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第十話:討伐作戦(後編)

 巨躯蜥蜴(ギガントバシリスコ)はセオドアとクロエに舌を切断され、未だにのたうち回っていた。


 「先ずは一旦森の中へ、体勢を立て直します!クリス、小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)を焼いてくれ!」

 「はい!セオ兄様!火球(ファイアーボール)!」

 「濃霧(ディープミスト)!」

 

 大地から発生した濃い霧が、一帯を白く染め上げる。視界は1m先も見えない程だ。そして小鬼と豚鬼が焼ける香ばしい香りが当たりを包んだ。


 「グルルルル……、クンクン…」

 

 巨躯蜥蜴は喉を鳴らし匂いを追おうとするが、濃い霧と肉が焼け焦げる匂いで此方を見失っているようだ。


 「さて、どうする」


 セオドアを中心に全員が集まり作戦会議が始まった。


 「前に読んだ屋敷にあった本に竜鱗種の魔物は基本的に氷属性と雷属性に弱いと記してありました。アイツが竜鱗種の魔物かは解りませんが…試してみる価値はあります。」

 「だとしても攻撃魔術を扱えるのはセオとクリスだけよ?あたし達が出ていっても足手まといか囮になるぐらいしかできないわね」

 「ああ、逃げる瞬間に見たが背中に入れた傷も、既に治ってた。再生力もハンパねーぞ」

 「俺なら攻撃を受け止めるぐらいはできるだろうが、決定的な攻撃となると決め手に欠けるな」

 「せめて、鱗。あれが無ければ」

  

 巨躯蜥蜴の対応について主戦力となる隊長格が話すがどうもこれと言った対策は浮かばない。


 「いえ、それについては対抗策はあります!クリス」

 「ああ、なるほどそれがありましたか兄様。さすが兄様、そこまで考えが及びませんでした」


 隊長達を他所に兄妹は既に当てがあるようだ。


 「セオ、勿体ぶるな。で、その対抗策ってのは?」

 「クリス、この剣を」

 「はい、兄様。…魔力付与(エンチャント)氷刃(アイスエッジ)


 クリスがセオドアのショートソードを手に持ち魔術を発動させると、ショートソードの刀身は朧げな水色の光とうっすらとした霜で覆われていた。


 「成程、付与魔術(エンチャント)か!これなら俺達も戦える!」

 「あとはクリス、全員に鋼鉄化(スティールスキン)を頼む」

 

 クリスが全員の武器に氷属性の付与魔術と鋼鉄化の魔術を施す。

 

 「あの前脚が厄介だな。まずはアレをどうにかせにゃあいかんな」

 「あと眼には鱗がないので特に効くでしょうね。ミシェイルさん、お願いできますか?」

 「分かったわ。任せて頂戴」

 「止めはクリスだ。デカイのを頼む」

 「任せてください。巻き込まれないように気をつけてくださいね?」

 「要は前脚を奪って、攻めて攻めて攻めまくって怯ませ続けてバーンとクリスが止めを刺すって寸法だろ?」

 「うん、大体そんな流れ。あとは役割分担」

 

 流れが決まると各員の分担がすぐに決まる。騎士の元でみっちりと鍛えられたチームワークは伊達ではない。


 「クリスの施した魔力付与の効果は約10分程度です!一気に決めましょう!」

 「じゃあさっきの作戦通りだ!巨躯蜥蜴討伐作戦開始!」

 

 作戦決行の勇ましい合図と共にセオドアが爆風(エアバースト)を発動し霧と匂いを吹き飛ばした。


 「さぁデカブツ!かかってこい!」

 

 ジェイソンが巨躯蜥蜴の正面に飛び出し挑発する。巨躯蜥蜴はジェイソンに狙いを定め、巨大な右前脚を振り下ろす。


 「ぬあああああぁぁぁ!効かん!」


 ジェイソンが腰を屈め、斧で巨腕をがっちりと受け止める。それと同時にレイモンドとエリクが飛び出し、巨躯蜥蜴の左前脚に斬りかかる。

 

 「ドォオオリャアアアアアアッ!」

 「ンダラアアアアアァッ!」


 レイモンドとエリクの斧が巨躯蜥蜴の左前脚を抉る。二人が振り抜いた斧によって巨躯蜥蜴の鱗は薄氷の様に容易く砕き割られた。


 「グギャッ!?」


 巨躯蜥蜴の左前脚の抉られた傷跡はその場で凍りつき冷気を放っていた。

 

 「おっしゃ!効き目バッチリだ!」

 「鱗がガラスみてえに簡単にかち割れる!」


 魔力付与の効果をいの一番に確かめた二人は、十分な効果を感じ、分隊員全員に知らせるかのように声をあげる。


 巨躯蜥蜴の視点がレイモンドとエリクに向く。ジェイソンを踏み潰そうとしていた右前脚はレイモンドとエリクに向けられる。


 「綺麗なお目々ががら空きよ!」


 右前脚を振り抜く直前、ミシェイルが木の上から飛び出し、二射、三射と矢を放つ。その軌跡には白く冷たい霜の飛沫が真っ直ぐと伸びていた。


 「ギャアッ!」

 

