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第四十九話:凱旋

守護者の間の奥の扉を潜り、細い通路を進むとそこには扉があった。扉を開け中に入るとそこには浮遊している魔石と一本の槍が祀られていた。

浮遊している魔石は人の頭大程の大きさで淡い蒼白の光を湛えている。


「おぉ、こいつはでけぇな。セオ、こいつがこの迷宮の核になってる魔石だ。初めて見るだろ?」

「ええ、今まで見たのは剣なんかの魔導具に埋め込まれた金貨と同じくらいのサイズですが…大きいですね」


 俺達は全員、魔石の大きさとその魔石が放つ神秘的な蒼白い光に見惚れていた。

 

 「さて、じゃあセオ、その魔石を取り上げるのはお前の役目だ」


 ジャックに背中を押され、魔石の前に押し出される。振り返ると五人が俺の顔を見て頷いていた。

 薄ぼんやりとした今にも消えそうな輝きを放つ魔石に触れると一瞬だけ強く輝き、その光が失われる。魔石に込められていた魔素が光を放っていたのだろうか、魔石に触れた瞬間、魔素が俺の体の中に流れ込んでくる感覚を覚える。

 光を失い、無色透明になった魔石を両手でしっかりと掴み頭上に高々と掲げた。


 「『帰らずの迷宮』、踏破だ!」


 手に入れた魔石を丁寧に布袋の中にしまい込み、次に一緒に祀られていた槍をアンリエッタが手に取る。


 「軽くていい槍ですわ。それにこれは…魔石ですわね」


 アンリエッタが手に取った槍は白銀に輝き、柄の部分に前世で言う所の大陸の方でよく見かける龍が巻きついた様な装飾が施されており、その龍が魔石を咥えこんでいた。

 

 「これは全部魔導銀(ミスリル)で出来てるわね。魔導具の一種と見て間違いないわ」


 パーティーの中で槍を扱えるのは俺とアンリエッタだけだ。だが俺は剣のほうが得意で、最もうまく槍を扱えるのはアンリエッタだ。故に自動的にこの槍はアンリエッタの手に渡る。


 「これで、全部終わりだな。あとはどうする?まだ踏み込んでない場所も幾つかあるが、全部確認していくか?」


 ジャックが俺に確認するが、俺は帰還を選ぶ。数日間に及ぶ探索で疲れたというのもあったが、なによりこの騎士剣の事も調べたかった。マリオンですら解らない材質でできた剣で俺とクリスにしかまともに扱えない不思議な剣だ。得体の知れない剣である以上、一刻も早くこの剣の正体を知りたかった。


 「じゃあ、帰るか!」


 ---


 迷宮内をまた数日かけて入口まで戻る、その道中に魔物がいたが迷宮の踏破者である俺達を見るなり逃げるようになった。お陰で戦闘も殆ど無く、真っ直ぐに入口まで戻ってこれた。

 入口に着けていた舟に乗り込み、洞窟の外に出ると、時刻は夕暮れ、陰の零刻ぐらいだった。

 橙色の夕焼けが海を染め上げた光景が目の前に広がっており、全員がその美しい風景に感嘆の声を漏らしていた。


 「セオドア様、綺麗ですわね…」

 「ちょっと、アンリエッタさん?」


 アンリエッタがどさくさに紛れて俺に寄り添い、手を重ねている。それに気づいたクリスが睨みつける。

 他の面々もそれに気付き、それぞれに反応を示している。マリオンは顔を赤らめていた。


 「おいおい、イチャつくのは構わんが、とりあえずそういうのは宿に戻ってからな?」

 「お坊ちゃま、旦那様も別に女性とお付き合いなさるのは容認されると思いますが、ご結婚は成人してからお願いしますね?」


 ジャックとアリーシャは茶化しにかかっていた。そうだ、忘れていた。アンリエッタは俺を狙っているのだ。とは言え、アンリエッタは所謂、美女だ。歳こそ十程離れているが、俺自身満更でもなかった。

 

