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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
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覚醒

 異変に気がついたディオの親爺が、銀の甲冑の男を指差した。


「どうやら、まだ終わっておらん様だ」


 銀の甲冑の男が、高笑いをして一同を睥睨(へいげい)する。


「我が名はウィルバー・ウェイトリー。アーミティッジの内なる双子にして、貴様らを打ち倒す者だ」


 不遜な態度で名乗りを上げた男に、マージョリーは見覚えがあった。


「あいつは!」


 あの顔は忘れもしない、かつて娘狩りに遭った時、ウォーランの隠れ家で、非情にも自分を殺せと命じたあの騎士だ!!


 マージョリーの復讐心に火がついた。


 そんなマージョリーなどお構い無しに、ウィルバーは言葉を続ける。


「満身創痍の機械魔導師が二人に、魔力を消耗したネオンナイト。後は小娘と老いぼれとガキ共、アーミティッジは良い仕事をしてくれました、後はこの私が我が精霊機甲ラーン=テゴスを以て、捻り潰して差し上げよう」


 そう言ったウィルバーの背後に、精霊機甲ラーン=テゴスが顕現した。


「ふん」


 ラーン=テゴスを一瞥し、アザトースに乗り込もうとするキョウを、マージョリーが呼び止める。


「待って、キョウ。あいつは私が倒す」

「マージ?」

「私はどうしてもあいつを倒さなきゃいけないの、倒す理由が有るの!」


 マージョリーの決意の目に、キョウは微笑んで答える。


「分かった、任せる。行ってこい、マージ!」


 マージョリーの顔が、パッと輝く。リュミエールに乗り込みながら、キョウに礼を言った。


「ありがとう、恩に着るわ、キョウ」


 リュミエールとラーン=テゴスが対峙する、リュミエールの武装はダゴンとヤマンソ、ラーン=テゴスの武装は両腕の鋏と、先端が鋏になっている四本の触手である。


「小娘とは歯応えの無い、ラーン=テゴスの鋏の錆にしてやろう」


 六つの鋏の波状攻撃が始まった、両腕の鋏が、伸縮自在の四本の触手の鋏が、幻惑しながらリュミエールに襲いかかる。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、無抵抗でも容赦はせんぞ!」


 マージョリーは、ウィルバーの言葉通りに、無抵抗でラーン=テゴスの攻撃を受けていた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、どうした? その二本の剣は飾りか? それともこのラーン=テゴスの鋏の舞いには手も足も出ないか?」


 マージョリーは何故か抵抗する素振りも見せようとない、アリシアやハスタァ、ディオの親爺やノーデンスは気が気ではない、子供達も悲鳴をあげながら心配そうに見つめていた。


「この痛みは、バカだった私自身への罰」


 マージョリーは鋏による攻撃を受ける度に、自分に言い聞かせる。


「この痛みは、使命から逃げていた私自身への罰」


 マージョリーの中に、今現在マリア病で死せる娘達の、そして遺される者の想いが流れ込む。

 愛する者を遺して逝く悔しさが、心残りが。

 成す術なく送らねばならない怒りが、無力感が。

 この世界を覆う虚しさが、どうしようもない悲しさが。

 天地が日に日に言祝ぎを失い、精霊達が涙に暮れ、世界が活力を喪って行くのを。


 自分は娘狩りを経験し、マリア病のもたらす真の悲しみを知っていた、本当は気がついていた、でも知らないふりをしていた。力が有るのに、立ち向かおうとしなかった。


 この痛みは、そんな情けない、意気地無しだった自分自身への罰。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、そらそらそらそら、ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、どうした、どうした! 」


 ラーン=テゴスの波状攻撃に、リュミエールは傷だらけとなり、弾き飛ばされて地面に叩きつけられた。


 皆が心配する中、キョウとマグダラはマージョリーの勝利を確信していた。


「そろそろかな、マグダラ」

「はい、そろそろですわ、マスター」


 皆が見守る中、マージョリーはリュミエールを立ち上がらせた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、そろそろ(とど)めを刺してやる! ウ~ザ、イェ~イ!」


