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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
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苦戦

 自警団を蹂躙した野盗達のンガ・クトゥンは、孤児院に向かって火矢を撃ち込む。その一本が養蜂箱の一つに命中した。燃え上がる養蜂箱に小さな人影が走り寄る。


「うわぁあああん、ハチさぁ~ん、ようちゅうさぁ~ん!」


 アビィが泣きながら養蜂箱に向かって走って行く。


「アビィ、いつの間に!」


 ディオの親爺が痛恨の呻き声を上げた。


「ダメよ! アビィ、戻って!」


 マージョリーが必死に叫ぶ。しかし、それを見逃す野盗達ではなかった、彼等はあっという間にアビィを取り囲んだ。


「アビィ! アビィ! ノーデンス! お願い! 目を覚まして! 誰か! 誰かアビィを助けて!」


 マージョリーの悲痛な叫びも虚しく、アビィは野盗達の手に落ちてしまった。


「おぉ~、女の子だぜぇ~」

「いやだぁ~! マージおねえちゃ~ん!」


 下卑た野盗達の視線に囲まれ、アビィは怯えて泣き叫ぶ。


「これで俺達の格も上がるぜ」


 へらへらと笑い、アビィに手をかけた野盗の全身を、突然金色の点が覆い尽くした。


「何だ、いっ痛てぇ! 痛てぇ!」


 野盗達はアビィを手放し、地面を転がりのたうち回る。


「蜂だ! チクショウ! こっちに来るな!」


 黄金のミツバチ達は、巧みに野盗達を追い立ててアビィから引き離す事に成功した。


 この子は我等の幼虫を可愛いと言ってくれた

 この子は我等の幼虫に優しくキスをしてくれた

 この子は我等の幼虫を友達と呼んでくれた

 この子は我等の幼虫を溢れる愛で慈しんでくれた

 この子は我等の幼虫を救う為に駆け付けてくれた

 この子は我等の幼虫の非業の最期に涙してくれた


 アビィを守る様に周りを飛ぶ黄金のミツバチ達は、空中で互いに頷き合う。


 ならば、この子を守る為ならば、私達は命はいらない!


 彼女達は、悲壮な覚悟を心に決め、野盗達に群がり刺し違える。下卑た野心でアビィを捕らえようと取り囲んだ野盗達は、全身を黄金のミツバチ達に刺されて絶命した。


 野盗一人に対し、その数百倍の黄金のミツバチの死体。


「ごめんなさい、ありがとう……」


 黄金のミツバチ達の献身を目の当たりにしたマージョリーは、そっと目を閉じて勇敢な蜂達の冥福を祈った。


 土壇場の総力戦の様相を呈してきたダンウィッチ防衛戦、勝敗を分ける鍵は士気である、しかし……


 ハスタァは防衛部隊、特に自警団の士気を維持するため、大きなジレンマに陥っていた。


 後少しで土星の刻限、それまで士気を維持出来れば我々の勝利は間違いない。

 しかし、自警団員の士気が、この馬鹿のせいで崩壊寸前だ! このままでは犠牲も増える一方だ、もしも孤児院の子供達に被害が及んだら、自分を信じてこの場を任せてくれたキョウ殿に顔向けが出来ない。士気を維持するためには……、いや、白騎士教団の戦闘僧伽としての立場上、ネオンナイトを当てにする訳にはいかない。しかしだ、今は緊急事態だ、損害を最小限にする為、士気を鼓舞する為には仕方がない、その為なら自分は後でどんな処罰も甘んじて受けよう。


 腹を括ったハスタァが、大きな声で叫ぶ。


「ビヤーキー隊及び、自警団員の諸君! 苦しい戦いではあるが、今しばらく耐えられよ! もうすぐ土星の刻限がやって来る、それまで耐えたら我々の勝利だ! なぜならキョウ殿が、最強の機械魔導師にして精霊騎士、ネオンナイトが必ず諸君を救いにやって来る! それまでの辛抱だ! 決して諦めるな!」