 ---


 そうしている内に舟が漁村へ到着する。村中に俺達の事が知れ渡っていたのか、「帰らずの迷宮」から誰一人欠けること無く帰還した俺達に村人が驚いていた。


 「これは驚いた。あの魔窟から無事に戻って来る者がおったとは…」


 そう話すのは酸魔導人形(アシッドゴーレム)の撃破の手掛かりとなった小瓶をくれた村長の老婆だ。


 「いえ、無事にあの迷宮を踏破できたのはお婆さんから頂いた小瓶のお陰です。本当に有難うございました」

 「結局あの小瓶の中身の粉は何だったのかの?」


 俺が礼を述べると老婆が小瓶の中身の正体について尋ねる。


 「あれは…石灰です。貝や卵の殻なんかを焼いて粉にした物ですね」


 どうやら石灰自体珍しいものでもなく、この世界でも家の壁面の塗材として割りと日常的に使われている素材らしい。


 「なるほど、そんなものが使えるとはの…今後あの迷宮が蘇った際はもっと生還者が増えそうじゃな」


 迷宮は蘇る。その時は俺達の攻略法がまた新たな冒険者に受け継がれ、迷宮の踏破の成功率は自然と上がっていくのだ。

 村長の老婆もこの村に立ち寄る冒険者が増えると見据え、すこし顔を綻ばせている。辺境の寂れた漁村も今後は少しばかり立ち寄る冒険者も増えるだろう。


 「とにかく、今日はもう遅い。村の宿に泊まっていきなされ」


 俺達は老婆に勧められるまま、村の宿に泊まることにした。

 舟の上でジャックやアリーシャがああ言っていたが村の宿は部屋が二つだけだった。男女がそれぞれの部屋に泊まっており、ジャックが気を利かせたつもりか暫く部屋から離れていたが、流石にアンリエッタが此方の部屋に来ることはなかった。恐らくクリスの目が光っていたからだろう。


 翌日、宿を出て、村長の老婆に別れを告げ漁村を後にした。

 帰りの道中、アンリエッタとクリスが終始火花を散らしており、俺は気が気じゃなかったが特に何事も無くエルダまでの数日の道程を終える。


 ---


 迷宮からエルダの街に帰り着く、時刻は夕刻、陽の十一刻を回っていた。

まずはギルドへと報告のために赴くと顔なじみの冒険者達が酒を片手に俺達の帰還を歓迎してくれた。


 「おお!セオ達が還ってきたぞ!この街の英雄達の帰還だァ!」

 

 景気のいい声と同時に俺達は冒険者達に囲まれる。俺達の帰還によって既に出来上がっていた冒険者達は興奮しさらに強い熱気を纏っている。

 そんな中カウンターの奥から手を鳴らす女性の姿が見えた。


 「ほらぁ貴方達、報告が先よぉ。歓迎はその後でねぇ」


 ギルドマスターのカリサの声で冒険者の群れがカウンターまでの道を開ける。俺達はカウンターの前に集まり、迷宮の深奥で確保した魔石を布袋から取り出しカウンターに魔石の塊を置く。


 「迷宮探索ご苦労様ぁ。これは間違いなくA級の迷宮踏破の証ねぇ。とりあえずはS級冒険者昇格の条件は達成って所かしらねぇ」


 カリサが魔石をまじまじと見ながら話す。そしてアンリエッタとアリーシャを見やり、二つの同じデザインの徽章をカウンターの中から取り出した。徽章は龍をあしらった白金の地金、それに蒼の宝石が埋め込まれている。

 

 「まずアンリエッタちゃんとアリシア…いえ、アリーシャちゃんは直ぐにS-級に昇格ねぇ。手続きは此方で済ませておくわぁ。この街からS級冒険者が二人も排出できて私も鼻が高いわぁ」