 一層激しさを増す六つの鋏の波状攻撃を、マージョリーはキョウ直伝の、後の先を取る蜃気楼の様に揺らめく機動でリュミエールを操り、かわしていく。


「何!?」


 有り得ない機動に、ウィルバーは度肝を抜かれた。


「私は! 私は戦う!」


 マージョリーの目が、泣き腫らした様に真っ赤に輝く。


 それはこの世界の悲しみを背負い、戦うと誓った者が、マリア病で死せる娘達、遺される者達、天地と精霊達に成り代わり、血の涙を流し尽くした後の目の輝きだった。


 今、サードマリアが覚醒した。


 マージョリーの覚醒と共に、真っ赤な光の柱がリュミエールを中心に天地を貫く。


 リュミエールが優美な女性的なフォルムに変形して行く。それに伴い武装も紅蓮剣ヤマンソが火神剣クトゥグアに、聖水剣ハイドラが水神剣クタァトに進化した。


 一同は驚愕と畏敬の眼差しで、その変化を見守った、ただ一人、このからくりを知る者を除いては。


「やったわね、マージ! これぞリュミエールの真の姿! 愛が産み出し、愛が守り、希望の光を育て、愛を育み造り出す精霊機甲! その名はクティーラ四号機『ラヴクラフト』よ! 二人のマリアとこの私が丹精込めて組み上げた最後の、そして最高の機体よ! さぁ、マージ! 見事使いこなして見せなさい!」


 そのただ一人、マグダラが大見得を切る。


「ラヴ……クラフト……、行ける! 私に力を貸して、ラヴクラフト!」


 突然の出来事に、一瞬呆けたマージョリーだったが、すぐに我に返ってラヴクラフトを翻す。


「そんな物はこけおどしだ! 今一度、ラーン=テゴスの鋏の舞いを受けてみよ! ウ~ザ、イェ~イ!」


 二機の精霊機甲が交錯する、しかし、最早勝負の行方は明らかだった。

 ラーン=テゴスの激しい波状攻撃を、マージョリーのラヴクラフトは易々とかわしていく。


「ば……馬鹿な! ? 鋏の舞いがこうも簡単に……、ウザ・イェイ、もっと早く! ウザ・イェイ、動くのだ! ラーン=テゴス!」


 半狂乱となってラーン=テゴスを操り、鋏を振り回すウィルバーは、虚実を織りまぜて何体にも分身している様に見えるラヴクラフトに、まるで場違いな舞踏会に出席させられ、無様なステップを踏み続ける道化師(ピエロ)の様な醜態をさらし、に翻弄されていた。


「あの動きは……『黒い仮面舞踏会』! ? 聖魔剣ブラックモア無しで再現するとは……、あのカワイコちゃん、末恐ろしい才能の持ち主じゃのう」

「だろう、マージは本当に最高の弟子だ」


 マージョリーの才能に、最早驚くのを通り越して呆れた声を発するイブン・ガジに、キョウが誇らしげに答える。


「まだまだこれからだ、マージはもっと凄い事をやって見せるぞ」


 キョウが言い終わらないうちに、マージョリーはクトゥグアにプラズマの刃、クタァトに絶対零度の刃を展開して、ラーン=テゴスの触手を切り落とした。


「反対属性の極大魔法の同時展開じゃと、黒い仮面舞踏会を繰り出しながらやってのけるとは……。儂、自信喪いそうじゃ……」


 もしイブン・ガジが肉体を保持していたら、口をあんぐりと開け、目が点になっていただろう。


 しかし、対峙しているウィルバーにとっては、それどころでは無い、小娘と侮ったツケをその身で払う彼は、名状し難いマージョリーの力の解放に、恐怖以上の感情を抱いていた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ。何なのだ、この娘は……、鋼鉄(アイアン)機械魔導師(マン)と呼ばれたアイオミ卿を倒したこの私を圧倒するとは!?」

「私はマージョリー。マージョリー・リュミエール・アイオミ! トニー・リュミエール・アイオミの娘よ!」


 マージョリーの言葉に、ウィルバーは八年前の、ウォーランの隠れ家での出来事を思い出す。


「あの時の小娘か、ウ~ザ・イェ~イ! 復讐心が力の源か!?」

「いいえ、違うわ……」


 マージョリーはラヴクラフトを操り、火神剣クトゥグアと、水神剣クタァトを組み合わせる、二本の剣は融合し、氷焔剣アムーフ=ザーに進化する。


「ついさっき迄は、確かに復讐心だったけど、今は違う」


 マージョリーはアムーフ=ザーに、プラズマと絶対零度が融合してモザイクの様に織り成す刃を展開し、ラーン=テゴスに悠然と近づいて行く。


「ならば、ウザ・イェイ、何がウザ・イェイ……」

「ただ許せないだけよ」


 マージョリーがそう言った瞬間、ラヴクラフトは動作も見せずにラーン=テゴスの四肢と触手を切り飛ばした。地面に転がるラーン=テゴスに刃を向け、マージョリーは宣言する。


「私は許さない、マリア病の原因となるものを。私は許さない、マリア病がもたらす全ての悲しみを。私は戦う! そしてマリア病からこの世界を解放する! サードマリアとしてではなく、一人の娘、マージョリー・リュミエール・アイオミとして!」