 ハスタァの必死の演説を嘲笑い、ウォーランが現れて否定した。


「莫迦め、ネオンナイトは死んだわ!」

「何だって!」


 ハスタァは耳を疑った、まさかあのキョウ殿が、たかが野盗ごときの手にかかる訳がない。


「何が最強だ、あんな腰抜け見たことがねえぜ!」


 ウォーランの言葉に、手下共が下卑た追従笑いをする。


「嘘! キョウは生きてる!」


 凛としたマージョリーの言葉が、野盗共の下卑た笑いををかき消した。


「キョウは私と約束した、だから必ず帰ってくる! 誰が何て言おうと、私はキョウを信じる!」

「マージ……」


 マグダラはマージョリーの言葉に微笑んで頷く。


 しかしウォーランは、品の無い態度と口調で嘲り続ける。


「そんな事言ったってヨォ、おっ()んじまったモンはしょうがねぇだろ。どうしても信じられねぇって言うなら、証拠を見せてやっても良いんだぜ、ほらよ」


 そう言ってウォーランは、首桶からキョウの首を取り出し、高々と掲げた。


「どうだい、これでもまた生きてるって言うのかい、え~っ」


 勝ち誇った笑みを浮かべ、防衛部隊を()め回した。


 首は血の気を失ってか、黒く変色している。


 それを目にしたハスタァが絶句し、アリシアが泣き崩れる。


「そんな、まさか……」

「イャァ! キョウ様が! キョウ様が~!」


 激しく動揺する二人に、マグダラが厳しい叱責を飛ばす。


狼狽(うろた)えないで! あなた達がそんな事でどうするの!」


 気丈に指揮権を掌握し、部隊の士気を維持しようとするマグダラに、アリシアが涙に濡れた顔を向ける。


「だってお姉様、キョウ様があんなお姿に~!」


 アリシアはマグダラにしがみつこうとしたが、実体の無い彼女をすり抜け床に倒れ伏し、そのまま号泣した。


 泣きじゃくるアリシアを一顧だにせず、マグダラは二人に叱咤を続ける。


「うるさい! 二人共マージを見習いなさい!」


 マージョリーはリュミエールのコクピットの中で、涙をこらえてキョウの首を見つめていた。両手を握りしめ、マージョリーは自分に言い聞かせる。


「嘘だ! キョウが死ぬ訳無い! 必ず生きてる! 生きてる! 生きてる! 生きてるんだぁ~!」


 マージョリーは絶叫した。気力と魔力を振り絞り、ナイトゴーントを押し留める。


「必ず帰ってくるって約束した! だから私も約束を守る! 貴方の帰る場所を守って見せる!」


 そんなマージョリーを鼻で笑い、ウォーランは更に心を折りにかかる。


「現実を受け入れろよ、姉ちゃん、あんたにも見せてやりたったぜ、こいつがみっともなく命乞いをする姿をよぉ。ま、俺達の盟主、アーミティッジ枢機卿の手にかかればこんなモンよ」

「何だって! まさか、アーミティッジ枢機卿が野盗の盟主だって!?」


 愕然としてハスタァが聞き返す。


「ああ、そうだぜ、俺様達は言うなれば、白騎士教団お抱えの野盗って事なのさ」

「調子に乗り過ぎです、ウォーラン」


 ウォーランの隣に現れたアーミティッジの姿に、ハスタァは激しく動揺する。


「何故! 何故なんですか!? アーミティッジ枢機卿!」


 アーミティッジは、ハスタァの必死の問いに冷淡に答えた。


「私はあなたに命令しました、その娘がネオンナイトと接触したら殺しなさいと。しかしあなたは今まで生かしておいた、だからですよ」

「そんな……」

「だから私はウォーランに命じて、ここを襲わせたんです。ハスタァ僧正、あなたは教団に対する特別背教行為の咎で、ここに死刑を宣告します。最期の情けで一つ聞かせあげましょう、私はマリア病克服の為の研究をしています。その献体として、多くの娘達を必要としているんですよ、資金もね。この孤児院にはその両方があります。有効利用させてもらいますよ、ほっほっほ」


