第4話 森中
目が覚めたら違う場所、なんてことは実際にある話で私はの上で寝ていた。あのまま死ぬんだと思っていたのに、なぜこんなところにいるのか分からない。
少しの間、どうしようかと考えていたがその心配はいなかった。
「おや、起きたのかい」
扉からいきなり入ってきたのは、おそらく50代くらいのおばあさんだ。みた感じ、優しそうな印象の人だった。平均寿命が60歳というこの世界としては高齢といわれる年齢だ。
「ここはどこであなたはどなたでしょうか」
私は誰、とはけして言わない。
「ずいぶんと冷静だね。もっと騒ぐかと思ったよ」
「そうですか。それで?」
求めていたのは、質問の答え。見知らぬ人と無駄話する気はなかった。
「ここは暗闇の森。それで私は、バーベラさ。あんたこの森で倒れていたんだよ。覚えているかい?」
「はい、大丈夫です」
暗黒の森は、確か徒歩で6日ほどの距離にある森だ。ただ、この森は獣も多く、森も深いため住む人どころか入る人さえいないはずだった。目の前にこうして住んでいる人がいる以上、違ったのだと言わざるをえない。
一度迷い混んだら二度と生きて出られない、別名迷いの森。この森には実は、森の前に迷い混んだ者の荷物だけが置かれるという話がある。
「あの、ここに住んでいるんですか?」
「ああ、そうさ。30年くらい前に旦那と一緒に来たのさ」
「その旦那さんは?」
「10年くらい前に亡くなったよ。こんな森にいたら何が起きてもおかしくないさ」
「………そうですか」
これ以上は何も聞かなかった。いや、聞けなかったというほうが正しい。
この森に来たのはよほどの理由があったからなんて事は簡単に察する事ができる。そういう私も言いたくはなかったし、思いだしたくもなかった。バーベラさんも私にそういうこと聞くことはしなかった。
「ところで、お前さんの名前は何て言うんだい?」
そういわれて、そういえばバーベラさんの名前だけ聞いといて自分は名乗っていなかったことを思い出した。
「スピアです」
「綺麗な響きの名前だね。いい名前だ」
ただ純粋に、名前が褒められたことは嬉しかった。
「ここは何にも無い所だけどいたいだけいてくれて構わないよ」
「でも……」
さすがにそれは申し訳なかった。
「構わないよ。どうせここにはあたししかいなかったんだ。ゆっくりしていってくれ」
「あの……」
「そのかわり、いろいろ手伝ってくれればいいさ」
「ありがとうございます」
世話をかけて申し訳なかったが、どちらにしろ私にはもともとあまりに選択肢はなかった。身一つで村を飛び出して無一文。これで生きていけるとは思えなかった。
時間がたつと、気が落ち着いてきて、物事を冷静に見れるようになっていた。そこから、今の置かれている状況。そして、これからの事。この場所にいられるのは都合がよかった。何より、この場所ならバーベラさん以外の人の人と関わらずに静かに暮らせるだろう。今は人と関わりたくなかった。
「じゃあ、あたしは少し少し出てくるからあんたはおとなしく寝てな」
「ありがとうございます」
それから五日後、その頃にはここでの生活にも慣れだんだん心にも余裕ができてきていた。ただ、ここにきてからずっとあった疑問はずっとそのままになっていた。
なぜ、バーベラさんはこんな森に一人で住んでいるのか。そして、毎日数時間ほど家から出てどこに行っているのか。
自分の事を話していない手前、それらを聞くことは憚られた。
(次は掃除をしなきゃ)
今は昼食を終えて、皿洗いをした後。いつもバーベラさんはこの時間になると数時間ほど森の方に行っている。私はその間に掃除などの細々としたものをやっている。
毎日同じように動いていた。朝起きれば朝食で、その後洗濯をする。それが終われば昼食で、そして掃除をする。あとは、縫い物をしたり本を読んだりして夕食を取る。
そんな日々が一月程続いたある日の事だった。