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精霊機甲ネオンナイト 《改訂版》  作者: 場流丹星児
第一部第三章 サードマリア、覚醒
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マージョリーの使命

 いきなりのアリシアの発言に、驚いたハスタァが言葉をはさむ。


「いきなり何を言い出すんだ、アリシア」


 怪訝そうな顔のハスタァに、アリシアは得意顔で答える。


「ハスタァ僧正、私の実家には『断章』という、秘密の予言書が有るんです」

「断章だって!」

「はい、それには『マグダラ様に召喚された異世界の勇者がネオンナイトを襲名し、サードマリアに行く道を示す、そして二人は世界を覆う暗雲を打ち払い、人々に幸せをもたらすだろう』という一節が記されているんです」


 何だ! この話は! 以前アーミティッジ枢機卿が話した『断章』とは、全く逆の内容ではないか!


 驚くハスタァを余所に、アリシアは嬉々として言葉を続ける。


「マグダラ様が顕現されたという事は、やっぱりキョウ様は異世界から召喚されたネオンナイトなんですね。という事は……」


 アリシアは一端言葉を区切り、マージョリーを見つめる。


「マージョリー、あなたが世界を救うサードマリアなんですね!」

「私が……、世界を……救う……?」


 思わぬ急展開に、思考が追いつかないマージョリーに、アリシアは三歩下がって拝跪した。


「私はこれより家訓に従い、マージョリー様に忠誠を捧げ、貴女の活動を全力で支える事を、二人のマリアと最高精霊クトゥルーに誓います」

「忠誠って……」


 アリシアはガバッと顔を上げ、不敵な笑みを浮かべ、戸惑うマージョリーに答える。


「はい、まずはマグダラ様の故事に習い、父に勘当してもらいます」

「か、勘当!?」

「そしてベタニア商会を再興し、ガッポガッポと新生マリア騎士団の軍資金を稼いで稼いで稼ぎまくります」


 名状しがたい商人あきんどオーラを燃え上がらせ、不敵なガッツポーズを決めるアリシアを見て、その場に居合わせた全員が「おおっ」と、感嘆の呻き声を上げた、たった一人を除いて。


「ちょっと待ってよ! 勝手に話を進めないで!」


 そのたった一人、マージョリーが堪らず声を荒らげた。


「何よ! 世界を救うですって! 私にそんな力が有るわけないじゃない!」

「でも、予言には……」

「そんな予言なんて知らないわ! そもそも一体何から世界を救えって言うのよ!?」

「マリア病よ」


 取り乱すマージョリーに、マグダラがきっぱりと言い切った。


「マリア病……?」

「そう、女の命が二十年しか持たない呪いの病。そのせいでこの世界は活力を失い、滅びの道を歩んでいる」

「滅びの道って……、そんな」

「勿論、明日、明後日なんて急な話ではないわ。でも今のままでは確実にこの世界は滅びるの、それを食い止めるのがマージ、あなたよ」


 宥める様に、そして諭す様に話すマグダラの言葉に、マージョリーは首を激しく左右に振る。


「そんなの出来るわけないじゃない! 私、あと二年しか無いのよ! そんな短期間で出来っこないわ! そもそも何で私なのよ!? 他にいくらだって適任者はいるじゃない! 」


 マージョリーは救いを求める様に、一同を見回す、そしてキョウと目が合った。


「ねぇ、キョウ、なんとか言ってよ……。そうだ! キョウ、貴方がやれば良いわ! 貴方の力なら、世界を救うなんて簡単よ! そしたら白騎士教団だって貴方の功績を認めない訳にはいかないわ、きっと賞金首の汚名も(すす)げるに違いない! そうでしょう? 」


