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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第二部第一章 セラエノへ
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ダンウィッチ攻防戦始末記、もしくは真っ白になった人達 マージョリー編

「何でこうなるのよ!?」


 マージョリーは、二足歩行機ンガ・クトゥンを必死に操りながら、この理不尽な仕打ちに対して心の底から抗議の声をあげていた。

 彼女は今、信じられない程の『正確で精密な射撃』の標的になっている。よけても避けても逃げても、正確に彼女の動きを予測して放たれる弾丸は、しっかりとマージョリーという的を捕捉して離さない。


 マージョリーのンガ・クトゥンにも、同じ弾丸を放つべく射撃武器が備えられているが、彼女にそれを使う余裕など存在しない。

 実力が数段とか、段違いという表現が陳腐になるほど隔絶した敵手がそれを許さなかった。


 射撃の主は、マージョリーのンガ・クトゥンが避けて移動し、着地する瞬間の足下を狙い、弾丸を撃つ。それを避けてマージョリーは足を上げる、射撃の主は反対の足下を狙い撃つ、上げる、反対の足下、上げる、また反対の足下。両足を上げると、乗員保護のロールバーを狙い、地に伏せれば連続射撃で転がされ、必死の思いでマージョリーが自機を立て直し、立ち上がらせると、又最初から繰り返し。

 射撃の主は、マージョリーのンガ・クトゥンに、見事なまでに無様なカンカン踊りを踊らせていた。


「説明ならさんざんしたでしょう! つべこべ言わずに、真面目にやんなさい!」


 遥か前方で、両手をメガホンにして叱咤しているのは、闇の端女(はしため)という悪名を持つ、実体を持たない少女マグダラである。


 理由は分かる、充分納得がいく、しかし……。


 しかし、幾らなんでもこの状況は反則だろう、他の方法は無かったのか?


 何処にもぶつけ所が無い、やり場の無い不満がマージョリーの集中力を削いだ、その時。


「あ痛ッ!」


 マージョリーの顔面に弾丸が炸裂した、弾丸は訓練用のペイント弾で、命中しても生命に危険は無いが、とても痛い。


 ペイント弾は次々と命中し、操縦するンガ・クトゥンもろともマージョリーは、色とりどりに染め上げられた。


「ちょっと待って! タンマタンマ! キャーッ!」


 ペイント弾の濃密な弾幕をまともに喰らったマージョリーは、たまらず操縦ミスを犯し、盛大にンガ・クトゥンを転倒させた。


「大丈夫か、マージ?」


 転倒したマージョリーのンガ・クトゥンの許に、もう一機のンガ・クトゥンが近づいて、操縦者が彼女に笑いながら声をかける。


「意地悪! ちょっと待ってって言ったじゃない!」


 マージョリーがむくれて口を尖らせながら、近づいて来たンガ・クトゥンの操縦者の男に抗議した、この男が彼女のンガ・クトゥンにカンカン踊りを踊らせていた張本人だった。

 男はマージョリーの抗議を、莞爾とした笑みを浮かべて受け止める。


 彼はルルイエ世界で最高金額の賞金を懸けられたB級賞金首にして、最強の賞金稼ぎ。

 ルルイエ世界に闇と渾沌をもたらす、ネオンナイトの称号を持つ、最強の機械魔導師にして精霊騎士、名前を相沢恭平ことキョウという。


 キョウは頭を掻きながら、マージョリーの抗議に答える。


「悪い悪い、でも前に言ったろ、マージには時間が無いんだし、早く強くなるためには……」

「ギリギリの刹那の中から、体験して掴み取るしか無い! 分かってるわよ!」


 マージョリーはキョウの言葉が終わるのを待たず、そう言いながら倒れた機体を立て直し、口を尖らせてプイと横を向いた。


 そんな彼女にマグダラが雷を落とす。


「何を言ってるの、マージ! この特訓は、元々あなたから申し込んだのでしょう! だから私もこのンガ・クトゥンを造ったってのに、全く情けない!」


 こう言われると、マージョリーは何の反論も出来ない、肩を竦めながら、罰の悪そうな表情を浮かべていた。


 マグダラの言った通り、特訓を申し出たのはマージョリーだった、理由は二つ。


 まず一つは、超長距離魔導槍砲の扱いである。

 前のダンウィッチ防衛戦で、初めて超長距離魔導槍砲を撃ったマージョリーは、その桁違いの威力に戦慄した。

 その破壊力が周りに及ぼす影響を考えると、これを撃つ時には絶対に失敗は許されない、そしてキョウやマグダラのアシストが得られない局面も有るだろう。


 何としても、自分一人で完璧に使いこなさねば!


