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アロイス・モンテナハトからの商談

フィリップ・ノイマン様

アンネ・ノイマン様


 叔父様、叔母様、手紙受け取りました。

 けっきょく、あの家は引っ越しちゃったのね。まあ、テレーゼを引きずり出せたなら良かったわ。今度の家はこもる部屋もないんでしょう? いい薬だわ。これでちょっとくらいは反省してもらわなきゃ、こっちの気持ちも治まらないもの。


 もちろん、叔父様たちにも反省してほしいわ。……って、言わなくてもわかっているんでしょうけど。言葉での謝罪はもうけっこう。口だけならなんとでも言えるんだから、本気なら行動で示してもらうわよ。

 詳しい話は、同封してあるアロイス様の手紙にあるから。しっかり読んでおいてちょうだい。


 それから……えっと、追伸のことなんだけど。

 そんなに気にしないでください。あれはなんというか……恥ずかしい話だけど、単なる恨み言だから。八つ当たりみたいなもので……忘れてほしいわ。

 だから、そんなに深く考えないで。謝られるとこっちも辛いもの。いいのよ、叔父様たちにとっては、テレーゼだけが娘で、大切なのでしょう? これで私に同情して、どうこう言うような相手なら、親になってほしいなんて思わないもの。


 ……じゃあ、私の手紙はこれで。

 次はテレーゼに、嘘でもいいから謝罪の手紙くらい寄越すようにって伝えてちょうだい。


                          カミラ・シュトルム


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


フィリップ・ノイマン殿


 突然の手紙を失礼いたします。私はアロイス・モンテナハトと申します。

 このたびはカミラ嬢よりの紹介で、手紙を書かせていただきました。


 直接お会いしたことこそありませんが、貴殿のお噂はかねがね伺っております。

 芸術、こと音楽に造詣が深く、ご自身のピアノの腕も玄人並みだとか。一度、拝聴してみたいものです。

 お仕事は貴殿の才能を生かして、楽譜の編纂と販売を中心に、芸術関連の仲介をしていらっしゃる、と。その貴殿の豊かな経験と知識を見込んで、今回は相談したいことがあります。


 実はこのモーントンに、私が目をかけている音楽家が一人おります。

 かなり気難しい相手ですが、私から見ても驚くほどの才能を持った老人で――若くはないのですが、そのぶん書き溜められた譜面の量もすさまじく、このまま寝かせておくのはあまりに惜しいものばかりです。

 楽譜集にしてまとめて、広く世間に知らしめたいと考えているのですが、なにぶんこちらには経験もなく、王都で販売するにあたっての伝手もありません。どうしたものかと困っているところに、カミラ嬢からの貴殿の紹介をいただきました。


 前置きが長くなってしまいましたが、ここまで話せばおわかりいただけたことでしょう。

 貴殿に頼みたいことは、他でもありません。

 の老音楽家を、王都で売り出してほしいのです。

 楽団への紹介、楽譜の編纂と流通を一手に貴殿にお任せいたしたい。

 もちろん、これはモンテナハト家が主導で行うことです。販売の名義はモンテナハト家としていただきたい。

 今の時流であれば、この名前は強いでしょう。現時点で無名の音楽家を売るのですから、少し大げさなくらいに名前を出した方が効果的なはずです。ここで名前とともに質の良さを知らしめて、「モーントンの芸術家」という価値を確立させるのも、今回の目的の一つとなります。

 貴家の名前が使えないことを歯がゆくお思いかもしれませんが、なにぶん商売のことですのでご容赦ください。ですが名を出せずとも、それに見合うだけの報酬はお約束いたします。


 もしご関心をお持ちいただけましたなら、具体的な話をいたしましょう。その際に、くだんの老音楽家も紹介いたします。本当に難しい相手なのですが――そこも見越しての紹介だとカミラ嬢から伺っております。


 きっとこの話は、私たちによって良い結果となることでしょう。

 良いお返事をお待ちしております。


                          アロイス・モンテナハト


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