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-転生奇譚- リンカネーションストーリー  作者: 彼岸花
第七章:灼熱の火山、業火の赤龍
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第八十三話:瓦解

 全員が目を疑った。先程まで、自分達が戦っていたのは火山の火口、その筈だった。

 全員は時が止まる様な感覚を覚え、瞬きをしたその一瞬の間に目の前の光景が一変したのだ。


 「こいつは驚いた…。活火山が一瞬で死火山になっちまうとはな…」

 「これが大魔術…。魔術師の極致…」

 「うー…さぶー…火山の中が一瞬で真冬の白蛇山脈よー…? っていうか大魔術なんてルミネシアの十賢者ぐらいしか使い手なんていないのにねー…」


 大魔術を始めて目にする者も少なくなく、目の前の光景を一変させる程の威力に感嘆の声を漏らしている。

 そして、それとは別の形で大魔術の威力を目の当たりにした者達がいた。


 「嘘だろ…赤龍が一瞬で凍るなんて…」

 「いやぁ、相変わらずとんでもないね。船で風の大魔術を見た時も凄まじいとは思ってたけど」

 「まさか赤龍の氷漬けなんてもんが見れるとはねぇ…」

 「これ程の威力、その小さな身で…。…成る程、世界は広い、という事か…」

 

 俺達の前には氷像と成り果てた赤龍が聳え立っていた。その姿は最後に離脱する俺達にブレスを吐き付ける為に身体を反り、目一杯に息を吸い込んでいる所だ。


 「やりましたわね…赤龍討伐…」

 

 アンリは大魔術の事などそっちのけで俺に寄り添っていた。

 その隣ではすっかりへたり込んだクリスがジト目で俺とアンリを睨んでいる。


 「兄様が怪我で動けないのと魔力を使い過ぎて私が動けないのをいい事にこの人はまた…」

 「…はは、クリスもお疲れ様。…痛てて、俺も治りが早いとは言え、治療しないと…大治療(ヒール)


 折れていた肋骨が繋がるのを感じ、痛みが引いていく。俺は立ち上がり、仲間達が浸る戦勝ムードに乗ろうとした、その時だった。


 ミシ…ミシ…ピシッー


 何かが軋んでいる。他の仲間達は気付いていない様だ。軋む音はやがて亀裂が入った音に変わる。


 「みんな!赤龍から離れろ!まだ終わってない!」


 俺の声が全員を勝利に酔い痴れる虚ろな空気から現実へと引き戻す。

 氷像へと姿を変えていた赤龍は身を包んでいた氷を割り、中から這い出してきた。


 「あれでまだ生きてんのか…はは、笑えるね…」

 「恐るべき生命力…流石は赤龍、と言ったところか…!」

 「でもみんなあれを見ろ!奴の鱗が!」


 ティータが赤龍に指を差す。赤龍の鱗がバラバラと剥がれ落ちる。その下には新しい薄い鱗が生え揃っていた。


 「成る程、氷漬けになる寸前に脱皮したのかい」

 「じゃあ、今ならっ!」


 フォルクが通常の矢を赤龍の胴体に放つ。そしてその矢は鱗に阻まれる事なく簡単に突き刺さり、また矢を受けた赤龍も低温下で弱っているのか、鈍った動きで仰け反っていた。


 「でもクリスの大魔術で弱ってるわ!」

 「やるなら今ねー…装填完了、いくわよー…!」

 「みんな、もう一踏ん張りだ!行くぞっ!」


 消耗の激しいクリスとアンリを除く全員が赤龍へ止めを刺しにかかる。

 しかし腐っても鯛と言うべきだろうか、動きを鈍らせ、弱り切っているにも関わらず、赤龍は俺達の攻撃を耐え忍びながらも、反撃を止めることはない。俺達は反撃をやめず、なかなか倒れない赤龍を攻めあぐねていた。


 「ちっ…このままいけると思ったがそうもいかねえみたいだ…。ティータ、アレを使うぞ!しっかり誘導しろ!あとみんな、俺に近づくなよ…!」

 「了解だ、(あん)ちゃん!」

 「ライ…!魔光珠を使うつもりか…!みんな、死にたくなけりゃライに近づくんじゃ無いよ!」


 シェリーの言葉に従い、ティータ以外全員がライと赤龍から距離を取る。

 ライは懐から魔光珠と呼ばれる結晶を手に取り、力を込めて握り潰すと、粉々になった魔光珠が光を放ち、ライの身体を包む。砕けた魔光珠の光に包まれたライは片手で頭を抱え、低い唸り声をあげ始めていた。


