第八話:討伐作戦(前編)
ガスターが村から去り、半年が経った。季節は秋だ。
半年前、初めてのクリスとの模擬戦を含めると合計七回クリスと模擬戦を行っている。現在の勝敗は三勝二敗二分けだ。どうにか俺の勝ち越し。初回こそ魔術戦で制したが以降魔術戦では全敗している。
クリスはまだまだ魔術の能力が伸びているようだが、俺はどうやら伸び悩んでいるらしい。その代わり剣術に関しては色々と研究をした結果、魔力を絡めて相殺する技術を身に着けた。剣術に関してはまだまだ伸び代を感じている。
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「全員揃ったな。では、今回の討伐作戦の説明を始める。今回は村周辺で活性化する魔物の調査、及び討伐が主な目標だ」
カルマン村の自警団の詰め所には自警団長である父・アルフレッド、各分隊の隊長・副隊長の面々が出席している。半年間の活動で俺とクリスはそれぞれ第一・第二分隊の副隊長に選任されていた為、俺達も会議に出席している。中央の机には村周辺の地図とその上に青い石が広げられておりそれを全員で囲っている形だ。
作戦会議で話された内容はこうだ。
「どうも最近、村の周囲の魔物が活性化しており、行商人や村人に少なからず被害が出ているそうだ。そこで村の自警団で村周辺の魔物の討伐作戦を展開する。各分隊の筆頭格を中心とし脅威を排除する。
村の周囲によく出没する魔物としては小鬼、豚鬼、野闘牛、森狼あたりの危険度E~Dの大して強力とは言えない魔物ばかりだが、被害に遭った行商人の証言ではこれらの魔物とは全く違う魔物を見かけたという情報も出ている。
とはいえ、自警団員でも危険度Bに指定されるような魔物を単独で倒しきれる人物は数名いるため余程の大群や強力な個体の襲撃でもない限りはそう心配する必要もないだろう」
「次に各分隊の構成だ。
第一分隊はジェイソン、セオドア、ミシェイル、ハインツ、フランカ、エリクの六名。主に小規模な集団や強力な個体を担当。
第二分隊はヴァリオ、クリス、クロエ、ラヴィニア、レイモンドの七名。主にクリスを筆頭とし、大規模の群れ、及び遊撃を担当。
第三分隊はケビン、ヨアヒム、ニールス、ヘクター、アレクセイ、ホーマーの六名。主に村の各門の守護を担当。
万が一に備え、俺と領主様の手勢で村に侵入した魔物の対応を行う。細かい編成は各隊の裁量に任せる。以上だ。質問・意見があれば今受け付ける。…無ければ解散だ。作戦は明朝、陽の三刻より開始だ。各員の健闘を祈る!」
隊長会議は解散、各隊はそれぞれに集まり、改めて会議を始める。
「さて、配置だが、まず前衛は俺とセオ。側面はハインツとエリクに任せる。フランカは中央だ、周囲の援護を頼む。ミシェイルはいつも通り斥候だ、離れすぎない程度に好きに動いていい。周辺の警戒を頼むぞ」
小さなテーブルに拡げられた小石を動かしながらジェイソンが隊列の配置を決定する。
斥候:ミシェイル
前衛:ジェイソン セオドア
後衛:ハインツ フランカ エリク
何処かで見たような配置だが妥当と言った所か。
「状況によっては第二小隊と合流しての戦闘となることもある。全員立ち位置に注意しろ。特に合流時はクリスの魔術の巻き添えにならないよう周囲に気を使え。あとセオ、向こうでも既に伝えてある事項だが、森林内での戦闘だ。炎魔術は今回は使うな」
「了解しました、雷魔術も同様に危険かと思いますのでこちらも控えます」
「セオがアタッカー、俺が盾役とサブのアタッカー、ハインツとエリクは側面の盾。んでフランカが後方支援でミシェイルが斥候って形になるかね、こんなもんか」
一通りに隊列配置が決定し、動きを確認すると、全員は明日に備え、各々帰途に就く。
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翌日、予定通り陽の三刻にカルマン村自警団による討伐作戦が開始される。
(セオドアサイド)
森に入ると直ぐに小鬼と豚鬼の混成部隊に遭遇、普段の構成に比べ明らかな程に数が多い。元王都の騎士の指導の元で鍛え上げられた自警団の隊員は大した傷も負うこと無く森の奥へと歩を進める。
個体で小鬼や豚鬼にも遭遇するが大した相手ではない。次から次に魔物の屍が積み上がる。
「やはりおかしいな。普段なら真っ直ぐ森の中を歩いてもそうそう遭遇するもんじゃねぇんだが…」
ジェイソンは大振りの手斧を担ぎ、首を傾げている。
「やはり何かが起きている、と見るべきでしょうか。…!」
ミシェイルが木の上からハンドサインを出している。
「魔物発見、小型が七体、大型一体の合計八体。風下に移動…」
森狼だろうか。確かに奴らは鼻が効く。ジェイソンが俺達に迂回を指示。風下へと静かに移動した後、ミシェイルが真上の木から降りてきた。
「弾頭猪ね…少し数が多いわ。群れの構成を見るに、親が1匹、子供が7匹ってところかしら」
ミシェイルの口から出た魔物の名は聞いた事の無い名前だった。
「この季節、極たまにこの辺りでも出現報告があったのは知ってたが…ここらで実際に見るのは初めてだな。本来なら山中に生息する魔物のはずだが…縄張りを拡げたか、あるいは追われたかってトコか」
