大きなカボチャ
動物たちが暮らしている村の、外れにある大きな木の下に野ネズミの兄弟が暮らしていました。ある秋の日のことでした、兄弟がごはんを食べに村の商店街に出かけるとまるでお祭りのように飾り付けがしてありました。
「わあ、兄ちゃんきれいだねえ」
「本当だ。いったい何のお祭りだろう」
兄弟はうっとりとしながら景色を眺めました。通りの上には向かい合わせたお店の間にたくさんのロープが張られ、色とりどりの旗がはためいています。お店のドアや窓には星やこうもりなど色々な形に切り抜かれたいろ紙が貼られています。なかでもふたりの興味を惹き付けたのは、お店の前に置かれていた大きなカボチャでした。橙色をしたカボチャは中身をきれいにくり抜かれ、人の顔のように目と口の部分に穴が開けられています。
「カボチャだ。顔みたいに作ってあるよ。面白いねえ。なんで置いてあるんだろう」
「あっちにも、ほらあそこの店の前にもあるね。なんだろう、僕にも分からないや」
ふたりは不思議だねえと首をかしげながらタヌキのパン屋さんに入りました。タヌキのおじさんに、今日はなんのお祭りですかと尋ねるとおじさんはにこにこと笑顔で教えてくれました。
「はろうぃんというお祭りらしいよ。人里から帰ってきたカケスが、街ではこういうお祭りをやっていてとても華やかで楽しそうだと皆に教えてくれてね、だったら村でもやってみようという話になったんだ。どうだい見ているだけでうきうきしてくるだろう」
「ほんとうに、とても楽しくなってきますね。ところで表のカボチャは何ですか」
「申しわけないけれど私にも分からないんだよ。けれど、はろうぃんにはつきもので、あれがないと始まらないらしくてね。だからああして置いてあるんだ」
パン屋のおじさんは頭をかきながら照れ笑いを浮かべました。
兄弟はパン屋の前に置いてあるベンチに並んで腰かけて、通りを眺めながら木イチゴのジャムが詰まったパンを食べました。食事を終えて帰ろうとしたときに、弟の野ネズミが言いました。
「ねえ、兄ちゃん。僕らもお祭りをしようよ。うちの前にもカボチャを置こうよ」
「いいね。僕もそれを考えていたんだ。きっと楽しいよ」
そうしてふたりは畑に向かいました。
畑ではクマのおじさんが野菜を収穫しているところでした。
「やあ、きみたち」
おじさんは兄弟を見つけると大きな声で言いました。腰を伸ばしてふうと大きく息を吐きます。
「こんにちは」
ふたりも負けないくらい大きな声であいさつをしました。
「商店街には行ってみたかい。お祭りをやっているよ」
「はい。今、行ってきたところです」
「それじゃカボチャを見てくれたかな。立派だったろう。あれはみんなオレが作ったんだぞ。あんなに大きくて色鮮やかなカボチャはうちの畑じゃなきゃとれないからな」
おじさんはとても自慢そうに言いました。
「それはもう、とっても素敵でした。それで、そのカボチャのお願いがしたくて来たんです」
「僕らもお祭りがしたいからカボチャが欲しいの」
「そういうことならお安い御用だけど、みんなが持って行ってしまったからなあ。まだ残っていたかな」
おじさんはのっしのっしと大きな体を揺らしながらカボチャ畑に向かいました。兄弟も後に続いて行きました。カボチャ畑は見渡す限り収穫されたあとで、茶色い土だけしか見えません。するとおじさんが畑の一角を指差して言いました。
「あったあった。あそこにひとつ残っていたぞ。あれを持っていくといい」
「やったあ。おじさんありがとう」
「ありがとうございます」
「重いから気をつけて行くんだよ。オレが持って行ってあげられればいいんだけれど急ぎの仕事があってね。お祭りの料理をするとかで、収穫してすぐに届けなくちゃいけないんだよ。悪いね」
「そんなとんでもない。では、いただいて行きます」
「おじさん、うちにも遊びに来てね」
野ネズミの兄弟はふたりでカボチャを運びます。お兄さんは前でカボチャを背負い、弟は後ろから支えます。ふたりでよいしょよいしょと声を合わせて運びます。カボチャはとても大きくて重いのでふたりがかりでも大変です。長い上りの坂道では弟が前にいき、お兄さんが後ろで支えるように交代し、ふうふう言いながら一歩いっぽ上っていきました。坂を半分ほど上ったときでした、弟がぐらりとよろけてしまいました。お兄さんもバランスを崩してしまい、いけないと思ったときにはカボチャはごろごろと坂を転げ落ちていきました。ふたりは必死で追いかけましたが、カボチャは坂の下まで転がって、ぱかんと半分に割れてしまいました。カボチャの元までたどり着いた兄弟は、割れてしまったカボチャを見てへなへなとその場に崩れ落ちてしまいました。疲れがどっと出て、悲しい気持ちがこみ上げて、座り込んだまま動けずにいました。
しばらくしてお兄さんの野ネズミが言いました。
「帰ろうか」
弟の野ネズミは黙ってうなずきました。
そしてふたりは重い足取りで家路につきました。カボチャはその場に置いていくことにしました。ふたり並んでとぼとぼと歩いていると、道のわきの草むらにぼとんと大きな音を立てて何かが落ちました。おや、なんだろうと見上げてみると大きな柿の木の枝いっぱいに実がなっていて、ムクドリたちが美味しそうについばんでいるところでした。音がした草むらに入ってみると、そこには今落ちたばかりの大きな柿の実が木の枝にぶら下がっていたときのまま傷ひとつなく、つやつやと橙色に輝いて転がっていました。それを見てお兄さんはあることを思いつきました。
「ねえ、これを持って帰ろうよ」
そしてふたりは柿の実を抱えて家路を急ぎました。柿の実は大きかったけれど、カボチャに比べたらとても小さくて重くもありませんでしたから、ふたりは足取りも軽く運ぶことができました。
家につくとふたりは柿を一生懸命に磨きました。すると柿の実はいっそうぴかぴかと輝きました。次にお兄さんの野ネズミはかまどから炭を持ってきて柿に目と口を描きました。柿はお店で見たカボチャを小さくしたような姿になりました。ふたりは柿の実を家の前に置いてみると、なんだか嬉しくなってきました。
「いいね」
「うん、お祭りみたいだね」
ふたり並んで眺めていると、道の向かうからクマのおじさんがやって来るのに気がつきました。
「おーい」
クマのおじさんは急ぎ足でやって来たようで肩を上下させながらふうふう言っています。
「どうも心配になってね。仕事を大急ぎで終わらせて来てみたんだ」
「おじさん、ごめんなさい。せっかくカボチャを貰ったのに」
ふたりはカボチャのことをおじさんに話しました。
「それは残念だったね。いやいや、カボチャのことは気にしなくていいよ。それより怪我はなかったかい」
そうしておじさんは柿を見て褒めてくれました。
「これはこれで、なかなか可愛らしくていいじゃないか。色だって鮮やかでぴかぴかと光っていてカボチャに負けていないね」
それから三人はカボチャを置いてきた坂道まで行ってみました。カボチャは割れたときのままにそこに有ったので、クマのおじさんが両腕に抱えて運んでくれました。野ネズミの兄弟はカボチャでポタージュスープを作りました。そして三人で美味しく食べました。