 「ううううううぅぅぅぅ…ああああああぁぁっ!」


 唸り声をあげているライの身体に異変が出始める。黄色と黒の混じった髪は急激に伸び始め、やや細身の身体は全身の筋肉が大きく膨張して筋肉質の身体となり、厚みを増す。また、人の姿を保っていた時は特に目立たなかった爪や牙も長くなり、獣人というよりは人獣と呼ぶに相応しい姿となっていた。


 「アレが獣人種の真の姿…」


 魔光珠を砕き、変わり果てた姿のライを見て、声を漏らす。人獣となったライは正に二足歩行の虎そのもの、元の世界での画面の向こうの存在であるウェアタイガーそのものだった。


 「グルルルルルルル…」

 「兄ちゃん、アイツだよ!あのデカいのが赤龍だっ!行っけぇっ!」

 「ガアアアアアァァァァルラァァァァ!!」


 ティータがライに標的を示すとライは四足歩行で一直線に赤龍へと突っ込む。


 「グオオオオオォォォォ!」


 自分目掛けて走り込む黄色い影、それを認めた赤龍は雄叫びを上げて威嚇するが、ウェアタイガーと化したライは一瞬たりとも怯む事無く走り続ける。

 そして、赤龍は威嚇が無意味と分かると大きく息を吸い込み、ブレスの体勢を取る。


 「…!?」


 赤龍が突如、息を吸い込んだまま動きを止め、辺りを見回し始めた。赤龍はライの姿を見失い、自らに殺気を向ける黄色い影を探していた。

 そして赤龍は漸く発見した。眼前に再び現れた殺気と狂気の化身を。

 赤龍が息を吸い込み目線を切ったその瞬間に、ライは爆発的な跳躍力で赤龍の頭上まで跳び上がり、虚を突いた。赤龍の頭の上まで跳んだライは研ぎ澄まされた爪を振り上げたまま、赤龍の眼前へと飛び込んでいたのだ。

 

 「グルルラァァァァッ!」


 赤龍は首を引き、ライの一撃を避けようとするが時既に遅く、全身の力を込めた一撃が赤龍を捉えた。

 強力無比の一撃は赤龍の頭を吹き飛ばし、頭を吹き飛ばされた赤龍は思わずライに向けて吐き出すつもりの火炎を地に向けて吐き出す。そして尚もライは赤龍の体を、頭を、全身を引き裂き、喰らい付き、殴り付け、圧倒的な暴力を以って赤龍を攻め立てる。

 全員が呆然と赤龍を人獣がただただ一方的に攻め立てる光景を眺めている中、一人の少年が此方に静かに戻ってくる。ティータだ。


 「ああなった兄ちゃんはもう止められないよ。ああなった兄ちゃんは怒った狂戦士(バーサーカー)も真っ青の狂獣さ。変身してからどんどん理性が飛んでいって、敵って思ったヤツを殺すか、あとは動けなくなるまでボコボコにされるか、魔光珠の効果が切れるまではあのままさ。もっとも、あの状態の兄ちゃん相手に後のどっちかの二つになるまで行ったヤツなんて俺は見たことないけどね」


 ティータはそう言いながら暴れ狂うライが赤龍を蹂躙する様を見届けていた。

 確かに仲間達もその様を見ていて、ほぼ勝利を確信していた。そう、俺とクリスを除いては。

 普通の人間ならばこの時点で一方的に攻撃を続けているライを見れば誰しもが勝利を疑わないだろう。だが俺とクリスはそれ以上に強い、ただの人間(・・・・・)を知っている。


 「セオ様、赤龍が復活した時はヒヤリとしましたが、この分ならこのまま決着が着いてしまいそうですね」


 現にアンリもこの調子だ。俺とクリス以外の誰も気付いてはいないらしい、ライの異変を。


 「兄様…」

 「ああ、このまま決まればいいけど…」


 ライの攻撃を見ていると、攻撃が徐々に単調、かつ大振りになっているのがわかる。何より、攻撃を受けている赤龍よりも攻撃を続けているライの方が呼吸が荒くなりつつあるのに俺達は気付いていた。