 そうマージョリーが覚悟した事。


 もう一つは、あの戦いで真の姿、クティーラ四号機『ラヴクラフト』となった筈のマージョリーの精霊機甲が、何と一夜明けるとリュミエールの姿に戻ってしまっていた事である。


「あの覚醒は、火事場の馬鹿力だったのね!」


 と、悔しがるマグダラを横目に見ながら、内心ラヴクラフトが、父の形見のリュミエールの姿を取り戻した事に少しホッとしたマージョリーだった。


 しかし同時に彼女は、ダンウィッチの戦いの後半で、自分の未熟さを痛い程思い知っていた。

 そして真の力を発揮したラヴクラフトの名状し難い底知れぬパワーは、今後ルルイエ世界をマリア病から解放する戦いを挑むために、必要不可欠なファクターだという事も自覚している。


 ルルイエ世界をマリア病から解放するためには、自分の実力の底上げと、サードマリアへの覚醒を確かな物にしなくてはならない。

 この想いを胸に、マージョリーはキョウとマグダラに特訓を申し出たのだった。


 その意気や良し!


 とマグダラが特訓用に、精霊機甲と全く同じ操縦席のンガ・クトゥンを突貫で組み上げたのだった。実際に組み上げたのは、アリシアと孤児院の子供達なのだが、それは言わない約束である。


 そんな経緯があり、泣き言を言ったマージョリーに、マグダラは活を入れたのだ。


 しかし、それはそれとして、マージョリーには腑に落ちない事が一つ有った、思わずその事柄が愚痴となり口をついてこぼれる。


「それにしたって、剣しか装備していないアザトースに乗ってるのに、キョウのあの射撃能力は何なのよ! 射撃上手のハスタァだって、あそこまで正確な射撃なんて無理、あんなの反則よ! 聞いてないわ!」


 マージョリーの愚痴に、キョウとマグダラは思わず顔を見合わせた。

 そしてキョウは、やれやれという表情で笑みを浮かべ、マグダラは堪えきれずに吹き出した。


「何よ! 何が可笑しいのよ!」

「マージ、アザトースの武装は剣だけじゃないのよ、使う必要が無かったから、見せていないだけ。それにあなた、私のマスターを一体誰だと思っているのかしら?」


 憤るマージョリーを、笑いすぎの涙目で見ながら、マグダラが呆れ気味な口調で話す。


 その口調にカチンと来て、口をへの字にして睨むマージョリーを見下ろし、マグダラが話を続ける。


「マスターはね、輝ける夢幻境ニホンでは、コウクウジエイタイという騎士団に所属していたのよ。」

「コウ……クウジエイタイ……」


 思わぬところから、キョウの過去の話となり、マージョリーは神妙ではあるが、興味津々ミーハー丸出しの目つきとなる。


「マスターはその騎士団で、電子という妖精と契約し、機械の怪鳥を縦横無尽に操っていたの」

「そ、それで?」


 身を乗り出して聞き入るマージョリーに、マグダラはすまし顔で講義を続ける。


「マスターの操る機械の怪鳥が放つ炎の飛礫と火焔の投げ槍は百発百中の精度を誇り、最強騎士の名をほしいままにしていたの。その勇名はニホンだけじゃなく、近隣諸国の騎士団にも鳴り響いていたのよ。ハスタァなんかと一緒にしないで欲しいわ」

「おおーっ」


 エッヘンと胸を反らすマグダラの言葉に、思わずパチパチと拍手をしながら、敬意を新たにキョウを見つめたマージョリーだった。


 しかし、すぐに思い直し、抗議の声をあげる。


「だったら、少し位手加減してくれたって……」


 マージョリーの言葉を遮り、マグダラはニヤリと笑いながら答えた。


「手加減ならしてるわよ、当たり前じゃない」


 まさか、と目を剥くマージョリーに、マグダラは言葉を続ける。


「マスターが本気になったら、一ミット(我々の時間に換算して、約一分)に六千六百発の飛礫を放ち、火焔の投げ槍は狙わずに投げても、地獄の底まで敵を追いつめて殲滅するの。今のあなたが相手なら、一瞬で消し飛んじゃうわよ」


 思わず「うへぇ」と、額に冷や汗を浮かべるマージョリーに、マグダラは淡々と現実的に必要な努力目標を突きつけた。


「超長距離魔導槍砲を自在に扱いたいのなら、あなたもその位の射撃スキルを身につける必要があるわ」


 非常識な努力目標を呈示されたマージョリーは、「へっ?」という目で、マグダラを見た。


「可及的速やかにね、マージ」


 屈託の無い笑顔を浮かべてそう言ったキョウの前には、この先の特訓の苛酷さを思い、真っ白になったマージョリーがいた。


「……うそ……」


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