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カミラ・シュトルムにあてた手紙とその返事

カミラ・シュトルム様


 お久しぶりです。アンネ・ノイマンです。

 今回は、カミラ様に折り入ってのお願いがあり、夫であるフィリップには黙って、わたしの独断で手紙を送らせていただきました。


 頼みたいことは、他でもありません。わたしたちの娘のテレーゼについてです。


 テレーゼがカミラ様にしたことは、重々承知をしております。

 娘の行為は、決して許されることではありませんでした。娘とともに、わたしたちも償っていく思いでいます。

 それでもなお、わたしはカミラ様にお願いをさせていただきます。

 どうか、テレーゼに一度、お会いいただけないでしょうか。ほんの一目でも構いません。どんなお礼でもいたします。

 テレーゼは現在、部屋にこもりきりで、他の誰とも会おうとはしません。わたしたちが呼びかけても答えてはくれず、顔を見ることもできていません。一度無理に外に出してしまってからは、食事もろくにとらなくなってしまいました。

 ただ、このときテレーゼの部屋から、カミラ様あての手紙を見つけることができました。ほとんどは破り捨てられ、全体を読むことはできませんでしたが、何通も、何度もカミラ様に呼びかけ、会いたがっているようでした。

 もしかして、カミラ様であれば、テレーゼも呼びかけに答えてくれるかもしれません。

 わたしたちではもはやどうしようもなく、どうしてもお力を頼りたいのです。


 ぶしつけなお願いで、大変申し訳ございません。

 ですが、どうか、お返事をいただけますようお願いします。

 どうか、お願いいたします。


                           アンネ・ノイマン


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アンネ・ノイマン様


 叔母様、ご無沙汰をしております。カミラです。


 テレーゼの件については、叔父様からも手紙をもらっていますが、お二人からの償いはいりません。何度も言っている通り、必要なのは叔父様や叔母様ではなくて、テレーゼからの言葉です。


 テレーゼの今の状況は、私も話を聞いています。引きこもって、誰とも会わないんだそうですね。今までそんなことはなかったし、叔母様たちが心配する気持ちはわかります。

 ただ、これは叔母様だからはっきり言ってしまいますが、私はテレーゼに会いたくありません。伯父様や叔母様からは謝罪のお言葉をもらっても、未だテレーゼからは一言もなし。これでいったい、どうして私があの子に会えるというんですか。


 テレーゼのことで、叔母様を責めても仕方ないのはわかっています。でも、叔母様の頼みはあんまりじゃないかしら。私のこともテレーゼのことも知っているのに、よりによって私に助けを求めるなんて。きつい言い方かもしれないけど、虫が良すぎると思うわ。会いたいと言うのなら、せめてテレーゼ自身から言ってくるべきでしょう。

 そもそも、これは私ではなく、テレーゼと叔母様たちの問題じゃない。私になにかできる気がしないわ。それに、叔母様たちで解決できなければ意味がないのではなくて?


 叔父様と叔母様には何度もお世話になったし、できれば力になりたいと思っています。

 でもこればっかりは、いくら叔母様の頼みでも受けることはできません。

 申し訳ないけど、どうぞ他を当たってください。


                          カミラ・シュトルム


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


カミラ・シュトルム様


 アンネ・ノイマンです。手紙の返事をありがとうございます。

 一度断られた身で恐縮ですが、どうしても諦めきれず、また筆を取らせていただきました。


 カミラ様のおっしゃることに、反論の言葉はありません。カミラ様がテレーゼを許さないのはもっともで、あまりにも調子の良い頼み事でした。

 カミラ様がいらっしゃっても、なにも解決しないかもしれません。本来ならば、わたしたちノイマン家で解決するべきだともわかっています。


 それでも。それでも、わたしはカミラ様にもう一度お願いします。

 どんなに虫が良いと思われても、無為なことでも、少しでも可能性があるなら構いません。どうかテレーゼと会って、言葉を交わしてあげてください。

 わたしたちではテレーゼを外に出すことができません。きっとテレーゼに、真摯にあたってくることができなかったから、本当はシュトルムの娘だと、思ってしまうことがあったから。一度あの子を手放すことになってしまって、あの子の信頼を失くしてしまって、言葉を得ることも出来なくなってしまいました。

 きっとあの子にとって、カミラ様だけが偽りのない相手だったんです。ずっとあの子と一緒にいて、育ててきたのに、愛してきたのに、カミラ様を頼らなければならない自身がふがいなく、悔しい。それでも、でも、あの子はわたしの娘なんです。わたしとフィリップの娘なんです。

 あの子のためならどんなことでもします。カミラ様のお気持ちを踏みにじるようなことと知っていても、どれほど断られても、軽蔑されても、諦めません。

 わたしの娘に会ってください。わたしの娘を救ってください。

 どうか、お願いします。


                           アンネ・ノイマン


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アンネ・ノイマン様


 お手紙読みました。

 叔母様の強いお気持ちはわかりました。でも、やっぱり私は納得できません。

 テレーゼが私になにをしてきたか知っていて、私がテレーゼをどう思っているのか知っていて、それでも私にテレーゼに会えと言ってしまうんですね。

 叔母様にとってはテレーゼが一番で、私だって姪なのに、踏みにじってもいいって言うんですね。


 叔母様。私、今は叔母様に腹を立てています。

 テレーゼの話をされて、私がどういう気持ちになるか、叔母様にわからないとは言わせないわ。

 それでも、私に話をするのね。わかっていて、それでもなお。


 あんまりだと思います。私、優しい叔母様をお慕いしていました。

 なのにこんな仕打ちなんて、幻滅してしまいます。


 ……でも、叔母様は、テレーゼのためならいくら幻滅されたって構わないんですね。私にどう思われたって、恨まれたって憎まれたって、テレーゼを助けられるならそれでいいんですね。自分の娘のために、本当にどんなことでもするんですね。

 母親って、そういうものなんですね、きっと。


 アロイス様に、王都に行けないか相談してみます。

 モーントン領の方もなにかと忙しくて、あまり時間が取れないかもしれませんが、一日か、二日くらいなら、なんとかできるかと思います。


                          カミラ・シュトルム


追伸

 近いうちに王都に行くことができそうです。

 ただ、本当に私にできることはないので、あまり期待をせずにいてください。

 テレーゼに必要なのは、きっと私ではないはずだもの。


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