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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第一章 セラエノへ
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メガ・クトゥンカスタマイズに関わる四方山話②

「なんだかんだ言ってたくせに、結局あんたも同じじゃないの、マグダラ!! 何が『狭い個室に閉じ込めて来た』よ、だいたいアンタの貧相な胸を押し付けられても、キョウが満足するはずがないでしょう!!」

「それを言うなら、アンタの下手くそなマッサージなんか、マスターを満足させられる訳ないじゃない!!」


 二人の視線がぶつかり合い、激しく火花を散らす、こうして二人の罵詈雑言の合戦の火蓋が切って落とされた。


「言ったわねぇ〜、この貧乳ロリクソババァ!!」

「なっ……、貧乳……!?」


 マージョリーの罵倒に、マグダラの額に青筋が浮かび上がる。しかし彼女も負けてはいない、したり顔のマージョリーに熨斗をつけて罵倒を返す。


「言ったら何だってのよ、この乳だけビッチ!!」

「くっ……、乳だけ……!?」


 マージョリーの目尻が痙攣する。


「「うぬぬぬぬ~っ!!」」


 呆れ顔でため息をつき、目を閉じて首を左右に振るキョウを余所に、二人は額を押し付け合い睨み合う、そして争いは口から身体を使うものへと、そのステージを移行するのであった。


「前からあなたとは、一度決着をつけなくてはいけないと思っていたの、マグダラ」


 マージョリーはそう言って、右手に握ったハリセンを上段に構え、振り下ろした。室内に鋭い風斬り音が鳴り響く。


「あら奇遇ね、私も同じ事を考えていたのよ、マージ」


 マグダラは静かに右腕を肩の高さに上げ、そのまま前に真っ直ぐ伸ばすと、手にしたハリセンを床と水平にして剣先に左手を添えた。その構えには一分の隙も無い。


「覚悟は良くて、泣きべそ大将軍」

「私の前では二度と実体化しようなんて思えなくなる程に、ギッタンギッタンにしてやるわ、ツルペタ軍師様」


 こうして始まった二人の激しい怒号とハリセンの応報を横目に、キョウとアリシアはいつもの事と淡々とテーブルや椅子を部屋の隅に移動し、座り直した。


 マグダラやマージョリーが、キョウに過剰な迄の執着を示すのは仕方の無い事かも知れない。


 マグダラは三百年の孤独を二人のマリアへの想いと、初代ネオンナイトのロニーへの淡い恋慕の念で癒し、耐える力にしてきた。そうした末に巡り会ったロニーの魂を受け継ぐキョウである。

 彼の人格と能力、卓越した戦闘能力は当然として、無意識に自分を顕現させる膨大な魔力量、それは自分を実体化すらさせる程のものである。これに触れたマグダラの心に、ブレーキがかかる筈など無かった。


 片やマージョリーの方はといえば、これはこの時代のルルイエ世界の娘に共通の特色である。

 マリア病で20年という短い命の彼女達は、物心ついた頃から常に、野盗の娘狩りに怯えて暮らしていた。また、血族後継者の確保に奔走する有力者、権力者に見染められた場合、有無を言わさず、というケースも枚挙にいとまがない。

 後者の場合、お互いに合意して幸せに結ばれるカップルもあるが、大抵は娘達にとって意に沿わぬ婚姻であり、場合によっては、大きく年齢の離れた相手との結婚を強いられ事もあった。

 よって、ルルイエの娘達は、そのいたいけな小さな胸の中に、大好きな人と結ばれ、その者の腕の中で旅立って逝きたいという願望を、幼い頃から強く抱き続けている。

 彼女達は夜、寝床に着いた時、今晩もどうか野盗の襲撃がありません様に、そしていつか、大好きなあの人のお嫁さんになれます様にと、天井の染みを見つめながら強くそう願い、瞼を閉じるのだった、毎日、毎日。

 従って、全ての軛から解かれ、結婚に対して完全な自由を得た娘は、それまでの精神的抑圧の反動からか、周囲が驚く程に極的な行動に走る傾向にあった。


 意中の彼が競合した場合、血を見る事も珍しい事ではない。


 今や完全な自由を得たマージョリーは、更に嫁ぎ遅れという事実が後押ししている。孤児達の為に、全てを諦め捨て去った彼女に、その全てを拾い集め、再び差し出してくれたキョウに対して、フルスロットルで向かわない道理は無い。


 かくなる理由で、マグダラとマージョリーの恋の鞘当て鍔迫り合いは、二人が出会った瞬間に開始された。彼女達の恋愛事変は激化の道を進む一方で、沈静化の兆しが見える気配など寸毫も無い。開戦当初は調停役を務めたキョウも、直ぐに匙を投げ出し、既に孤児達にもお馴染みの、日常のひとコマとなっていた。