 放たれた矢が全て巨躯蜥蜴の左眼に命中する。巨躯蜥蜴の顔が苦悶に歪んだ。

 空中から全ての矢を寸分違わず眼に直撃させるミシェイルの弓の腕は達人の業と言えよう。

 勿論、ミシェイルが放った矢にも魔力付与が施されており、巨躯蜥蜴の眼球が白く輝く氷に閉ざされる。

 片目の視界を塞がれ死角となった位置にいるレイモンドとエリクを踏み潰そうと暴れるも既に二人の姿は無く、巨腕は虚しく地面に叩きつけられる。

 その死角から、今度はラヴィニアとフランカが飛び出した。

 弾け飛ぶ無数の石礫をラヴィニアは剣で次々と受け流し、左前脚へと接近する。その後ろには短剣を両手に構えたフランカがぴったりと張り付いていた。


 「石礫ぐらいならアタシだって見切れるさ!伊達にクロエやセオの剣は見てないよ!」

 「3…2…1…、ラヴィニアさん!先に飛びます!」

 

 フランカの合図で前後を入れ替わり、レイモンドとエリクの着けた左前脚の傷跡を重ねるように二人が斬り上げる。

 

 「ギャアアオオオオオォォォ!」 


 巨腕が宙に舞った。断面は同じように氷に覆われていた。左腕を失いバランスを失った巨躯蜥蜴が倒れ込む。

 反撃の余地は与えない。クロエが短剣を両手にふわりと宙に舞う。体を捻り、遠心力を伴って右前脚を一刀のもとに斬り伏せる。

 

 「…とった」

 

 クロエが微かな笑みと共に呟く。


 「ガアアアアアア!」


 右前脚が根本から地面に落ちる。両前脚を失った巨躯蜥蜴が地面に這いつくばる。そこには既にヴァリオが飛び出していた。


 「さっきの借り、返させてもらうぜっ!」


 両手の短剣で正面から頭まで一気に駆け上がる。巨躯蜥蜴はまだ動けない。


 「でかいってのも考えもんだな!行くぜっ!」


 ヴァリオが掛け声と共に先程のように頭に剣を突き立て、尻尾まで一直線に斬りつける。

 巨躯蜥蜴の頭から尻尾にかけて御神渡りのように凍てついた傷がつけられる。巨躯蜥蜴は動くことも敵わずただ無防備に攻撃を受け続ける。


 「もう何もさせませんよ!」


 ハインツが上半身を引き絞り、渾身の力で槍を投げる。一直線に飛んだ槍が左眼を貫いた。巨躯蜥蜴は両目を潰され完全に視界を奪われた。暴れようとするが両前脚は既に切断され地を這い蠢くばかりだ。

 

 そして今度はセオドアが飛び出しジェイソンと肩を並べる。同時にクリスは両手に強く黄色い光を貯めていた。

 

 「もうひと押し!」

 「最後の下拵えだ!大トカゲ!」


 セオドアとジェイソンが同時に顎を斬り上げる。斬撃から発生した衝撃で巨躯蜥蜴が顎からかち上げられる。セオドアとジェイソンは斬り上げると同時に距離を取った。

 

 「全員離れろ!」

 「止めだ!クリス!」


 ジェイソンが巨躯蜥蜴から離脱するように全員に指示を飛ばす。全員が距離を取ったのを確認すると同時にセオドアがクリスに合図を送る。 


 「はい!兄様!豪雷撃(サンダーボルト)!」


 凄まじい閃光と轟音が巨躯蜥蜴を貫いた。全員が顔を背けるほどの雷光が周囲を燦々と照らす。

 天から叩き落された凄まじい雷は巨躯蜥蜴の鱗を穿き、肉を焦がす。


 巨躯蜥蜴は黒く焼け、辺りには肉を焦がした匂いだけが強く残る。もう巨躯蜥蜴は動かない。全員がひと目で絶命したと確信した。溶けた氷から顔を出した瞳にはもう光は宿っておらず、開かれた口は醜く焼け爛れきっていた。

 

 「任務、完了」

 「「よっしゃあ!俺達の勝ちだァ!」」

 「ちょっとエリク!まだ帰りがあるんだからね!」

 「何とか終わりましたね」

 「あは…凄いもの見たわ…腰抜けちゃった…」

 「ふー…こりゃあたまげたねぇ…」

 「ふぅ…どうでしたか、兄様?」

 「ああ、お前のおかげだ。頑張ったな」


 皆が勝利に酔いしれ、思い思いの言葉を口にする。全員生存、大きな被害も無し、誰が見ても文句無しの大勝利だ。


 しかし、分隊長の二人がそこに水を差す。


 「おーい、お前ら、浮かれるのは構わんが何か忘れてないか?」

 「使えそうなモンは剥ぎ取って村に持ち帰るんだぞ?」

 「え゛ぇ゛!?」


 腕を組んで仁王立ちしている二人の分隊長から告げられた言葉に全員が愕然としていた。少し間を置き、分隊長二人とクロエを除く全員がその場に次々とへたり込むように膝をついた。


 「まぁ何にせよ、全員無事で終わって何よりだ!」

 「ああ、カルマン村周辺森林地帯・巨躯蜥蜴討伐作戦、完了ってトコか!ハッハッハッ!」


 自分達が預かる隊員が全員無事に帰途に就く事ができる事に屈託の無い笑顔を見せる二人は笑い声と共に拳を突き合わせていた。

 

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