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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
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奸計

キョウはアザトースのコクピットハッチと胸部装甲を閉じ、魔導剣ブラックサバスを展開装備して、ルルイエ世界に召喚されて初めて、その完全戦闘態勢を披露している。

 そして操縦席のモニターから、マージョリーとハスタァの間をすり抜けて突進して来る、野盗の精霊機甲を見据えていた。


「ナイトゴーントか……」


 その機体がノーデンスの乗機と同型のナイトゴーントと確認したキョウは、ブラックサバスを一閃させ、ナイトゴーントの肩部を軽く撫でた。

 すると、突然野盗のナイトゴーントは、全身から力が抜けた様に動きを止めた。


 キョウは肩部に走る動力供給路のみを切断し、機体本体には全くダメージを与えず無力化したのだ。そして胸部装甲とコクピットハッチを引き剥がし、中から野盗を引きずり出す。


「ノーデンス、君のナイトゴーントはもう修理は無理だから、この機体を修理して使うといい。マグダラ、悪いけど改修してやってくれ」

「かしこまりました、マスター」


 マグダラの返事に満足して頷いたキョウはアザトースを翻し、マージョリーとハスタァに加勢する為に野盗の群に飛び込んだ。


 その後ろ姿を見つめ、アリシアは疑問を口にする。


「うちの経済力なら、ナイトゴーントの一機や二機くらい、なんて事有りませんのに、どうして……?」

「マスターは改修って言ってたでしょう、子供達の実習教材も兼ねているのよ。新品だと子供達が壊さない様にって萎縮するかも知れないけど、拾った物なら思う存分いじくり回せるでしょう」

「なるほど、言われてみればそうですわね」


 アリシアが納得すると、マグダラは急いでと言わんばかりに二人に指示をだす。


「そうと決まればアリシア、回収部隊の手配をして。ノーデンスは貴方の壊れた機体からクリスタルの回収と、使えそうな部品の選別よ。二人共、ボケッとしない」


 マグダラの指示を受け、二人は行動を開始する。


 指示通り、クリスタルを回収し、使えそうな部品を選別するノーデンスの後ろ姿に、マグダラがにんまりとして声をかける。


「マスターの言いつけ通り、飛びっきりの機体を用意してあげるわ、ノーデンス。精霊機甲の開発者が腕によりをかけるんだから、楽しみにしてなさいよね」


 そう豪語するマグダラに、一抹の不安がノーデンスの胸をよぎった。

 その不安は的中するのだが、それは後の物語である、今は話を最前線に戻そう。


 奮戦を続けるリュミエールとイタクァに、キョウのアザトースが加勢に入った。


 三機の精霊機甲は、狂戦士と化した野盗共の精霊機甲を物ともせず、確実にアーミティッジとウォーランの元に近づいていった。


 この様子をアーミティッジは苦虫を噛み潰した表情で、忌々しげに見つめている。

 キョウはアザトースを操り、やや離れた高台の上から見下ろすアーミティッジに、魔導剣ブラックサバスを向ける。


「また会ったな、さそり道人。今からそこに行ってやるから、首を洗って待ってろ!」


 野盗の精霊機甲をまた一機屠ったマージョリーが、ウォーランに向かい叫ぶ。


「ウォーラン!今日こそこの火傷の恨み、晴らしてやるわ!覚悟なさい!」


 ハスタァが哀願する様な口調で、アーミティッジに訴える。


「栄えある白騎士教団の枢機卿にあるまじきこの行い、どうか悔い改めて下さい、アーミティッジ枢機卿!」


 戦いの流れがほぼ決し、野盗軍の敗色が濃厚になったにもかかわらず、狼狽えまくるウォーランとは対照的に、アーミティッジはまだまだ余裕の薄笑いを浮かべていた。


「ふほほほほほ、この程度でもう勝ったつもりですか、甘いですね、ネオンナイト。」


 そう言って、杖を天に向けて高々と差し上げる。


「フングルイ・ムグルウナフ!」


 アーミティッジの呪文を合図に、倒された野盗の精霊機甲が再び立ち上がり、三人に襲いかかる。


「何と!」

「あ~!もう!しつこい!」

「流石にさそり道人、汚いな」


 三者三様の反応で応戦を始めるハスタァ、マージョリー、キョウを邪悪な目で睨め回し、アーミティッジは不気味に舌舐めずりをした。


「では、最後の仕上げと参りましょう。タクヒ!」


 アーミティッジの声に応えた人面鳥は、戦場の上空を猛スピードで飛び越え、アビィの前に降り立った。


 ニタニタ笑いながら近づいて来る人面鳥に、アビィは怯えて後退る。

 黄金のミツバチ達も、アビィを庇って必死に戦ったが、人面鳥にさしたるダメージを与える事は出来なかった。


 キョウは肩のナイアルラートに声をかける。


「ナイアルラート、アビィを頼む!」

「にゃる、がしゃんな!」


 待ってましたとばかりに、ナイアルラートはキョウの首飾りの輝くトラペゾヘドロン製の勾玉の中に飛び込んだ、そして。


「にゃる、がしゃんな!」


 アビィの首飾りの、同じく輝くトラペゾヘドロン製の勾玉から、颯爽と飛び出した。

 その姿は、かつてンガイの森でアビィとマージョリーを守った時と同じく、蝙蝠の様な翼を持ち、鋭い鈎爪と、強力な蹄を持った、あの姿である。


「にゃるちゃん!」


 アビィが安堵の声をあげた。


 ナイアルラートが振り返り、アビィに優しい笑顔を向けたが、すぐに人面鳥に向き直り、必死の形相で睨みつける。


 テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ


 不気味に囀ずる人面鳥に、ナイアルラートは猛然と襲いかかる。


「ふ~っ、ふ~っ!う~っ、にゃ~~~っ!」


 大好きな友達、アビィを守るために、ナイアルラートは必死に戦う、強力な蹄で蹴り飛ばし、鋭い鈎爪で引き裂き、噛みついた。


 ナイアルラートの激しい攻撃に、人面鳥は次第に耐えきれなくなり、飛んで逃げようと試みたが、ここで逃がしたら後顧の憂いを残す、そうはさせじとナイアルラートが雄叫びをあげる。


「にゃる、がしゃんな~っ!」


 ナイアルラートの雄叫びに応じて、地面から無数の金色の触手が出現し、逃げる人面鳥を絡め捕らえた。


「う~っ!にゃ~~~っ!」


 ナイアルラートは頭上に魔法で巨大な火の玉を作り出し、人面鳥に投げつける。

 人面鳥は悲鳴をあげる間もなく、触手ごと業火に焼き尽くされた。


 あれほど激しく戦ったにもかかわらず、ナイアルラートと人面鳥の戦いの跡には、なぜか人面鳥の羽毛が一つも落ちていなかった。


 その代わり、注意して見ても分からない程小さな、アメーバ状のヌメヌメした物体が飛散している。


「にゃるちゃん!」


 アビィがナイアルラートに駆け寄る途中、幾つかのアメーバ状物質を踏みつけてしまった。


 アメーバ状物質が靴から足首につたい、足首に取り付き、染み込む様に消えて行った事に、この時誰も気がつかなかった、アーミティッジ枢機卿一人を除いては。


 キョウが再び立ち上がった野盗の精霊機甲の最後の一機を叩き潰した瞬間、切り札の奸計の仕込みを終了したアーミティッジは勝利の高笑いをあげた。


 その目には、ありありと狂気の炎をたたえていた。

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