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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
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アビィの心

 なんとかアビィの目を覚まさせようと、必死にその小さな身体を揺さぶるマージョリーの傍らに、キョウが駆け寄りしゃがみこむ。


「ねぇアビィ、起きて、アビィ……」

「僕に見せて、マージ」

「キョウ……、どうしよう、アビィが、アビィが起きないの……」


 涙を流して困惑するマージョリーにキョウが優しく頷くと、片膝をついてアビィの顔を覗き込む。他の者達もその周りを取り囲み、心配そうにアビィを見つめた。


「イカンな、このお嬢ちゃん、生命(いのち)を放棄しちょる」


 瓶に戻りながら、イブン・ガジが残念そうに言う。その言葉を聞いたマージョリーは、必死にアビィに呼び掛ける。


「アビィ! アビィ! お願い、目を開けて! 帰って来て!」

「ねぇキョウ兄ちゃん、アビィは死んじゃうの?」


 ラーズがキョウの腕を掴み、今にも泣きそうな瞳に、悔しさをにじませて聞いた。


「いいや、絶対に死なない、僕が死なせない!」


 キョウはラーズの頭を撫でながら答えると、安らかに眠るアビィの額に自分の額を合わせて呪文を唱えた。


「ルルイエの館にて眠れるアビィ、夢見るままに待ちいたり」


 呪文を唱え終えると、キョウの意識はアビィの心の中に降り立った。


 アビィの心の中の風景は、小さな子供が楽しい美しいと感じた事を、画用紙いっぱいにクレヨンで一生懸命書いた様な、まるで絵本か紙芝居の中の様な感じがする世界だった。


 たくさんの花が描かれ、花には黄金のミツバチ達が楽しそうに蜜を吸い。

 養蜂箱の中には、女王蜂と幼虫達が笑顔でミツバチ達の帰りを待っている。

 妖精達が遊ぶ林の木には、数種類の高級果実が鈴なりに実り、木の下では子供達が嬉しそうに果実を食べている。


 この風景は、きっと孤児院を描いているんだな。微笑ましく思いながら、キョウがアビィの心の奥に歩を進めた。


 あの浮いてるのはマグダラだな、帳簿をつけているのはアリシアか。ふふふっ、巧く特徴を捉えているな。

 大きな孤児院の前に、優しい笑顔が印象的な男女が立っている、男女は二人で赤ちゃんを抱いていた。

 どうやらこの男女は僕とマージの様だ、では抱かれている赤ちゃんは誰だ?


 キョウが苦笑いしながら赤ちゃんの顔を見た、二人に抱かれて幸せ一杯の寝顔にキョウは見覚えがあった、そう、シュブ=ニグラス亭で三人川の字になって寝た時のアビィの寝顔である。


 今までの絵の中に、アビィらしき子供の姿は無かった、という事は、やはりアビィは今の命を何かの為に放棄して、僕とマージの子供として生まれ変わる事を望んでいる。


 まずい、急がなければ。


 キョウは、クレヨン書きの孤児院の扉を開けると、中は真っ暗な空間だった。注意深く進んで行くと、愚図って駄々をこねるアビィの声がキョウの耳の中に入ってくる。キョウは声のする方へと走り出した。


