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幼女オブトゥモローリヴァイヴ  作者: オーロラソース
6/11

狩人《ハンター》

人間に会うよ。

「クソッタレどもめ、いつかウンチ食わせてやる!」

 アランは怨言を吐きながら必死に走った。矢が刺さったままの右肩からは今も血が流れている。

 激しい痛みのなか、それでも倒れずに走り続けていられるのは、強い怒りのためだろう。


 あんな理由で殺されてたまるか!


 矢に貫かれた右肩のワッペンをにらんでアランは心のなかで叫ぶ。元々灰色だった紋章は流れる血で赤く染まっていた。

 かつて憧れ、それを手にしたときには、これで俺も一人前のハンターなのだと小躍こおどりするほどに喜んだ灰色狼の紋章。

 今ではもう憎しみの対象でしかないそれは、商業都市『シリングタウン』を拠点とするハンターチーム『神速の狼』のパーティエンブレム。


「なにが狼だ、薄汚いドブネズミが!」

 怒りと悔しさ、そして失望、兄と呼んだ男の裏切りにアランの瞳がわずかに潤んだ。彼の後ろから迫るのは、自分と同じ灰色狼の紋章をつけた『神速の狼』の仲間たち、いや、かつて仲間だった者たちだ。

 何ゆえアランは彼らに追われているのか、話は少し前にさかのぼる。



 魔物と呼ばれる凶暴な生き物を狩り、肉や素材を換金してかてとする、魔物狩りの専門家エキスパート——ハンター。

 アランもまた、相互扶助組織「ユニオン」の認可を受けた許可証ライセンス持ちのハンターとして、シリングタウンを拠点に活動をつづけていた。


 彼が所属するパーティの名は「神速の狼」。


 腕は立つし頭も切れる、そしてその長所がまとめて台無しになるほど性格が悪い、巨乳の女が大好きなヒゲのバッドガイ――ナイジェルがリーダーをつとめるシリングタウン一の武闘派パーティ、神速の狼だ。


「ユニオンから依頼が入った。標的ターゲットは桃色パンサーだ。毛皮を傷つけずに狩ってこい」

 アランはナイジェルから指示を受け、四人の仲間とともに黒の樹海へと向かった。


 いくら樹海が恐ろしい場所とはいえ、今回選ばれた面子は腕利きばかり、深層にも踏み込まないし、さほど危険もないだろう。

 案外、簡単に片付きそうだ。

 そう考えたアランの思考はおおむね正しかった。熟練のハンターたちの連携に隙はなく、彼らは一人の負傷者も出さずに桃色パンサーの討伐に成功する。


 そして後は戦利品を持ち帰るだけだと、アランがピンクの毛皮を剥ごうとした、その時である。

 仲間の一人ジェンソンが、突如としてアランに斬りかかった。


「何すんの!」

 その一撃をかろうじてかわしたアランだったが、つづけて放たれたネルソンの矢が、彼の肩口をとらえる。


「アウチ!」

 仲間からの攻撃、突然の凶行にアランは狼狽うろたえ、奇妙な声をあげた。


「なんのつもりだ!」

 被害者ヅラをして叫ぶアランであったが、実のところ、彼には心当たりがいくつかあった。


 まず、アランはジェンソンに金を借りている。しかも返済をのらりくらりと先延ばしにしていた。それと今使っているナイフはネルソンから借りパクしたものだ。今のところどちらも返す予定はない。ナイフはとても気に入っているし、金に関しては返したくても返せない。


「金は来月、いや再来月返す! いいでしょ、それで!」

 アランは出来るだけ真剣な表情をつくり、ちょっとキレ気味に叫んだ。反省する姿勢を見せつつも強気な態度は崩さない、対借金取り用の高等テクニックだ。


「何を言っているんだ、お前」


「……借金のこと怒ってんじゃないの?」

 ジェンソンの返答にアランは困惑する。


 なら、なんで――


 アランとて、人との付き合い方くらいは知っている。パーティのなかでは年下キャラとしてそれなりに上手く振舞ってきたし、ジェンソンたちとの関係も悪くはなかったはずだ。


「これはリーダーの……ナイジェルの指示だ。恨むならアイツを恨め、借金はお前の報酬分から回収しておく」

 ジェンソンの言葉にアランの表情が固まった。


「は、ナイジェル? なんで?」

 それこそ理由が分からない。アランはナイジェルを兄のように慕っていた……訳ではないが、そういう素振りを見せることで、彼の機嫌はしっかり取ってきたつもりだ。ナイジェルと揉めた連中がどうなったか、それをよく知るアランが、わざわざ彼の機嫌を損ねるはずもない。


