を清めた後、四人は大地に精霊召喚の魔法陣を描き、召喚の儀式を始めた。キョウ達にバレないように、魔導結界を張り巡らせるのは、ナイアルラートの役目である。


 儀式は無事終了して、めでたしめでたし……などとすんなり事が運ぶ訳が無い。


 確かにここルルイエ世界では、精霊魔法が一般的となっており、人間と精霊の交流が日常的に行われている。更に四人はマグダラやアリシアの手伝いで、キョウのアザトースやマージョリーのリュミエールの整備、ノーデンスのナイトゴーントの改装作業を通じて、それぞれの契約精霊と交流をもつ機会に恵まれていた。その上、日頃から友達付き合いしているキョウの使い魔妖精、ナイアルラートの存在もあり、精霊に対して人一倍親近感を持っていた。


 召喚した優しい精霊にお願いすれば、万事解決して、計画も一歩前進するに違いない。

 そう考えて、期待に胸を膨らませ、召喚の儀式を開始した子供達は、召喚されて現れた異形の精霊を目にして、自分達の甘さを思い知った。


 魔法陣の中央に現れた『それ』は、禍々しい光を発しながら、辺りに瘴気と殺気を撒き散らす、全身を黒い毛で覆われた、顔の無い怪物であった。


 輝くトラペゾヘドロンという、最高位のマジックアイテムが契約媒体となるのである、どれほど怪物じみた強力な精霊が召喚されても不思議は無い。そして召喚された精霊が強力な程、契約の儀式には伴う危険性が増大して行く。『それ』を目の当たりにした子供達は、本能で生命の危険を感じ、後悔するよりも先に、圧倒的な恐怖に心を支配された。

 恐怖に震える子供達は、ガチガチと歯を鳴らし、舌が思う様に回らず、契約の言葉を発する事が出来ずに、『それ』が自分達に向かい、這い寄る姿を見つめていた。

 そんな恐怖の中、ウルとラーズは、腰を抜かしながらも、必死で『それ』の前に立ち、アンナとアビィを背中に庇った。そんな二人の覚悟も虚しく、『それ』が目前に迫った時、アビィがナイアルラートと一緒に、二人の間をトテトテと歩いて前に出た。そして、まるで手を取る様に、『それ』の黒い毛を握り、大輪のひまわりの笑顔でこう言った。


「アビィたち、マージおねえちゃん、キョウおにいちゃん、マグダラおねえちゃんのおてつだいしにいくのよ。あなたも、いっしょにいく?」


『それ』はアビィの行動に、戸惑う様に動きを止めた。アンナは恐怖に言葉を詰まらせながらも、必死にアビィの言葉の後に続き、『それ』に声を掛ける。


「……私達、どっ……どうしても、マージお姉ちゃん達の役に……、たっ……立ちたいんです。お願い……します、ちっ……力を、貸して……下さい……」


 ラーズとウルの二人も、必死に『それ』に、願いを込めた目で訴えた。


「ソノモノハ、ヨキ、モノカ」


 動きを止めた『それ』は、四人の頭の中に直接語りかける。


「うん、マージおねえちゃんもキョウおにいちゃんも、それにマグダラおねえちゃんにアリシアおねえちゃん、みんなやさしい、いいひとだよ」

「マージお姉ちゃん達、これからマリア病から世界を解放して、全ての娘達を救う戦いの旅に出るんです。私達、どうしてもマージお姉ちゃん達の力になりたいんです」

「お願いします、力を貸して下さい、精霊さん」

「お願いします」


 必死に頭を下げて願い出る子供達の頭上で、ナイアルラートが身構える。彼女の瞳の中には、たとえ刺し違えても子供達を必ず守ると、決意の色がありありと浮かんていた。


「う〜っ、にゃ〜っ!」


 ナイアルラートの姿を認めた『それ』は、慈しむ様に声なき声を発する。


「ワガケンゾク……、イキノコリガ、イタノカ……」


『それ』は自らが発散していた禍々しい殺気と瘴気を吸収すると、黒い静謐な光を放ち、仮面を被りローブに身を包んだナイトの姿に変貌していく。ナイトはアンナとアビィには、凛々しい青年の姿に、ラーズとウルには、凛とした少女の姿に見えていた。


 放心状態の子供達の前に跪き、ナイトは誓いの言葉を口にする。


「いと小さき者共よ、吾は汝等の望みを叶えよう。吾は今より汝等の父の様に敵を打ち倒し、母の様に危険から守護する事を誓う。汝等を助ける者に栄光あれ、仇なす者に永遠の呪いあれ」


 そう言うと、ナイトは子供達の手を取り、その手の甲に誓いの接吻を捧げた。そして静謐で清らかな黒い光の粒子になり、輝くトラペゾヘドロンの中に消えて行った。


 こうして契約の儀式を終え、満面の笑顔で輝くトラペゾヘドロンのクリスタルを拾い上げ、頬ずりしてきゃいきゃいとはしゃぐアビィとナイアルラートとは対照的に、アンナ、ラーズ、ウルの三人は、全身から力が抜け、その場にぺたりとへたり込む。


「ラーズ……、お前チビってないよな……」

「……チビってなんか……、ないやい」


 震える声で、ウルがラーズに尋ねると、ラーズも震え声ながらも気丈に答えた。


「……わ、私……、お、お漏らししちゃった……」


 真っ赤になって、恥ずかしそうに俯き、アンナがそう告白すると、驚いた様な罰の悪そうな顔でラーズとウルが彼女を見つめた。


「……実は……、僕も……」

「……本当は……、オイラもなんだ……」


 おずおずと告白し合った三人は、お互いの顔を見つめ合う。そして……


「「「あ〜ん、怖かったよ〜」」」


 堰を切ったように、三人は抱き合って大泣きを始めた。


「……ほへ?……」

「にゃる、にゃる?」


 抱き合って大泣きする三人を、不思議そうに目をパチクリさせて見つめるアビィとナイアルラートであった。


 翌早朝、いつ洗って干されたのか、全く記憶の無いパンツが三枚、ズボンが二着、そしてスカートが一着、物干し竿で風に吹かれているのを発見し、「はて?」と首をかしげるマージョリーがいた。


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