 側から見れば確かに一撃一撃が一撃必殺とも言えるような攻撃だが、それはあくまで相手が人間であればの話だ。相手が全ての生物の頂点に近しい位置に座する龍種であるケースについてはティータも見たことが無いのだろう。現に赤龍はライの攻撃を受け続けながらも、未だに倒れる様子はなく、ただひたすらに攻撃を耐え凌いでいる。

 ライは疲れきった身体に鞭を打ち、爪を振り上げるが赤龍が遂に動き出す。

 ライのがら空きの脇腹に目掛けて頭突きを敢行する。幾ら獣化して筋力が増強されたとは言え、そこには根本的な如何ともし難い体格差があった。

 頭突きの直撃を受けたライは大きく吹き飛び、岩壁へと叩きつけられる。さらに赤龍は岩壁にめり込むライに向かって走り出していた。


 「兄ちゃん!避けろ!赤龍が来る!」


 ティータがライに回避するよう叫ぶが、ライは気を失っているのか、ぴくりとも動かない。

 そんなライに赤龍は容赦なく、その巨体から体当たりを仕掛けていた。

 ティータの叫びも虚しく、赤龍の巨体が壁にめり込むライに打ち付けられ、激しい土煙があがる。


 「あ…兄ちゃァァーーん!」


 ティータの叫びが火口内に木霊する。

 土煙が収まると、そこには変身が解け、ぼろ雑巾のようになったライが倒れていた。

 

 「グオオオォォォォ!」


 ライを倒した赤龍は勝利の雄叫びのつもりだろうか、頭を上げて高らかに鳴き声を上げる。そして足元に転がるライを見て喉を鳴らしていた。


 「まさか…!させるかっ!させるもんかっ!うわあああぁぁっ!」


 ティータは剣を抜き、ライを喰らおうとする赤龍に向けて走り出す。


 「無茶なっ!クリス、クローディアさん、二人はライさんを!皆、赤龍を止めるぞ!」


 先に走り出したティータの後を追い、俺達は一斉に赤龍の前に割って入り、攻撃を仕掛ける。

 鱗の鎧を失った赤龍に全員で攻撃を仕掛け、剣も魔術も通用している筈だが、腹を空かせた赤龍は一向に止まる気配は無い。

 大きな口を開き、赤龍はライに迫る。しかし、その前にロロが魔砲エーテルキャスターを構えて立ちはだかっていた。


 「お腹が空いてるならこれを食べるといいわー…それっ」


 ロロの魔砲が火を吹き、放たれた弾が赤龍の口内へと飛び込む。

 そのまま弾丸を飲み込んだ赤龍が少し動きを止めると、体内で飲み込んだ弾丸が炸裂したのか、突然、赤龍は激しく痙攣して倒れ込み、のたうち回り始めた。


 「効果あったみたいねー? 放電撃(エレキサンダー)弾の味はどうだったかしらー?」


 体内からの電撃で赤龍が苦しむ隙にクリスとクローディアが二人でライの肩を担ぎ、救出する。


 「かなり酷いわね…大丈夫かしら…」

 「でもまだ息はあります!少し離れましょう!」

 「セオ、足止めはアタシ達に任せてティータについてライの状態を見て来な!」

 「ライがやられてティータは冷静さを欠いてる。このままじゃ足手まといになるよ!」

 「了解しました!ティータさん、行きますよ!」

 「うわっ、離せよ!俺は兄ちゃんの仇をうつんだ!」

 「駄目です!今のティータさんは皆の邪魔になるだけです、さぁ!」


 俺はティータを担ぎ、赤龍をシェリー達に任せてライの容態を確認する為にクリス達の下に走り寄る。


 「ライさんの状態は!?」

 「全身の骨が折れてるわ。息はあるけど重傷よ」

 「クソぉ…兄ちゃん、助かるよな!? 頼むよ!兄ちゃんを助けてくれよ!」


 ティータがクリスに詰め寄るが、クリスの表情は曇ったままだ。余程の重体なのが表情からでもわかる。


 「傷は治せても体力が保つか…。獣人は皆丈夫とは聞きますが、あとはライさん次第ですね…。兄様、クローディアさん、ティータさん、皆と合流して赤龍を抑えていてください!その間に私がライさんの傷を癒してみせます!」