 しばらく走って行くと、金色に輝く『何か』が沢山詰まった大きなバスケットを両手で抱え、マージョリーと瓜二つの二人の女性に一生懸命押し付けるアビィがいた。


「これ、あげるの、マージおねえちゃんにあげるの」


 二人の女性は優しい笑顔でアビィを説得している。


「それは出来ないのよ」

「良い子だから聞き分けて、ね」


 しかしアビィは地団駄を踏み、嫌々をして二人の女性に食い下がっていた。


「やー、マージおねえちゃんにあげる!」

「どうしたんだい、アビィ?」


 キョウが優しく声をかけると、アビィはびっくりした表情で振り返った。キョウはアビィの許に歩み寄り、しゃがんで頭を撫でる。


「良い子だから、お兄ちゃんに話してごらん?」


 アビィは目に涙を浮かべてキョウに訴えた。


「マージおねえちゃん、しにたくないって、ないてたの、もっといきたいって、ないてたの、だからアビィのいのちをあげるの!」


 キョウの頭の中にアビィの記憶が流れ込む、それはキョウとの一騎討ちに敗れた夜、新たな価値観に気づいてもっと生きたいと願い、慟哭するマージョリーの姿だった。


 バスケットに詰まっている物は、アビィの残りの命だった。


「優しいな、アビィは」


 そのいじらしさに胸を打たれたキョウは、アビィを抱き締めて頭を撫でながら、ゆっくりと諭す様に話を続ける。


「でもね、アビィ、それはズルい事なんだよ」

「ずるいこと?」


 不思議そうに聞き返すアビィに、キョウは優しく頷いて教え諭す。


「どんな事があっても、自分の命は途中で投げ出してはダメなんだよ。ほら、見てごらん」


 キョウは印を組んで、アビィを取り囲み涙する皆の姿をアビィに見せた。


 アビィは泣いているマージョリーの姿を見て、目に涙を浮かべる。


「だめ、マージおねえちゃん、なかないで」

「もし、アビィがこのまま帰らなかったら、これからみんな、ずっと泣いて暮らす事になるんだよ」


 キョウの言葉にショックを受け、アビィは目を潤ませてキョウを見上げる。


「もし、マージお姉ちゃんの寿命が伸びても、アビィがいなくちゃ、伸びた分だけ泣いて暮らす事になるんだよ、それでもいい?」

「だめ、ぜったいだめ!」


 力一杯に首を左右に振るアビィに、キョウは優しく微笑み手を差し出した。


「なら一緒に帰ろう。なに、マージお姉ちゃんの寿命なら大丈夫、これからお兄ちゃんは、マージお姉ちゃんと一緒に、女の子達の寿命を取り返す為に戦いに行くんだ。アビィが待っててくれたら、きっと勝って帰って来るよ」

「うん、かえる」


 アビィは大輪のひまわりの様な笑顔でキョウを見上げると、彼の差し出した手を握った。


 二人の女性は、アビィの説得に成功した事に安堵の表情を浮かべてキョウに話しかける。


「初めまして、異世界より参られたネオンナイト。私はマリア・フォン・マシンナリーと申します」

「私はマリア・ド・メイジスと申します、貴方には辛い戦いを押しつけてしまい、大変申し訳なく思います」

「ですが、伏してお願いします。マグダラを、マージョリーをどうか頼みます」

「どうかこの世界の娘達を救って下さい」


 二人のマリアの願いを聞いて、キョウは明るく答える。


「ああ、任せろ!」


 二人のマリアは、その言葉を聞いてハッとして顔を上げた、そして自分達にコルナを送って微笑むキョウの姿に涙した。


 その言葉、その姿はかつてのネオンナイト、ロニー・ジェィムスそのものだった。


 二人のマリアも、マグダラと同じ想いを抱いた。


「この人ならば、きっと大丈夫」


 その想いを胸に、二人はキョウを見送った。


 アビィとキョウが目を覚ますと、皆、歓喜の声をあげる。子供達がキョウに抱きつき、マージョリーがアビィを抱き締めた。


「キョウ殿」

「ネオンナイト」


 子供達にもみくちゃにされながら立ち上がったキョウと、ハスタァとノーデンスが交互に拳を合わせる。


「あ~ん、キョウ様、最高ですわ!」

「お疲れ様でした、流石マスターです」


 アリシアがキョウの首に抱きつき、マグダラが労いの言葉をかける。


「キョウ……」


 感謝の涙を浮かべながら、マージョリーがキョウの前に進み出た。


「ありがとう」


 万感の想いを込めて、マージョリーはキョウの胸に飛び込んだ。


 その光景を、邪悪な目で見つめる者がいた。キョウの魔法攻撃に押し潰され、岩にへばりついたアーミティッジの顔の皮である。


「甘い、甘いぞ、ネオンナイト。勝ったと思って気を抜いた今こそ、うぬらを倒す好機よ」


 そうほくそ笑んだアーミティッジの顔の皮は、逆転の呪文を唱えた。


「インナーツインズよ、今こそ顕現して我が怨みを晴らせ! フングルイ・フタグーン!」


 呪文を唱え終わると、アーミティッジの顔の皮が弾け飛び、別の顔が現れた。


「ウーザ、イェーイ」


 岩にへばりついたアーミティッジの血糊の中から、銀の甲冑の男が歩み出た。

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