「おいルイス! こいつら止めてくれよ!」

 追い詰められたアランは、ニヤケ顔で傍観している別の仲間に助けを求めた。


「お前さ、ミカにちょっかいかけたろ。それでナイジェルキレたんだ。ボスのお気に入りに手を出した。それがお前の死因だよ」


「あの二人、できてたのか?」 

 だとしたら二股だ。自分もナイジェルも被害者ということになる。ミカがそんなことをするとは思えないが、つい最近までサクランボ少年だったアランには女のことはよくわからない。


「いや、ナイジェルが一方的に……あと、何度か振られてるみたい」

 泣きそうになっていたアランに、ゲルハルトが親切に教えてくれた。そのあと死者に捧げる祈りを唱えるあたり、彼もアランを殺す気ではいるようだ。


「俺、何も悪くないじゃん! あとその祈りやめろよ!」


「ナイジェルに睨まれたらウチじゃあやっていけないんだよ。アイルトンやミハエルが死んだのもそういうことだ。すまないがお前も死んでくれ」

 ジェンソンはそう言って、アランに剣を突きつける。


「ふざけるなよ、この外道ども! てめえらの血は何色だ!」

 アランはジェンソンをにらみつけ、怒りの形相ぎょうそうで叫んだ。それとタイミングを同じくして、茂みから飛び出してきた一頭の桃色パンサーが、ジェンソンめがけて飛びかかってきた。


「クソッ! なんだこいつ!」

 予期せぬ襲撃にジェンソンの体勢が崩れる。アランはその隙をついてジェンソンを蹴り飛ばし、ついでに唾を吐きかけ、さらにその辺の不味そうな果実を何個も千切って投げつけた。


「このハゲ! クソ野郎! 魔物に喰われて死んじまえ!」

 アランは、借りパクナイフを投げつける振りをしてジェンソンをビビらせると、樹海の奥へ向かって全速力で駆けだした。血にまみれた狼の紋章に「クソッタレ」と呟いて。




 彼女はもう全裸ではない。

 色は暗めのネイビー、大きめのフードに、生地は厚手のメルトン生地、フロントにはトグル。


 ダッフルコートである。


「ちょっと大きい」

 地面にこすれて汚れないようにと、幼女はコートのすそを持ち上げ腰のあたりで結んでいた。

 巾着袋みたいになったコートからは白い顔と足だけがピョコンと飛び出している。そうして長い袖を振り回しながら歩く姿は可愛いらしくも禍々(まがまが)しく、幼女系モンスターの得体の知れない性質を実に的確に表していた。


「これは手直しが必要だ。針はともかく糸をどうしようか」

 せっかくのイカしたコートも、サイズが合わねば魅力半減。幼女は蜘蛛と針ネズミみたいな魔物でもいないかとそこらを散策してみるが、そんな都合のいい生き物がそう簡単に見つかるはずもない。ならばハサミ代わりのカニはいないかと小川を覗きこんでみるも、魚はいるが蟹など何処にもいやしない。


「蟹、蟹……くそう、また魚か」

 というわけで幼女は今、蟹がいつ現れてもいいように小川を監視しつつ、たまに泳いでくる魚に石をぶつけたりして遊んでいた。


「いかん、夢中になって本来の目的を忘れるところだった」

 小川に魚の死骸が満ち、中国の危ない川みたいになったところで幼女はコートを手直しするという使命を思い出した。そのためには魚など何匹仕留めても意味はないし、今は魚を食べる気分でもないのだ。


「無益な殺生を……その、ごめんなさい」

 幼女が手を合わせ、口先だけの反省をしていると、遠くから叫び声のようなものが聞こえてきた。


「怒声……のようだな」

 平和を愛する幼女は争いを持ち込まんとする何者かの来訪に眉をひそめ「また無益な殺生をしなければならないのか」と悲しみの声を漏らす。


「とりあえず様子をみてみるか」

 手頃な木に素早く登り、幼女は辺りを見回した。


「あれは……ホモサピエンス!」

 幼女の目に人間らしき生き物が映る。必死に走る男のあとを、複数の人間が追いかけているようだ。手にはいずれも武器を持ち、何やら殺気立った様子にみえる。


「……こんな森の中でも同族同士で殺し合うか」

 世界が変わってもまるで変わらぬ人の姿に、幼女は呆れと安堵のまじった溜息を漏らした。


「変わらんな人間ヒトは……しかし、人間ならば裁縫道具くらい持っているかもしれん」


「話し合いで済めばいいけど」と呟く幼女の顔には、冷たい笑みが浮かんでいた。

人間と揉めそうだよ。

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