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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
34/60

ノーデンス、造反

「踏ん張れ! 俺達が苦しい時は、敵も苦しいんだ! 諦めるな! 押し戻せ!」


 ノーデンスの檄が飛ぶ、自警団員はその檄に応え、実力以上の力を発揮する。


 急遽ダンウィッチ防衛の為に編成されたこの自警団は、実戦経験を持たない者が多い。それどころか、まだ子供と呼んでも差し支え無い者まで志願参加している。


 実戦経験も乏しく、その上訓練期間も不充分な彼等は、どう評価しても


 苛烈ならざる戦場において、防衛の任にすら耐えられない部隊


 と判断せざるを得ない、全くと言って良い程戦力として当てにならない部隊であった。


 そんな彼等がどうにか戦線を支えているのは、郷土愛と作戦の妙であった。彼等は自分の姉、妹、幼馴染みのガールフレンドや憧れの深窓の令嬢を守る為に、命を懸けて戦っていた。


 そんな彼等の心の拠り所となったのがノーデンスである、ルルイエ世界最強の賞金稼ぎの一人に数えられ、慈善家としても有名なノーデンスを、彼等は皆一度は憧れた。憧れのノーデンスと一緒に、大切な存在を守る為に戦える、これで心が奮い立たない訳がない。


 作戦の妙は、ノーデンスと共に壁に徹して動かない事である。


 ノーデンスの名声は、敵にとっても看過出来ない物がある、自警団にとって拠り所なら、野盗にとっては最悪の災難である。相対した場合には、自分の命を守る為に慎重にならざるを得ない。慎重になって部隊行動が鈍れば、両翼から百戦錬磨のハスタァとマージョリーが率いるビヤーキー隊が突入し、足踏みする野盗共を擦り潰して追い返す。結果、新米自警団員の多くは生き残る事が出来た、生存は自信となり、守った誇りとなり経験として蓄積する。


 実戦を利用して彼等を鍛えるこの作戦は、立てたマグダラ自身をして『泥縄式』と自嘲する程の危うい作戦であったが、ノーデンス、ハスタァ、マージョリー、ビヤーキー隊という四本柱に支えられて、充分な成果をあげていた。


 こんな泥縄式の作戦も後少しの我慢、土星の刻限を過ぎればマスターが帰って来る、マスターさえ帰って来れば、野盗の群れなんか簡単に捻り潰す事が出来る、それまでみんな頑張って。


 砂を噛む思いで願うマグダラの思いも虚しく、アーミティッジ枢機卿の姦計による野盗達の猛攻が、土星の刻限の直前に開始された。


「おりゃあ~! 次はどいつだ! 死にたい奴は出て来やがれ!」


 最前線で、攻め寄せる野盗の精霊機甲を屠り、ノーデンスが雄叫びをあげる。


 幾分演技が過ぎる気もするが、部隊の士気向上の為ならやむを得ない、道化にでもなんでもなってやる。しかし、今回はコイツら思いの外しつこいぞ、何か有るかもしれん。


 訝しく思ったノーデンスの周りで異変が起きた、自警団員が突如苦しみ出して戦線が混乱した。


「何だ! どうしたんだ?」


 ノーデンスの問いに、一人の自警団員が苦しみながら答えた。


「ノーデンスさん、あそこに変な鳥が、あいつが飛んで来てから……みんな、変に……」

「分かった。ようし、ここは俺が支える、お前達は苦しんでいる仲間を回収してすぐに下がれ」


 指示を出したノーデンスは、戦場を見回して自警団員の報告した変な鳥を探した。


 その鳥はすぐに見つかった、上空を飛ぶきらびやかな七色の羽を持つ鳥を視認する。


「何だ、ありゃあ? 」


 ノーデンスは鳥と目が合った様な気がした、すると鳥は一直線に飛来してノーデンスの精霊機甲、ナイトゴーントの前に降り立った。


「!?」


 ノーデンスは鳥の姿に目を見張る、美しくもおぞましい人間の女の顔と、きらびやかな七色の羽を持つ一本足の不気味な鳥。


 ミスカトニックの郊外で見たあの鳥だ!


 鳥はモニター越しにノーデンスと目を合わせると、禍々しい笑顔でニタリと笑って囀ずり始める。


 テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ


 凶鳥の囀ずりを聞いたノーデンスは、目から生気を失った。そして一瞬後、彼の目は狂気を孕んで真っ赤に輝いた。


「ぐぉおおおおおおお!」


 口から泡を飛ばし、狂気の表情を浮かべ、ノーデンスは咆哮する、そしてマージョリーの孤児院めがけて突進を始める。


 少し離れた高台から、この光景を見てアーミティッジ枢機卿は、満足そうな笑みを浮かべた。


 ノーデンスの異変に気がついたマグダラは、ナイトゴーントのクリスタルを発振させる。


「ちょっと! 何やってるの、ノーデンス!」


 マグダラがクリスタルを通して見たのは、狂戦士と化したノーデンスの姿であった。


「ネオンナイト! オレトタタカエ!」


 正気を失ったノーデンスは、野盗の群れを引き連れて孤児院を目指している。


 早く止めなければ!