 ラヴクラフトがアムーフ=ザーを一閃させる、しかし、一瞬早くラーン=テゴスがその刃を回避する。


「ウ~ザ・イェ~イ、ここは分が悪い、転進させて貰う! ウ~ザ・イェ~イ!」


 ウィルバーは全魔力を逃げの一手に集中し、ラーン=テゴスを飛翔させ、急速に遠ざかって行った。悔しそうに見送るマージョリーに、マグダラが大声で指示を出す。


「何やってるのよ! マージ! あんなのさっくり落としちゃいなさい!」

「でも、あんなに離れちゃ……」


 マグダラはマージョリーの反論を許さない。


「超長距離魔導槍砲が有るでしょう、余裕で叩き落とせるわ!」


 マージョリーはマグダラの言葉に若干引いた、なぜなら……


「あれ、私、使った事無いのよ、せめて一回練習してからじゃないと……」


 しかし、マグダラは耳を貸さない。


「今が良い練習の時よ! つべこべ言わずに展開しなさい」

「もう、どうなったって知らないわよ!」


 マージョリーは自棄になって超長距離魔導槍砲を展開した、リュミエールがラヴクラフトに変形した事に伴い、超長距離魔導槍砲も蕃神からクトゥルフに進化していた。ラヴクラフトが、遠ざかるラーン=テゴスに向けて、クトゥルフを構える。


「全くもう、勝手なんだから」


 ぶつくさ文句を言いながら、マージョリーが照準を合わせようとした時、背後からラヴクラフトを支える物が有った。


 マージョリーが驚いて振り返ると、そこにはキョウのアザトースの姿が有った。


「マージ、魔力制御と威力相殺は僕がやる、周りへの影響は心配するな」

「絶対零度とプラズマと超高重力のバランス調整は私に任せて。マージ、あなたは最大魔力であいつを叩き落とす事に集中して」


 前に向き直ると、マグダラが砲口の上に立ち、こちらを振り返り微笑んでいる。


 周りを見ると、ディオの親爺、アリシア、ハスタァ、ノーデンス、そして大好きな子供達がコルナを送り、自分を応援している。


 もう一度前を見ると、マグダラが高々とコルナを掲げている。振り返ると、キョウが最高のコルナを送っていた。


 私は一人じゃない! 導いてくれる人、応援してくれる人、供に戦ってくれる人がいる、だから……

 マージョリーは最高の笑顔で、皆にコルナを返した。


 そして一度深呼吸をして集中する 、三叉の槍の穂先に、それぞれ赤いプラズマの輝き、青白い絶対零度の輝き、黄色い大地の輝きが眩く光る。三つの輝きは、やがて一つに集束して爆縮を始める。

 マージョリーは、強大過ぎる魔力が集束し、暴れる操縦桿を必死に押さえつけて機体を安定させる。そしてラーン=テゴスをターゲットスコープの中心に捕捉した。


 マージョリーとキョウ、そしてマグダラの心が一つになる。


「今だ、マージ!」

「今よ、マージ!」

「いっけぇええええええええ!」


 マージョリーがトリガーを絞った。



「ウザ・イェイ、ここまで逃げればもう追い付けまい」


 充分に距離を稼いだと判断したウィルバーは、やっとの思いで一息ついた。

 しかし用心深いウィルバーは、スロットルをベタ踏みにしたまま、最大速度を維持してラーン=テゴスを飛翔させている。


「断章の予言が始まった、急いで白騎士様に報告せねば……、何っ!?」


 スロットルをベタ踏みで開けているはずなのに、ラーン=テゴスがみるみる速度を落としている。


「何だ? どうした、ラーン=テゴス」


 魔導炉は最大回転で悲鳴を上げている、それなのに速度が出ない、いや、速度が出ないのではない、後方から来る何かに引っ張られているのだ。


 ウィルバーが振り返ると、名状しがたい何かが急速に近づいている、それはマージョリーとキョウとマグダラが、三位一体で放った一撃。

 プラズマと絶対零度を纏った、超極小魔導ブラックホールの弾丸であった。


 超高重力に捕らえられたラーン=テゴスは、あっという間に速度を落とし、制御不能となりブラックホールの弾丸に落下して行く。


 ラーン=テゴスはまず超高熱に晒され、分子結合が崩壊した後に、絶対零度の低温の中で全ての運動を停止した、そして事象の地平線の彼方に消えて行った。


「ウ~ザ・イェ~イ!」


 ウィルバーの断末魔の悲鳴は、事象の地平線に捕らえられ、誰も耳にする事が出来なかった。

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