 ほのぼのとした日常の、変わるべくもない予定調和を、いつも通りに終わるまで待とうと微笑みとも苦笑ともつかない笑みを浮かべ、キョウは大切な二人を眺めやり、腰を落ち着ける。


 しかし、この日はいつもと少々異なる展開をたどる事となった。


 何故ならここにはもう一人、全てのくびきから解放された娘っ子が存在していたからである。彼女は意中の男が、女連れで長期間の旅に出るのを目前とした今、秘めたる想いを表明し、強大な敵が争っている隙に乗じて、彼の心の中に確固たる橋頭堡を築こうと静かに敵前上陸を敢行するのだった。


「キョウ様、私のアイデアを聞いてもらえますか?」


 てきぱきとお茶を淹れながら、アリシアがつぶらな瞳をキョウに向ける。


「私は留守番と後方支援という大事な役割があるので、旅には同行出来ません。情報や資金をお届けするのも、私子飼いのエルトダウン・シャーズの仕事になりましょう」


 ティーカップをキョウの前に置きながら、アリシアはもじもじと言葉を続ける。


「ですが、重要な情報をお届けする場合、私自ら馳せ参じる事もあるかと存じます。ですので、その時の為に私の宿泊施設も有ると助かります。いえ、贅沢な事は言いません。こちらの狭い個室に二段ベットを置いて、お姉さまとマージ様の部屋にします。そして、キョウ様の広い個室にダブルベッドを用意しますので、私が赴いた時には、そこで眠らせて頂ければ結構です。勿論、キョウ様が望まれるのなら、眠らせてもらえなくても……」


 個室のデスクに向かい、もたらされた最新情報を検討していたキョウは煮詰まったのか、大きなため息をついて椅子の背もたれに身体を預け、瞼を揉んでいた。


「キョウ様、あまり根をつめると身体に毒ですよ」


 声をかけられ、キョウが振り返ると、ティーカップとポットを載せたトレイを持ったアリシアが、心配そうな表情で立っていた。


「ああ、アリシア。君の持って来た情報が、みんな有益で重要なものばかりだから、つい」

「いけませんわ、少しお休み下さいませ」


 アリシアはそう言うと、デスクの上にティーカップを置き、お茶を淹れ始めた。

 お茶はいつもアリシアが淹れる物とは違う香りがした、キョウの鼻腔をくすぐる香りは、彼にとって懐かしい香りだった。


「この香りは……!? 」

「お気づきになりましたか、キョウ様。以前キョウ様がお話して下さった、輝ける夢幻郷ニホンでよくお飲みになっていたという『こぉひぃ』なるお茶によく似た風合いの銘柄を見つけまして、是非お試しいただこうとお持ちしました。いかがですか?」


 キョウはカップを手に取り、まず香りを楽しむ。そしてひとくち口に含むと、思わず目を閉じて、懐かしそうな表情を浮かべた。


「ありがとう、アリシア。よく見つけてくれたね、大変だったろう?」


 褒められて有頂天のアリシアは、屈託の無い無邪気な笑顔をキョウに向ける。


「いいえ、とんでもありません。キョウ様の為なら、お安い御用です。でも……」


 アリシアは少し怪訝な表情を浮かべ、疑念をキョウに投げかけた。


「酸味と苦味が強くて驚きました。本当にキョウ様の世界では、こんなお茶が飲まれているのですか? 正直私には信じられません」

「確かにダメな人も居るね、国によっては少数派な所もある。でもね、この風味にハマると、病みつきになるんだ。酸味と苦味がきつければ、ミルクや砂糖で和らげる事も出来るしね、いろんな飲み方が楽しめるんだよ」

「なるほど、それは試してみる価値がありそうですわ」


 新たなビジネスチャンスの予感に、アリシアは一瞬だけ思案顔を浮かべ、更なる問いをキョウに投げかける。


「お茶受けには何が合いますか? キョウ様。私が今回用意した物が合うと良いんですが……」

「そうだね、甘い物が定番だけど、チーズなんかも良く合うよ」

「ふむふむ、甘い物が定番で、チーズも合うと……」


 アリシアはキョウの言葉を忘れない様に、ポケットから取り出したメモ帳代わりの陶片に念を刻み、記録した。


「なら、私が今回用意した物も大丈夫ですね、とびっきりのお茶受けを用意しましたのよ」


 満面の得意顔で宣言したアリシアの言葉に、キョウは好奇心をくすぐられる。


「それは楽しみだね、そのお茶受けは一体何だい?」

「ふっふっふ、キョウ様、よくぞ聞いて下さいました!!」


 キョウの質問に、アリシアは不敵な含み笑いを浮かべ、待ってましたとばかりに答えた。


「それは私ですわ!!」


 いつの間にか全裸になったアリシアが、キョウの胸に飛び込み、思い切りしがみついて頬ずりをする。


「……ああん、キョウ様、遠慮なさらずにお召し上がり下さいませ。お邪魔虫のお姉様とマージ様なら、隣の狭い個室に封印して閉じ込めてありますからご安心下さい。さあ、あちらのダブルベッドの上でご賞味下さい。あん、キョウ様、素敵、あん、いけませんわ、いえ、いけなくありませんわ、あはん、今夜は私を眠らせないで下さい。いやん……、うふん……、そこん……、なんちゃって……。痛い、痛いですわ!!」