 カリサがそう言いながら二人に徽章を渡すと同時に酒場の方から歓声が上がる。その前にカリサはアリーシャのことをアリシアと言いかけたが、やはり知っていたのか。


 「あとは他の皆も一つずつ昇格ねぇ。もう迷宮の踏破っていう条件は満たしてるからあとは他の依頼をこなすだけで貴方達もS級に上がれるわぁ。頑張ってねぇ」


 俺達もそれぞれ、新しい徽章を受け取る。俺とクリスとマリオンはA+級の冒険者の徽章を、ジャックはA級の冒険者の徽章をそれぞれ手に取っていた。

 

 「で、この魔石はどうするかしらぁ?ギルドで買い取っても構わないし、自分たちで使うのも問題ないわぁ。貴重な無色魔石だから結構いい額になるわよぉ?」

 「カリサ、買い取った場合って幾らになるんだ?」


 カリサが魔石の処遇について提案するとジャックが売却した場合の金額について尋ねる。


 「そうねぇ…この大きさの無色魔石なら聖銀貨二〜三枚は下らないかしらねぇ。勿論査定した上で精算するから少し時間がかかっちゃうけどそれぐらいはするかしらねぇ。あとこの大きさだとこの街じゃ加工も難しいと思うから売ってしまうほうがいいと思うわぁ」


 聖銀貨はこの国では最も価値の高い帝金貨から二つ下の貨幣だ。一般の市民では恐らく一生かかって漸く手にすることが出来るかどうかという大金であり、騎士でもなかなか手にすることはない程だ。それに加工にも回し難いと聞いた俺はその場で決定した。


 「じゃあ売却の方向でお願いします。精算までどの位掛かりますか?」

 「多分二~三日もあれば終わると思うわぁ、少し待って頂戴ねぇ?」


一通り迷宮探索の報告を終えた俺たちを待っていたのは酒場で飲んでいた冒険者達だ。気がつけば最初にいた人数より増えていた。恐らく周りの酒場からも仲間を呼んできたのだろう。冒険者達は今か今かと俺たちを囲むのを待ち構えていた。

報告を終えカウンターを背に一歩踏み出すと直ぐに冒険者達が雪崩をうって押しかける。

瞬く間に冒険者の群衆に飲み込まれた俺達の体はあっという間に宙に舞っていた。


「胴上げだぁ!我らがエルダの街の冒険者の英雄を讃えろォ!」

「『魔剣』のセオドアとその仲間達に祝福を!」


いつの間にか俺やクリスにも二つ名が付いていた。俺は『魔剣』、クリスは『大魔』。また、ジャックも『裏道』から『追風』という二つ名が付けられていた。さらにアリーシャも既に忘れられていたかつての『黒染』の二つ名に代わり『刃風』と呼ばれていた。


冒険者達による胴上げが終わると大宴会が始まった。


---


「…そこでよ、セオとアンリが苦戦している所で俺の出番ってわけよ!紅色魔石を生ける鎧(リビングアーマー)の鎧の中に掏摸いれたのさ!」


ジャックはすっかり出来上がり自身の活躍を自慢している。その後ろではマリオンも負けじと武勇伝を披露していた。


「第二層に降りるなり通路を埋め尽くす程の屍人形(ゾンビ)の群れに囲まれた所で血路を開いたのがアタシよ!群がる屍人形達をこの槌矛と手斧で薙ぎ倒したわ!」

「とか言いながら、最後に転んで逆にピンチに陥るオチまで付いてましたわね」


アンリエッタがマリオンの武勇伝に味噌をつけると群衆は大笑いしていた。武勇伝を笑い話に変えられたマリオンが憤慨する。


「アンタ達が直ぐに援護してくれればあんな事にはならなかったわよ!」

「それは仕方ないですわ。貴女と違って私たちは最初から光属性の魔力付与(エンチャント)なんて出来ませんもの、でしょう?武装修道女(バトルシスター)さん?」


ジャックが武勇伝と酒に酔い、マリオンとアンリエッタが騒ぐ中、アリーシャはというと酒豪を豪語する

冒険者達を相手取り飲み比べを始めていた。


「うおおお!この姐さん凄え飲みっぷりだ!五人抜きだぁーー!」

「少し酔ってきましたが、まだまだイけますよ。さぁ次はどなたが挑戦しますか?」


ジョッキの酒を飲み干し少し顔を赤らめたままアリーシャが対戦相手を求めて挑発する。十余年一緒に生活していたがアリーシャがここまでの酒豪とは俺もクリスも知らなかった。