 

 クリスはライを治してみせると断言する。すると先程まで興奮気味だったティータもクリスにライを任せる決意が固まったのだろうか。


 「ああ、任せろ!ティータさん、少しは落ち着きましたか?」

 「ああ…クリスだっけか、兄ちゃんを頼むよ…」

 「向こうは少し押され気味かしら…」


 離れて赤龍を抑えている仲間達は赤龍の攻勢を紙一重で捌いてはいるものの、徐々に後退しつつある。それを見た俺達は急ぎ戦列に復帰するべく、走り出していた。


 俺達が戦列に戻り、クリスとライを残して今度はクローディアを加えた八人で赤龍に立ち向かう。

 クリスの大魔術とライの人獣化、ロロの魔砲での攻撃で赤龍もそれなりに消耗している筈だ。それに引き換え、こちらは全員多少の疲れは見えるものの、俺達が戻ったことで少しばかり余力が現れていた。


 「クリスがライさんの治療に当たっています!ですが可能ならここで倒すつもりでいきましょう!」

 「「おうっ!」」

 「空歩法(エアステップ)…、俺が前に出ます。皆は援護を!」


 そう言って俺は勢い良く空中を蹴って赤龍に攻めかかる。

 赤龍の目の前を飛び回ると、赤龍は明らかに嫌そうに鋭い爪を振り、また恐ろしい牙を剥き出して喰らい付こうとするが、それらを全て紙一重で躱す。勿論一撃でも食らえばライの二の舞だ。絶対に当たる訳にはいかない。

 ぎりぎりまで引きつけて躱しては斬りつける。その隙に誰かが攻撃を重ね、確実に赤龍の体力を削っていく。

 作戦は機能し、赤龍の傷は次々に増えていった。しかし、赤龍の顎に斬りつけ大きく仰け反らせた後、突然、事態は急変する。


 「よし、いけるぞ!このままダメージを重ねていければ…」


 仰け反りから立ち直った赤龍が異様な雰囲気を放つ。


 「…何だ…?」

 「ギャアアァァァァオオオオォォ!」


 赤龍は大きく息を吸い込むと凄まじい雄叫びをあげる。その雄叫びは火口中に響き、地面さえ揺らすような大音量だ。


 「ぐあぁっ!」

 「くううっ!」

 「耳がっ…!」


 赤龍の雄叫びに全員が耳を塞いで怯む。そして赤龍を見上げた。何かが違う。全員がそれまでの赤龍とは違う感覚を覚えていた。


 「奴の目の色が変わった!全員気を付けるんだ!赤龍が遂に怒ったぞ!」


 フォルクが全員に赤龍の異変を伝えると同時に赤龍が此方を睨みつける。文字通り、目の色を変えて怒りを露わにする赤龍を前に全員が息を飲んでいた。

 そして、それまで赤龍が本気すら出していなかった事を俺達は思い知らされる事となった。


 ーーー


 「ちょっとー…マズったかしらー…」

 「くっ…ここまでね…」


 赤龍が怒り、最初に倒れたのはロロとクローディアだった。

 ロロが魔砲の弾丸の装填中にクローディアが援護に回っていたが、赤龍の威力を増したブレスに二人は吞み込まれてしまった。

 


 「やっぱり龍種は雷属性ねー…ええと、弾は…」


 荷物から弾薬を探すロロを赤龍が睨む。先程、食事の邪魔をされた事で赤龍の怒りを買っていたのだろう。赤龍はすぐに息を吸い始めていた。


 「ロロ、ブレスが来るわ!」

 「ああ、あったわー…えっ?」


 ロロは漸く弾薬を発見するも、クローディアが身を呈してロロに覆い被さる。その後ろからは赤龍の怒りの炎が既に迫っていた。


 龍皮のローブを着込んだクローディアがロロを庇う形でブレスを受けた為、消し炭になるのは免れたが、それでもその威力を前に二人が立ち上がる事は無かった。


 ーーー


 「…アタシもヤキが回っ…たね…。でも…一矢は…報いた筈…だよ…」


 次に倒れたのはシェリーだ。

 クローディアがブレスに倒れ、怒りを露わにした彼女は赤龍に取り付き、赤龍に攻撃を仕掛けるが、そのまま振り解かれた際に壁に叩きつけられてしまう。



 「よくもクローディアをっ!」


 友人であるクローディアが倒された事に怒り、牙を剥き、耳を尖らせたシェリーは猫人種ならではの身のこなしで赤龍の頭上へと、駆け上がる。そして彼女は右手の鉤爪を赤龍の右眼へとねじ込んだ。

