テレーゼの殴り書き
お姉さま、お姉さま、お姉さま。
なんで来てしまったの。どうしてお姉さまはそうやって踏み込んでくることができるの。
お姉さま、知らなかったのよ、わたし。
ずっと部屋にいたから、気が付かなかったのよ。
この家に、もう使用人なんて一人もいないじゃない。この家に、もうなにもないじゃない!
お父さまの大切にしていたピアノもなくなって、おじいさまの形見の本も全部なくなって、お母さまのご容体もあんなに悪くなっていて。
シュトルム家との縁を切ったってことも、返せないお金は、この家も爵位も売って足しにするつもりだったってことも。
知らなかったの。
お姉さま、わたしどうすればいいの。
お姉さま、わたしのせいで、お父さまとお母さまになにもなくなっちゃう。
……わたしが、シュトルム家に行けばいいのかしら。
わたしがいなくなれば、お父さまの仕事も上手くいくし、お金だって入ってくる。そうしたら、お母さまも医者さまに見てもらえるわ。
お父さまとお母さまは嫌がるかもしれないけど、そのほうが、二人にはずっと
あ…………。
ああ、ああ……そういうこと。
お姉さま、そういうことなの。
わたし、お父さまたちと同じことをしようとしているのね。
貧しくたって平気なのに、同じ苦労を分かち合いたかったのに。
わたしは、自分でお父さまとお母さまから離れて行こうとしているんだわ。
……お姉さま。
ねえ、お姉さま、いいのかしら。
同じ重荷を背負ってくれるのかしら。
わたし、言いたいことを言ってもいいのかしら。
本当の娘でなくても、いるだけで迷惑な娘でも、一緒にいてもいいのかしら。