 自分で自分を抱きしめ、クネクネと身体を動かしながら、幸せエロ妄想を全開で暴走させるアリシアが、頭を抱えてうずくまる。その背後には、絶妙なコンビネーションで彼女の後頭部にハリセンを炸裂させたマグダラとマージョリーが、綺麗な残身を決めて立っていた。


「いきなり何をするんですかお姉様、マージ様、二人がかりで後ろからなんて、卑怯です~」


 よほど痛かったのだろう、アリシアは小刻みに身をよじりながら抗議の声をあげている。そんな彼女をマグダラとマージョリーの二人が、それぞれ般若と夜叉の表情で見下ろしていた。


「「ア~リ~シ~ア~」」

「私達をお邪魔虫呼ばわりするなんて、どういう事かしら」

「封印して閉じ込めるとは、いい度胸ね」


 般若と夜叉を目の当たりにしたアリシアは覚悟を決めて、ゆらりと立ち上がる。彼女の両手には、どこから手にしたものか、ハリセンがしっかり握られていた。


 いつもの天真爛漫なアリシアとは、全く別人の荼枳尼(だきに)と化したアリシアががそこにいた。二刀流のハリセンを構え、静かにアリシアは、二人に対して宣戦を布告する。


「お姉様、マージ様、ついにこの日が来てしまいましたわね。実は私も、この件につきましては、お二人が相手でもお譲り出来ませんの」


 アリシアの宣戦布告に、マグダラとマージョリーは驚く事も無く、即座に受けて立つ姿勢を表明した。


「いつかこんな日が来るんじゃないかと、薄々予感はしていたけど、覚悟は出来てるわね、アリシア」

「誰が何人相手でも、キョウは絶対渡さないわ!!」


 名状しがたいオーラを纏った三人娘の視殺戦が開始される、破壊光線さながらの熱視線は空中で絡まり合い、天高く舞い上がってぶつかり合い、炸裂する。


「お姉様、マージ様、()き遅れのオバサン二人相手に、適齢期の私が不覚をとるつもりはありませんわ」

「アリシア、マージ、三百年の想いの深さ、とくと思い知ると良いわ」

「マグダラ、アリシア、崖っぷち娘の底力、今からたっぷり教えてあげる」


 三人娘の気合いが充実し、裂帛の雄叫びと共にハリセンを振りかざし、今、正に激突せんとしたその時である。キョウはお茶を飲み終え、静かにテーブルの上にカップを置いた、そして……


 工房の設計室の中に、ドガッ!バシッ!ガスッ!という三つの炸裂音が鳴り響き、もうもうと煙が立ち込める。

 煙が晴れた設計室には、頭頂部に大きなたんこぶを拵えた三人娘が、綺麗に並んで正座させられていた。項垂れる彼女達の前で、キョウは静かに問いかける。


「今は何を話し合うんだっけ、みんな」


 普段は優しいが怒ると際限なく厳しい生活指導の先生に、初めての校則違反を見咎められた真面目な女生徒の様に、三人娘は首を竦めて謝罪する。


「マスター、申し訳ありません」

「ごめんなさい、キョウ」

「キョウ様、お許し下さい」


 軽くため息をついてから、キョウは彼女達の謝罪を受け入れ、話しを元に戻した。争点のプライベートスペースについて、思いついたアイデアを開陳する。


「僕のいた日本の簡易宿泊施設に、こういうのが有るんだけど……」


 キョウはカプセルホテルの概要を三人娘に話して聞かせる、そして有無を言わさず横開き式のカプセル個室を四つ設置する事を決定した。そしてナイアルラートに命じてアンナとウルを呼び出すと、これに沿った設計をして改装する様にと言いつける。キョウは三人娘に任せると、ロクでもない方向に焦点がズレて、際限なく進みグダグダになって行くのを目の当たりにし、彼女達の手から切り離して子供達の課題として任せる事に決めたのだった。


 分からない事、困った事があったら、他の誰でもない、僕に相談する様にと念を押すと、ぶーぶーと文句を言う三人娘を、左の拳にはぁ〜っと息をかける動作で黙らせ、アンナとウルの背を見送った。


 しかしキョウの目論見は、別の意味で大きく裏切られる結果となる。子供達の『自分達も役に立ちたい』という想いの強さと、子供らしい冒険心と悪戯心について、神ならぬ彼は全くと言って良いほど見誤り、そして失念していた。


 そうして完成するメガ・クトゥンには、思いもよらない秘密が子供達の手により設置されていよう事など、この時点でのキョウには、全く知る由もなかったのである。


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