 吹き出す青い返り血に塗れながら、彼女は赤龍に吐き捨てる。


 「どうだい!胴体じゃ大した事は無いだろうけど目玉ならちったぁ効いただろ…うわっ!」


 眼に攻撃を受け、痛みによって赤龍が暴れ始める。

 シェリーは必死に頭にしがみついていたが、遂に振り解かれ、そのまま壁に叩きつけられてしまう。彼女は少しやり切った様な顔をしていたが、そのまま目を閉じ、力尽きていった。


 ーーー


 「くっ…無念…。ティータよ…すまん、ライの仇は討てなかった様だ…」

 「…兄ちゃん…くっそぉ…くっそぉぉ…!」


 シェリーに続いて倒れたのはグラントとティータの二人だ。ティータが注意を惹きつけ、その隙にグラントが赤龍の尾を両断するが、その反撃はティータに向けられた。躱しきれないティータをグラントが庇ったものの、強力な前脚からの殴打はグラントの巨体をティータごと吹き飛ばした。



 「グラントのおっさん、アイツは小回りが利かない筈だ!オイラがアイツの注意を惹くからおっさんはその隙に!」

 「心得た。ティータよ、無理はするなよ!」


 ティータが細剣を抜き、赤龍の踵に剣を突き立てる。大した傷を与えた訳ではないが、それでも赤龍は怒りのままに尻尾を振り抜きティータを吹き飛ばそうとする。


 「そんな大振りが当たるかよ!今だおっさん!」

 

 身体を捻りながら振り抜いた尻尾は空を切る。ティータは赤龍の股下へと潜り込み、グラントへ合図を送る。

 作戦通り、攻撃の態勢に入っていたグラントは無防備な状態の赤龍の尾に大槍を力の限り振り下ろし、赤龍の尾を叩き斬る事に成功する。

 ティータは尻尾が斬られた瞬間、直ぐに赤龍から離れ、作戦の成功を喜んでいた。


 「へっ!どんなもんだい!」

 「ティータ!気を付けろ!赤龍はお前を狙っている!」

 「…へっ!? う、うわあああああ!」


 尻尾を斬られながらも赤龍は怯む事なくティータに狙いを定め、前脚の爪を振り上げていた。そして無慈悲にもその爪は袈裟に振られ、ティータに迫る。


 「うわあああああ…っあれ?」


 ティータは赤龍の爪が自らに迫っている事実に気付き、目を瞑り叫び声をあげていたが、振り下ろされた

筈の爪はやってこない。そしてティータの頰に数滴の液体が触れる。恐る恐る瞑っていた目を開くと、そこには、大槍で赤龍の前脚を受け止めているグラントの姿が映っていた。

 グラントはティータに振り下ろされた前脚を大槍で受け止めたが、完全に受けきれた訳ではなく、大きな爪の先端が肩へと食い込んでおり、グラントも肩から血を吹きながらもなお、耐えていた。


 「おっさん…!?」

 「早く…離れろ…、もう…保たん…!」


 赤龍の圧倒的な膂力を前に、震えながらも耐えていたグラントだったがその限界は遂にやって来る。

 グラントは押し切られ、振り抜かれた前脚に胴体を斬り裂かれ、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 そして逃げ遅れたティータはグラントに巻き込まれてグラントと岩壁に挟まれてしまった。


 ーーー


 怒り狂う赤龍の暴威を前に次々と倒れて行く仲間達、それまで全員健在で保っていた戦線はあっという間に瓦解し、既に残ったのは俺達とライを治療しているクリスの四人だけとなってしまった。

 怒りを露わにし、片目を潰され、尻尾を失いながらも赤龍は未だに立ち続ける赤龍。

 クリスは瀕死のライの治療で手が離せない。

 俺達はたった三人で満身創痍の赤龍と対峙していた。

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