表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/145

テレーゼの知らなかった手紙

パトリック・シュトルム様


 兄さん、何度手紙を送られても、僕の気持ちは変わらない。

 兄さんの支援はいらない。テレーゼを渡すつもりもない。これまで援助してもらった金も、全部返す。今は揃えられないけど、これから一生かけてでも返すつもりだ。

 それで、もう口は出さないでくれ。これは、テレーゼの咎も、僕たちの状況も、すべて僕と僕の家族の問題なんだ。


 これまで、兄さんにはずっと世話になってきた。窮地を救ってもらったことも何度もある。そのことには、本当に感謝している。今の僕があるのも兄さんのおかげだ。それを忘れたことはない。

 だけど、兄さん。僕がいない間に、無理矢理テレーゼを連れ出そうとしたことを、僕は許すことができない。あれ以降、あの子はろくに食事もとらず、部屋でずっと泣いているんだ。


 あれが、テレーゼを立ち直らせようとしての行動だとはわかっている。

 兄さんにとって、今の僕はふがいないだろう。きっと、兄さんの考えは正しい。

 でもね、兄さん。敢えて言わせてもらう。

 余計なお世話だ。


 僕たちのことは、僕たちで解決する。

 テレーゼの罪も責任も、兄さんには関係ない。僕たちが負うべきものなんだ。それでこの状況になったことを、僕たちは受け入れている。

 借金のことも、今の仕事も、自分でなんとかする。この家も離れるつもりだから、もう兄さんからの手紙を受け取ることもないだろう。兄さんへ返す金だけは、人づてに払わせてもらう。

 これっきり、二度と僕たちの娘に関わらないでくれ。


 今まで、兄さんには本当に世話になった。恩を仇で返す真似をして申し訳ない。

 この薄情な弟を、許して欲しいとは言わない。

 ただ、今後の兄さんに幸せがあることを、心から祈っている。


                             フィリップ・ノイマン


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


我が友 フィリップ・ノイマンへ


 おい、この間の手紙はなんだ。

 事業は畳む、金を貸せ、仕事を紹介しろ、ついでに住む場所も世話しろだって? よくもまあぬけぬけと言えたものだ。

 こっちは弱小商会だって、わかっているのか? いくら友人だからって、遠慮ってものがあるだろう。これだから貴族ってやつは嫌なんだ。


 ちくしょうめ。結局、君にとって譲れないのはテレーゼだったってことか。君が兄貴と縁を切ったってことは聞いている。そりゃあ、金も必要になるだろう。

 焚きつけた俺も悪かった。反省している。でも、さすがにそのまま受け入れるわけにはいかない。


 貸せと言うなら、金は貸してやる。だけど貸すのは友としての俺ではなく、ヨアヒム・キーン商会としてだ。

 いいか、商人を甘く見るなよ。こっちは利益の出ることしかやるつもりはないんだ。

 まず、しっかり利子は取る。それから、君の今後に少し口を出させてもらうぞ。

 今の仕事は止めるな。どうせ君には目利きしかできないのだし、そもそもやり方さえ変えれば確実に儲かるんだ。これを元手にして、もう一度やり直せ。

 で、君が見つけた商品は、こっちの専売にさせてもらう。ノイマンの名前を出すのは禁止だ。適当な偽名でも使っておけばいい。

 もちろん、契約についても口を出させてもらう。放っておいたら、またろくでもない分配になるんだ。そうなる前に、交渉の場には俺も呼べ。金を出しているんだから、文句は言わせないぞ。

 条件が飲めなければ、金も住処も世話をするつもりはない。

 返事は早めに。こっちもシュトルム家には目を付けられたくないんでね。夜逃げするなら、足がつかないようにしてくれよ。


                             ヨアヒム・キーン


追伸

 内心、ちょっとスッとしているよ。

 君の兄貴を悪く言うつもりじゃないがね。どうにも傍から見ていると、君がずいぶん低く見積もられているような気がしてたんだ。

 もっとも、君は責任を感じてしまうのだろうがね。おきれいなお貴族様も、たまには痛い目を見たっていいだろう。

 さあ、再三急かすが、返事は早くくれ。これから忙しくなるんだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