 マグダラはマージョリーとハスタァに連絡を取る。


「マージ! ハスタァ! ノーデンスが変なの! 早くあいつを止めて!」

「何ですって!」

「分かった、すぐに追いかける!」


 マージョリーとハスタァは、それぞれリュミエールとイタクァを全速力で飛ばしてノーデンスを追った。


 矢継ぎ早にマグダラは、各部隊に指示を出す。


「自警団は最終防衛ラインまで下がって、そこで防衛線を構築、ビヤーキー隊はその前に布陣して野盗達の機動戦力の侵入の排除、配置転換急いで! 」


 マグダラの急な配置転換の指示に、各部隊は蜂の巣をつついた様な騒ぎとなり、取るものもとりあえず走り出す。


 マグダラとアリシアが、はらはらしながら戦場を見守る中、ハスタァのイタクァがノーデンスのナイトゴーントに追いつき、押し止める。


「ノーデンス、どうした! ? しっかりしろ!」


 ハスタァが必死に呼び掛けるが、狂戦士と化したノーデンスの耳には既に、幼馴染みの声すら入らなくなっていた。


「ウグゥゥゥウウウウ、ネオンナイト! ネオンナイト!」


 ひたすらにネオンナイトとの戦いを欲し、狂ったノーデンスのナイトゴーントに、押し止めようと試みるイタクァは次第に力負けし、ジリジリと押し込まれていく。


「馬鹿な! ? このイタクァが力負けするだと!」


 焦るハスタァの目に、ナイトゴーントの背後から、殺到する野盗達の精霊機甲と機動兵器の軍団が映った。


「これまでか、キョウ殿、すまん」


 ハスタァは悔しさに歯軋りをして、思わず天を仰ぐ。


「まだよ! ハスタァ! 諦めないで!」


 マージョリーのリュミエールが駆けつけて、加勢する。


「いっけぇ~! 影縫いぃ~!」


 広範囲の影縫いを仕掛け、マージョリーはノーデンスと野盗達の前進を食い止める事に成功する。間一髪、各部隊の配置転換が終了する。しかし、ほっとするのも束の間だった。


「グギャオオオオオオ!」


 信じられない程の力を発揮して、ノーデンスは影縫いの戒めを解いた、常軌を逸した力を発揮してノーデンスのナイトゴーントは再びイタクァを押し込み進み始めた。


「ノーデンス、一体どうしちゃったの!?」


 マージョリーもハスタァに加勢して、一緒にナイトゴーントを押し止める。


「すまない、マージョリー殿」


 しかし、ナイトゴーントは止まらない。


「何、この力! ? 二機がかりでもダメなの!」


 余りのナイトゴーントの力に、マージョリーの気が影縫いの維持から逸れたのを見てとったアーミティッジ枢機卿は、解除の魔法で野盗達の精霊機甲を解放する。


 自由になった野盗達は、ノーデンスを食い止めるマージョリーとハスタァの脇をすり抜け、孤児院に向かって進撃を始めた。


「ビヤーキー隊! パンツァーカイルで叩き返して!」


 ビヤーキー隊の主力精霊機甲ビヤーキーは、本来高速機動戦を得意とする機体で、防衛戦闘に使うならば、拠点防御ではなく機動防御に使うべく機体だが、事ここに及んでは致し方無く、不利を補う為にマグダラは、陣形による集団連携戦を指示する。


「ビヤーキー隊! 根性みせろ!」

「お願い、頑張って!」


 ハスタァとマージョリーの檄が飛ぶ、ビヤーキー隊は三人の期待によく応え、戦線を維持して野盗達を叩き返す。やはり百戦錬磨に鍛え抜かれたビヤーキー隊と、勝手気ままに統制の取れていない野盗達とでは格が違った。


 突然のノーデンスの謎の造反という、予想外のイレギュラーの発生にも関わらず、苦しいながらも防衛戦は均衡を保っている。

 土星の刻限まであと僅か、後少しだけ耐えれば大丈夫とマグダラは考えていたが、そんな彼女を嘲笑うかの様に、野盗達は最悪の手を使って攻め寄せて来た。


 ビヤーキー隊の精霊機甲の足下をすり抜け、二足歩行機ンガ・クトゥンを使った浸透突破を謀って来たのだ。大部分はビヤーキー隊に潰されたが、数機のンガ・クトゥンが突破に成功し、自警団を蹂躙する。援護に向かおうとビヤーキー隊の隊列が崩れた所に、再び野盗達の精霊機甲が襲いかかる、防御陣は阿鼻叫喚となった。


 ノーデンスの造反は、遂に埋めがたい穴となり、防御部隊の肩に重くのし掛かった。


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