俺達も折角の宴会という事で酒場の隅でこっそりと酒を煽っていた。

そんな中、ギルドの入口のどよめきに気付く。


「エルダ守護騎士隊長バレンティン・ブルームーンである!道を開けよ!」


バレンティンだ。彼は守護騎士隊の騎士達を引き連れやってきていた。その中には妻であるグラディスも混ざっている。この乱痴気騒ぎを止めに来たのだろうか。騎士達は樽などの大仰な荷物をそれぞれ抱えていた。

バレンティン達は荷物を下ろすと俺の前に直立不動の姿勢で整列する。


「通報があって来た!セオドア・ホワイトロック、並びに他五名をこの場で…」


騎士達が現れ重い沈黙が続く。俺達は何もやましい事はしていない筈だ。俺は息を飲む。


「A級指定の迷宮踏破を祝わせてもらう!」


硬くした表情をバレンティンが突然緩ませ満面の笑みで宣言した。


「ちょっと!悪い冗談はやめて下さいよ!一瞬肝が冷えましたよ!というかいいんですか?騎士隊長自らこんな…」

「いやぁ君たちが迷宮探索から帰還した報せを受けてね、居ても立ってもいられなくてつい部下を連れて来てしまったのさ!さぁ皆、今日は飲め!騒げ!少しながら差し入れを持って来た!今日は思う存分飲んでくれ!」


そう言いながらバレンティンがカリサに目配せをし、カリサもウインクを返す。成る程、この人が犯人か。

バレンティンの宣言で静まっていた酒場が再び賑わい始め、バレンティンとグラディスの二人が俺とクリスの向かいの席に着く。


「さて、先ずは迷宮の踏破、おめでとう。よければ話を聞かせてもらえないか?」


バレンティンは葡萄酒をジョッキに注ぎ、俺達に勧める。


「いいんですか?俺達未成年なのに酒を勧めて」


そうバレンティンに尋ねると「構う事はない」、と断じた。その隣でグラディスが嘆息していた。


「…何から話せばいいやら…」


---


「…という訳です。こんな所ですかね」


俺はバレンティンとグラディスに漁村の到着から迷宮踏破に至るまでの経緯をかいつまんで話すと二人は冒険譚を聞かされる子供の様に目を輝かせていた。


「ははぁ、頭の回転の速さはどうも母であるセリーヌ殿譲りなのか、兵長ではその様な攻略は思いつか無かっただろう。だがその戦いのセンスは紛れも無く父であるアルフレッド兵長のモノだろうな」

「アルフレッド兵長の力と、セリーヌ様の知識、もって生まれた才能であるならは流石と言うべきでしょうね」


二人は相変わらず俺達をべた褒めだ。


宴は更に賑わっている。冒険者の若い女性に挟まれ上機嫌なジャック。アンリエッタはこちらをチラチラと見ているがバレンティン夫妻の前では滅多な行動には出られない様だ。隣にはクリスもいる。

マリオンとアリーシャはと言うと酔い潰れた冒険者達に囲まれ飲み比べをしていた。二人とも上着を脱ぎ、上半身は下着姿だ。


「どんだけ飲むんだこの二人…!もう二人で一樽空いたぞ!」


二人の飲みっぷりはちょっとしたショーになっており、周りに転がる酔い潰れた冒険者達の更に周りには冒険者達が騒いでいる。


「ヒンゲンのわりにあなかなかイケる口らない、れもまらまらアタヒはイケるらよ…!」

「マリオンひゃまこしょ、しゃすがに鉱山族(ロワーフ)らけあっへ、なかなか潰れまひぇんねぇ…!」


もはや二人とも呂律が回っていない。だがまだまだ二人の飲む勢いは止まらなさそうだ。

そんな中バレンティン夫妻が立ち上がる。


「よし、では我々も一つ余興を披露しようではないか!」


バレンティンがそう言うと部下の騎士が弦楽器を用意していた。マンドリンの様な楽器をバレンティンが手に取り掻き鳴らすとそれに合わせてグラディスが歌いだす。それに釣られて群衆も手を叩き、踊り始める。