 悔しさにうち震えるハスタァに、アーミティッジが冷笑を浴びせた時だった。


「そいつが聞きたかったぜ、さそり道人」


 首だけになったキョウが、いきなり目を開き、喋り出した。


「あひゃあ!」


 ウォーランは無様に腰を抜かし、持っていた首を放り出した。


 放り出されたキョウの首は、ふわりと空中に浮かぶと、髪と瞳の色が金色に変わり、肌の色は真っ黒に変化した。そして大きく口を開ける。


「にゃ~る~が~しゃ~ん~な~!」


 首が空に向かって大きく咆哮した、すると夜空高く、打ち上げ花火の様に大きな魔方陣が美しく描き出された。


 首は空中で回転すると、ナイアルラートのキュートな姿に変身する。ナイアルラートはウォーランの顔面に思い切り回し蹴りを放ち、魔方陣に向かって飛んで行く。


 魔方陣の中央が揺らぎ、檜扇の先端が現れた。


 檜扇が左右に動くと、夜空は暖簾の様にめくれ、その向こう側からマージョリー達が帰りを待ちわびた男がその姿を現した。


「キョウ!」

「マスター!」

「キョウ殿!」

「キョウ様ぁ~!」

「キョウ!」

「キョウおにいちゃん!」


 皆の目が輝き、希望が甦った。


「すまない、待たせた」


 キョウは包み込む様な優しい笑顔で、待たせた皆に謝罪する。


「うほっ、カワイコちゃんばかりじゃのう!」


 キョウの肩から脇にぶら下げた瓶から、鼻の下を伸ばしたスケベジジイの様な老人の声がした。


「だろう、セクハラはするなよ」


 キョウが言うと、瓶はムッとして答える。


「誰がそんな事するか! 儂は紳士なんじゃ!」

「そういう事にしておきますか」


 キョウはナイアルラートを肩に乗せ、自警団を突破して孤児院に殺到しつつある、野盗の群れの前に舞い降りた。


「しかしアレじゃの、こんなカワイコちゃん達をいじめるとは許せんのぉ。キョウ! やってやれい!」


 エキサイトする瓶の声が、キョウをけしかける。


「言われなくても、分かっているさ」


 腰に差した黒絹の鞘からバルザイのシミターを抜き放ち、足を前後に大きく開く、やや前のめりの低い姿勢で刀身を担ぐ様に横薙ぎに構え、そのまま大きく身体を捻り、足指はしっかり大地を掴む。


 キョウはバルザイのシミターに、あらん限りの力と魔力を込めた。


「テメェら、俺の留守中に、よくも好き放題やってくれたな」


 キョウの瞳が青白く輝く。バルザイのシミターの刀身が、巨大なザンバーに変化した。


「ロング・リィィィィィィブ・ロックンロール!」


 ザンバーを一閃し、込められた力と魔力を解放すると、迫り来る野盗共は快刀に断たれた乱麻の如く、ズタズタに斬り倒され吹き飛ばされた。そしてその剣圧は、養蜂箱についた火を消し止める。


「キョウおにいちゃん!」


 アビィがキョウに駆け寄り、嬉しそうに抱きついて胸に顔を埋める。


「ゴメンな、アビィ、怖かったろう?」


 キョウの優しい言葉に、アビィはくしゃくしゃに歪めた顔を向け、涙をこらえて指を差しながら訴えた。


「はちさんがね、はちさんがたすけてくれたの」


 キョウはアビィの指差す先を見ると、アビィを守る為に野盗共と刺し違えた黄金のミツバチの骸が、大量に横たわっていた。


 キョウは小さな英雄達の遺骸に、深々と頭を下げる。


 そして頭を上げたキョウは、アビィに優しく、力強く宣言した。


「もう大丈夫、今からお兄ちゃんが、悪い奴等をみんなやっつけて来るからね」

「うん!」


 アビィは大輪のひまわりの笑顔で、キョウの背中を見送った。


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