 すがる様な目で見上げて両腕を掴み、激しく揺さぶるマージョリーに、キョウはいつもの優しい目で見つめながら、小さく首を左右に振った。


「マスターには出来ないの」


 キョウの代わりに答えたマグダラを、マージョリーは力なく見つめる。


「どうしてよ、キョウの力なら楽勝じゃ……」

「ルルイエ世界の問題は、ルルイエ世界の人間にしか解決出来ないのよ」

「そんな……」


 マージョリーは再びキョウを見上げると、彼の優しい双眸の中で微笑んで自分を見つめる二人の自分が語りかける。


「大丈夫、恐がらないで」

「みんながついてる、貴女なら出来るわ」


 キョウの双眸から二人の自分の幻影が飛び出し、左右から慈しむ様に抱きしめて消えていった。


 しかしマージョリーは力なく後ずさり、目に涙を溜めて首を左右に振る。


「無理よ……、私なんか……」

「マージ」


 声をかけるキョウを振り切り、マージョリーは逃げる様に走り去った。


「出来ないよ! 世界を救うなんて、出来るわけないよ!」


 走り去るマージョリーの後ろ姿を見送り、キョウは呟く。


「いきなり大き過ぎる使命を背負わされたんだ、無理もないか……」

「でも、彼女の寿命を考えたら、そろそろ覚醒してもらわないと間に合いませんわ、マスター」


 マグダラがため息をついて、言葉を続ける。


「何が彼女の覚醒を妨げているのかしら?」


 マグダラの疑問に、ディオの親爺が答える。


「今が幸せ、だからではないでしょうか? マグダラ様」


 ディオの親爺の言葉に、マグダラは反駁する。


「その今の幸せを守るために、立ち上がって戦うべきでしょう! かつて私達三人がそうした様に」

「畏れながら、時代が違うんです、マグダラ様」

「何が違うのよ!」

「かつて、二人のマリアとマグダラ様が立ち上がった時代、女の寿命は二十歳の誕生日で終わり、という事はありませんでした。好きな男と結ばれ、子を産み、育て、やがて育てた子が産んだ孫の世話をする。今の時代の女にしてみれば、夢の様な事が当たり前に出来た時代なんです」


 ディオの親爺は一端言葉を区切り、マージョリーが走り去った方向を愛しそうに眺めてから、言葉を紡いだ。


「しかし、今の女の命はたったの二十年。それも大多数の女は、人生の大部分を野盗の娘狩りの恐怖に怯えながら暮らすのです。実際に娘狩りの恐怖を体験し、それ以来普通の娘以上に過酷な人生を歩んで来たマージにとって、今の幸せは人生の末期にやっと得た幸せなんです。きっとあの子の頭の中には、残り二年余りの間に、キョウの子を宿し産む事とその子と孤児院をキョウに託し、その腕に抱かれて安らかにマリアに召される事、それしか無いのでしょう」

「マリアに召されるだなんて言わないで! マリア達はそんな事望んでいないわ! それに、マージはそんなヤワな子じゃないわ! きっと本心ではきっとこの世界をなんとかしたいと思っている筈!」


 悔しそうにそう言った後、マグダラはキッとキョウを睨み、実体の無い拳でポカポカと叩き始めた。


「もう、マスターがステキ過ぎるから、マージの心が曇ってしまいましたわ! マスターは私にだけステキなら、それで充分なんです~!」

「何か方法は無いかな? マグダラ」


 キョウの言葉に頭を切り替えたマグダラは、少し思案して答える。


「『(ブラック)仮面舞踏会(マスカレード)』、ロニー・ジェイムスの最高奥義の魔導戦技、あれなら……」

「でも、あれは今のアザトースには出来ないだろう」

「はい、お手上げですわ、マスター」

「あのぉ~、何のお話ですか? 」


 おずおずと話に割って入るアリシアに、マグダラは面倒くさそうに説明する。


「マージの曇った心を覚まさせるには、マスターが『黒い仮面舞踏会』という魔導戦技で彼女に稽古をつけるのが一番の方法なのよ。でも、その為には、アザトースに『聖魔剣ブラックモア』を展開装備する必要があるんだけど……」

「その鍵となるマジックアイテム、『バルザイのシミター』が手元に無くて、『聖魔剣ブラックモア』を展開装備することが出来ない、という事ですね? 」

「そうなのよ! ロニーが最後の弟子、ギィ・ワイトに託した所迄は知っているんだけど、彼の死後、一体何処に行ったやら見当もつかないのよね~。……って、アリシア! 何で貴女がバルザイのシミターを知っているのよ!?」


 驚いて自分を見つめるマグダラに、満面の笑みを浮かべてアリシアが答える。


「はい、カーター以来の秘密の家訓です。マグダラ様にとって重要な物だから、バルザイのシミターの所有者は常に把握しておく様にって」


 アリシアの告白に、父親の深い愛情を感じ取ったマグダラは、思わず涙ぐんだ。


「お父様……」

「そんな訳で、現在の所有者はイブン・ガジという男だという事は分かっています」

「イブン・ガジといえば、我が白騎士教団のマジックマスターじゃないか!?」


 驚くハスタァに、アリシアは答える。


「はい、イブン・ガジは白騎士教団の高位僧で、またの名を『さすらいの修行僧』と言います。その二つ名の示す通り、表向きは修行のために各地を転々と旅をしている為に、誰にも行方が分からないとなっていますが、実際は幽閉されているとの事。何故彼は幽閉されているんでしょうね、ハスタァ僧上?」

「知らん!」


 憮然として言い放つハスタァ、しかしアリシアは元から答えを期待していなかった様子で話を続ける。


「白騎士教団は何かの襲来を恐れるかの様に、イブン・ガジの幽閉地を不定期に変更しています。これが現在掴んでいる、バルザイのシミターに関する情報ですよ」

「幽閉地を不定期に転々か……、それじゃ打つ手無しか」


 ため息をつくキョウに、アリシアは悪戯っぽい笑顔を向けた。


「あら、キョウ様、商家の情報網を甘く見られては困ります。ねぇ、お姉様」


 キョウと、そしていきなりお姉様呼ばわりされて驚くマグダラの視線の先には、自信満々のアリシアが胸を反らせて立っていた。


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