その中でクリスも俺の手を取り群衆の中心へ引っ張り出した。


「お、おいクリス、俺は踊りなんてわからないぞ?」

「兄様、こういうのはその場の雰囲気に身を任せるものです」

「ははは、クリスティン殿は兄のセオドア殿よりこういった場は得意と見える。そうとも、この場は楽しんだ者勝ちだ」


俺は覚束ない足取りで音楽に合わせて踊る。クリスはと言うと、もう周りに馴染み、軽やかな足取りでステップを踏んでいる。しかし、ここが好機とアンリエッタは見逃さなかった。俺とクリスの間に割って入り俺の手を取る。アンリエッタに手を引かれつんのめった先、控えめではあるが柔らかな感触が俺の顔を覆った。


「セオドア様ったら…大胆ですわね…」


アンリエッタは更に俺の頭を抱き、自身の胸を押し付ける。待て、大胆なのはアンリエッタ、お前の方だ。

アンリエッタの腕が緩み、解放されたかと思った矢先、アンリエッタは俺の顔に手を回し自身の唇を俺の唇に重ねた。


「むぐっ…」


突然の出来事に俺は抵抗できずにただなすがままに唇を許してしまう。周囲の群衆が囃し立て、バレンティンはニヤつきながら演奏をヒートアップさせる。

…クリスはと言うと、当に鬼の形相でこちらを睨んでいた。


そうしている内に夜は更けていく。ジャックは夜の街に消え、アリーシャとマリオンは結局同時に潰れ決着はつかなかったらしい。クリスはアンリエッタに俺を取られ、ヤケになって酔い潰れてしまった。


マリオンとアリーシャはバレンティン夫妻達に任せる事にした。俺達も泊めてくれると申し出てくれたが五人も押しかけるのは気が引けた。とはいえ、酔い潰れた人間が三人も居ては運ぶことも出来ない為、二人を任せることにした。

俺達はクリスを担いでアンリエッタの屋敷まで運び、ベッドに寝かせた後、俺は一人、酒で火照った体を冷ます為に中央街の防壁で夜風に当たっていた。


「やっぱり、ここでしたわね」


薄い桃色の長くウェーブのかかった髪が風で舞い上がるのを抑えながらアンリエッタがやってくる。


「今度こそ、海を渡るつもりなんでしょう?」


まさに今俺が考えている事をアンリエッタに言い当てられる。

前から決めていた事ではあるがやはり直前になるとどうしても思い留まる。故郷を離れる事になる。行けば簡単には戻れない。同行する人間にもそれを強いる事になる。

だからこそ考えてしまう。皆を俺とクリスの我儘に付き合わせていいのか迷っていた。


「言っておきますけれど、私はセオドア様に着いていきますわよ? 例えそれがどんな場所であろうともう覚悟はつけてますわ」


アンリエッタの言葉に俺の頭から迷いが消える。そうだ、皆俺を信じて着いてきてくれた。歪魔獣(キマイラ)との戦いの時も、迷宮へ挑む時も、酸魔導人形との戦いの時も。

仮にここで別れる事があっても今生の別れではない。いつかまた会えるはずだ。明日、全員が揃ったら意思の確認を取ろう。そして俺達は海を渡る。


「ありがとう、アンリ。おかげで考えが纏った」

「ふふ、お力になれたなら何よりですわ」


風に揺れる髪を抑え、柔らかな笑顔を浮かべるアンリエッタを月が白く照らし出す。その姿に俺は胸が高鳴ってしまう。

沸き立つ衝動を抑え、俺は防壁の階段を下る。アンリエッタは静かに手を振って俺を見送り、月明かりに照らされた街を見下ろしていた。

漸くですが第四章完結です。

普段の倍くらいの文字数になってしまいました。

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