「恐らく対応できるのは俺とお前とセオぐらいか、…三人にゃ悪いが、恐らく厳しい。ここは下がってもらう」
フランカ、ハインツ、エリクの三人は静かに「了解。」と頷き木陰へと下がる。
「牽制と漏れたヤツの処理はミシェイル、お前に任せる。俺が受け止めて後ろについたセオが仕留める。これでいこう」
ミシェイルは頷くとすぐに木の上へ消える。
「大地の神よ 大いなる恵みにて 我に頑強なる鋼鉄の体を与えよ 鋼鉄化」
「ジェイソンさんって魔術使えたんですね」
「少しな。行くぞ、準備しろ」
気を引き締める。ジェイソンが風下からその巨体からは想像できない速度で弾頭猪に斧を振り下ろす。
「ブギィィィ!」
弾頭猪の子供の頭が落ちる。そのままジェイソンが斧を振り払うが弾頭猪達は直ぐに飛び退き、斧が空を切った。
「伏せてっ!」
ミシェイルの声を聞き、ジェイソンと俺は身を屈める。無数の光を纏った矢が弾頭猪達に降り注ぐ。散弾のように放たれたミシェイルの矢は次々と弾頭猪の子供を貫いた。三頭は急所に矢が直撃、即死だった。恐らく今のも魔術を利用した攻撃だろう。親とみられる弾頭猪にも数本矢が痛々しく刺さっているがまるで効いている様子はない。
「ブオオオオオオォォォォォォォ!」
親の弾頭猪の咆哮があたりに響き渡る。その咆哮に反応して子供の弾頭猪二頭がその小さな体躯からは想像も出来ない様な凄まじい速度で突っ込んできた。ジェイソンが一匹を斧で受け止める。もう1匹はジェイソンの体を逸れて後方に立っていた俺の肩を掠めていきそのまま木に直撃する。
その威力は投石機から放たれる大岩が直撃したかのようで弾頭猪の子供がぶつかった一本の木は中程から圧し折られていた。
ジェイソンはそのまま弾頭猪の頭をかち割り、俺は木にぶつかった弾頭猪の体に剣を突き立てる。
残るは1匹。子供を殺され激昂した弾頭猪の猪は鼻息を荒げ、前足で地面を蹴る。
「来るぞッ!」
ジェイソンは斧を構え、大地を踏みしめ受け止める体勢を取る。
キュインッ!
まるで砲弾のような突進はやや逸れてジェイソンの体を掠める。体の頑強さを強化して受け止める体勢を整えていたジェイソンを軽く吹き飛ばし、なおも勢いは死なず、木々をなぎ倒していった。
ミシェイルは倒れる木から飛び降り、無事の様だ。
ジェイソンがむくりと立ち上がる、吹き飛ばされはしたが重傷には至っていない様だ。
「ちょっと、受け止めるならしっかり受け止めなさいよ!」
「すまんすまん。受け止め損ねた」
あれだけの威力の突進を直撃ではないとは言え、体に受けたがダメージらしいダメージを受けていない。ジェイソンの強靭さが窺い知れる。
ジェイソンが再び受け止める体勢を取り、弾頭猪の砲弾のような突進が繰り出される。ミシェイルが飛び上がり、突っ込んでくる弾頭猪の軌道上に矢を放つも突進の威力の前に弾かれる。弾頭猪の突進はジェイソンの体に直撃。しかし、ジェイソンの体勢は崩れること無く弾頭猪の突進を受け止め、完全に勢いを殺した。
ジェイソンの陰にいた俺はすぐに飛び出し、弾頭猪の後ろ足を斬りつける。毛皮は硬く、浅い。ジェイソンの斧も頭に直撃するが木々をなぎ倒す強靭な弾頭猪の石頭の皮膚を切り裂くだけに留まった。
「ここならどうかしら!」
弾頭猪は直ぐに距離を取る。ミシェイルが脇から目一杯弓を引き絞り、弾頭猪の脇腹へと矢を放つ。
矢が脇腹の肉に深く食い込み弾頭猪は大きく体を仰け反らせた。
「腹が弱点か!」
弱点に気付くも、弾頭猪は突進の体勢を再び始める。ミシェイルの矢も間に合わない。ジェイソンも受け止める体勢を取っていない。地を這うように俺は突進の射線に滑り込む。
弾頭猪の突進は単純だった。爆発的な後ろ脚の推進力で真っ直ぐに突っ込むだけである。それ故に体が宙に浮く。仰向けに滑り込み、剣を下から腹に向けて突き出した。弾頭猪の腹に剣が通る。
弾頭猪の腹に刺さった剣は弾頭猪自身の突進の勢いでそのまま腹を縦に割いた。ジェイソンはそれを見て体を反らし直撃を避ける。
弾頭猪は地面に着地し此方を睨む、割かれた腹からは青黒い液体と内臓を零していた。足を震わせ、息も絶え絶えに。そして漸く力尽き、その体躯をゆっくりと横たえた。少し藻掻くも、直ぐに弾頭猪は息を引き取った。
「その辺の弾頭猪とは違ったな、今のヤツはどう見てもAまでは行かんだろうが危険度Bの上位クラスだ」
「本来ならC上位からBの下位クラスってトコなんだけどね」
分隊の他の三名も合流し休憩を取ることにした。弾頭猪が切り倒した丸太にジェイソンとミシェイルが腰をかけて話し込んでいる。
「魔物の活性化にしても少しおかしいですね」というのはハインツの言葉だ。
俺とエリクとフランカは討伐した弾頭猪から討伐の証となる右耳を削いで、一箇所に集めていた。時刻はそろそろ陽の六刻を過ぎる頃だった。
森の奥から他の自警団員が現れた。第二分隊の斥候を務めるクロエだ。
「第二分隊苦戦中。援護をお願いします」
クロエが手短に話す。
「やはり、この森にいない魔物か」
ジェイソンは察したかのように口を開く。
「はい。巨躯蜥蜴です」
静かな森の奥から地響きが聞こえていた。




