第十一話:殊勲授与式と宴
俺達が赴いたカルマン村周辺森林地帯の討伐作戦は成功裏に終了した。
ジェイソンとヴァリオが率いる分隊が村に戻ると十数体の小鬼や豚鬼の死骸が積み上げられていた。話によると小規模な森林狼の群れや野闘牛も少数出現したようだが、此方は肉や毛皮が利用できる為、既に村に運ばれ解体に回されているとのことだ。よって積み上げられているのは使い途のない死骸だけということである。尤も、肥料程度には使えないこともないようだが。
「よく戻った。まさか巨躯蜥蜴が森に出現するとはな。以後は冒険者ギルド等とも連携を取ってこういった危険に対処できるようにせねばなるまいな」
村の駐在騎士という立場もあるのだろう。普段は割りかしフランクな父が見せるクソ真面目な話し方は少し違和感を感じる。言葉には出さないが。
「セオ、クリス。大活躍だったらしいじゃないか!父さんも鼻が高いってもんだ。…オ、オホンッ!」
領主のモーリスがいつの間にか父の隣に来ていたことに気付き、父が襟を正す。立場とは一体。
「自警団の皆さん、今日は本当にご苦労様でした。巨躯蜥蜴は本来ならば出現が発覚次第、即座にギルド側で手配される魔物ですが、皆さんのお陰で村は危機から救われました。領主として、心より感謝致します」
これが立場を弁えた人間の言葉だろう。見習え、父よ。
「ともあれ、皆さんお疲れでしょう。労いを兼ねて、宴の席を用意しております。また報奨金も出ておりますので、準備が出来次第、広場へとお集まりください」
領主の言葉を聞いて皆が歓声をあげる。あれだけの魔物を討ち取ったのだ。村で過ごす人間にとってはかなりの額になることだろう。また宴と聞いて居ても立ってもいられない者もいるようだ。隊長格が隊員を置いて真っ先に帰るというのもどうなのだろう…。
「とりあえず一旦帰って汗を流してこよう」
「はい、セオ兄様!」
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その夜、村を挙げての宴が始まった。
「では今回の討伐戦の殊勲を発表します!」
討伐戦に参加した面々が一同に唾を飲み、領主モーリスへと視線を向ける。
「今回の殊勲はセオドア・ホワイトロックとクリスティン・ホワイトロックの両名です!セオドア君は巨躯蜥蜴討伐の作戦立案や弾頭猪の討伐、クリスティンさんは巨躯蜥蜴撃破の第一線での活躍ということを考慮しました」
「オォッ!」
「よっ!村一の期待の星!」
「何故だ!何故俺じゃない!」
「アンタはただ盾になっただけじゃないか!」
「さっすが団長の子供だぜ!」
俺達に向けて賛美の声が降り注ぐ。少し恥ずかしいが俺もクリスも納得できる内容だ。胸を張ろう。何故か悔しがって叩かれてる人までいるが。
「既に今回討伐戦に参加した全員に均等に報奨金を分配しておりますが、両名にささやかながら報奨品として魔導具を送らせて頂きます。渡してくれ」
領主の合図で侍女から魔導具が渡される。俺に渡されたのは短剣、クリスは指輪だ。どうやら魔導銀を使った逸品らしくかなり値が張るものらしい。俺の短剣は魔導銀に魔石が散りばめられた業物らしく、クリスの指輪も同じく魔導銀に魔力結晶と魔法陣のレリーフが刻まれた逸品らしいが、成人女性が身につけるサイズなのでクリスにとってはブカブカだった。
「では殊勲授与式をこれで終了致します。このまま宴に移りたいと思いますので、どうかそのままで」
領主のモーリスはそう言うと、「後は任せましたよ」と父に一言告げ、侍女と共に会場を後にした。
恐らく今回の件での後処理が山程あるのだろう。中間管理職も大変である。
父が壇上にあがり乾杯の音頭を執る。
「さて、今日は皆ご苦労であった!…なーんてかたっ苦しい挨拶は抜きにして、今夜は無礼講でいこう!皆飲め!食え!でも俺の子供に酒はまだ早えからな!飲ますんじゃねぇぞ!全員グラスは行き渡ったか?それじゃあ乾杯!」
父の砕けた乾杯の音頭と共に木製グラスのぶつかる快音が響き渡る。
「俺がな、こう…弾頭猪の渾身のぶちかましを受け止めるワケよ!そこをミシェイルが横からズドンと弓矢で撃ち抜いたんだ!んでもっかい弾頭猪がつっこんだとこにな…」
「もージェイソンたいちょーそればっかりー。おおとかげのはなしきかせてよー!」
「でもジェイソンたいちょーもかっこいいとおもうよー」
「ねーそれでセオくんはー?クリスちゃんはー?」
ジェイソンは子供達にモテモテだ、武勇伝や冒険譚なんてのはやっぱり子供には大人気だ。
「で、エリク、お前フランカちゃんにいいトコ見せられたのか?ん?ん?」
「っせぇな!放っとけ団長!」
「おーいフランカちゃん!エリクがフランカちゃんに話があっ…!モゴモゴ…」
「バッ…!オイちょっとやめろ団長!団長!」
エリクとあっちは…父か。…もう酔ってる…。あ、フランカさんが気付いた。けどそっぽ向かれた。…まぁ、あの二人はまだまだだろう。
「皆さんまだまだ肉も酒も沢山ありますので、心配しないでくださいねー!」
ハインツさんは村の女衆に紛れて配膳に回っている。自分も主役なはずなんだが…。
「よぉーう、とと…セオー、クリスゥー、飲んでるかぁー?」
「あ、僕達まだ子供ですんでお酒は…」
「こーら隊長!まーた他所の隊にナンパ吹っかけて。隊長はアタシらに付き合いな」
「そうそう、セオ、悪ィなウチの酔っぱらいが絡んじまってよ」
ヴァリオさん酔い過ぎだろ…。
ラヴィニアさんとレイモンドさんが引きずって行ったけど、あの二人ちょっと顔は赤いがかなり強そうだな…。
「…!…!…!」
「…あ、このお酒美味しい…。」
あっちで静かに飲んでるのはクロエさんとアレクセイさんだ。ちびちび飲んでるのはアレクセイさんで…って、クロエさん、樽で飲んでる!?
