お題:鏡②
冒険者に宝を持ち去られた後らしく、本当に何も残っていないようなダンジョンだった。
少なくとも、表向きはそうなっていた。
気になったものといえば、不自然な行き止まりの壁ぐらいだ。
そこに到達した時、このダンジョンに冒険者が何度もリトライする理由を知る。
向こうが空間かどうかを確かめようと壁を叩いた時、ソイツは現れたのだ。
「ちぃ…っ」
同じ姿、同じ速さ、同じ魔法。
間違いなくソイツは俺だった。
声が聞こえる。
『私はミラー。勝つ事は無いが、負ける事は決して無い。何故なら私は、お前自身なのだから。』
ミラー…つまり鏡。
ソイツが現れると、その通路が幻であったかのように開けた部屋に変わる。
俺が距離を詰めれば、相手も詰めてくる。引けば相手も引く。
俺と同じ姿、同じ動きで、同じ威力の俺の攻撃を全て防いだ。
「確かに…負けた事は無いみたいだな。だがつまりは、この先の宝は残っているという事だ!」
俺は確信した。
そいつから離れて壁際まで後退すると、空間が歪んで、普通の通路に戻る。
なるほど、二度と出られないなんて事は無く、再チャレンジも可能なのか。
「そして、お前は古代の遺物。俺の魔力量は常人をはるかに上回り、回復速度もある。
戦闘中でもじわじわ回復し、1晩眠れば完全に回復できるが、お前にはそれができない。」
相手が同じ魔法で対抗してくるのを利用し、毎日そこに足を運んでは魔力が尽きる程に魔法を放ちまくった。
燃費と回復速度には自信がある。向こうも回復する手段はあるだろうが、俺に追いつく程だろうか?
1ヶ月かけて何度も足繁く通った末、“ミラー”を破ると、壁が崩壊し、新たな通路が現れた。
その先には、未だ冒険者が触れた事の無い領域が待ち構えていたのだった。
「…それが、夏休みの宿題が全くできていない理由か?」
姉が微笑む。
その顔は天使のようでもあり、俺には悪魔のようにも見える。
ヤバい……。殺 さ れ る 。
この姉、俺の代わりに勇者をやってくれたらいいのにと思うほど、強く、厳しく、容赦が無い。
ええ、約束しましたね。毎日、ちゃんと宿題しますと。
だから、冒険に行かせてくれと。
実際には、帰ったら魔力回復の為に「ぐーすかぴー」ですよ。
いや、仕方なかったんだ。そうじゃなきゃ、とてもじゃないけど休み明けまでに攻略なんか・・・。
ひっ、言い訳ですとも!わかってます。約束を破りました。ごめんなさい!
俺は恐怖のあまり、ダンジョンの最深部で手に入れたお宝の鏡を落とし、割ってしまったのだった。
title:鏡 ~未知との遭遇~