「あーあー、結局、俺達留守番で終わっちまったなー…」
「まぁ被害が無かったのはいいことじゃんか。お、あっがりー」
「コイツ、ちゃっかりとあがってやがる…クソッ!」
「あ、ボクもあがりです…」
「なんだと!ケビン!まさかお前まで…」
「そーのとーりー。じゃ、ニールス一気な!」
「クソッ!…ンッ!…ンンッ!プハッ!もう一勝負だ!」
あっちでカードで遊んでるのはケビンさんとヨアヒムさん、ニールスさんとホーマーさんか。
彼らは門の守護をしてたらしいが随分マイペースな人たちだ。
「ミシェイル…君も活躍したんだね…」
「ううん、私は援護ぐらいよ。一番活躍したのはやっぱりセオとクリスよ…。」
「…でも君はあの二人より輝いている!」
「うふふ、ありがと。好きよ、ヘクター」
「ああ!でも君が無事で本当に良かった!」
「私も、あなたが無事で良かったわ…」
あそこでいい雰囲気になってるのはミシェイルさんとヘクターさんだ。ミシェイルさん未婚って言ってたけどエリクさんやフランカさんと違ってこっちはもう時間の問題だろう。
俺はジュースを片手にワイルドブルのスペアリブに食いついていた。少し臭みがあるのは仕方ないが、ジューシーな肉が病みつきになる、あっちの巨躯蜥蜴の塩タンも美味そうだ。…あれ…クリスはどこにいった…?
「ヒャッ!?」
突然冷たいエールが注がれたジョッキが頬に触れて変な声が出てしまった。
「セオ兄さまー。ちゃんと楽しんでますかー?」
顔が赤い、様子が変だ。まさかコイツ飲んだのか!?
そんな事を考えていると大きな手が俺の頭を鷲掴みにし、上を向かされる。父だ。
「なーに涼しい顔で気取ってやがる!飲め!ほら飲め!」
「兄様ー!のめー!のめー」
俺は父に無理やり口を開かれクリスに葡萄酒を流し込まれた。てかアンタさっき俺の子供に酒はまだはええとか飲ますんじゃねぇぞとか言ってなかったっけ!?
とか言ってる間に散々父に飲まされた。元の世界なら完全にアルハラで訴えてるところだ。
いつの間にか壇上では余興が始まっていた。ラヴィニアさんとレイモンドさんの飲み比べだ、。ジェイソンさんは下着一丁で踊っている。向こうで楽器を演奏しているのは母さんとアリーシャさん、それとハインツさんとヴァリオさんだ。音色が心地いい、てかホントヴァリオさん器用だなぁ…。向こうではいつもどおりエリクさんとフランカさんが何か言い合いをしてる。喧嘩するほど仲がいいってね…。!?…あれはクリス?あっ、ジェイソンさんの真似をするんじゃない!父は…母さんに…あ、殴られた。。楽しい宴だ…ダメだ、もう目が回ってきた…。…おやすみ…。
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…翌日、目が覚めると俺とクリスは頭痛で頭を抱えていた。完全に二日酔いだ。
重い頭を抱えて朝食に向かい、居間を見るとやはり父も頭を抱えていた。
「セリーヌ…」
「知りませんっ!」
母さんは完全にご立腹だ。父は口を聞いても貰えていない。
「すいません、アリーシャさん、水を貰えますか…クリスにも」
「はい、どうぞ、お坊ちゃま、お嬢様」
「…旦那様に飲まされたとは言え、まだ子供ですのでお酒は控えてくださいね?」
「はい、気をつけます…」
水を一気に飲むもまだ頭がガンガンする。クリスも同じ様だ。今日はさすがに訓練はお休みだ。朝食を食べたら、またベッドで寝ていよう…。
余談だが、母の不機嫌は結局1週間続いた。父は家の中では小さくなっていた。元気だったのは弟のシグルドだけだった。
暫くはカルマン村も平和が続くだろう。
後日、村を歩いていると俺はクリス共々、村の英雄のように扱われた。
とりあえずこれで第一章完結です!
そのうち人物総覧や用語集、あと断章・閑話とかその他諸々やりたいと思ってますが、特に人物総覧は基本的には今後出さないであろうエピソードが終了したキャラクターから埋めていきたいと思っています。…つまり主人公のセオ(神威)は最後の方になると思います。




