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第三話 逃避


私に剣術が使えるのは、前世の私がいたから。魂がいまだに剣の使い方を知っていた。

私にとっての剣とは、私の身を守るもので私の全てを奪うものだった。


前世では父と兄二人に避けられ、そして今世では___。






その場所は血の海のようだった。そして、死体に溢れていた。そのほとんどは私がやったもの。そして、父とケルトのことをふと思い出した。


ああ、私は何をやっていたのだろう。

思い出したということは、忘れていたということだ。


いったい何のために何がしたかったのだろう。

自分のことのはずなのに分からなかった。



父とケルトの元へ急いで行き脈を確かめたが、すでに止まっていた。私は、ただ呆然と自分の行いの結果を見ていることしかできなかった。




どのくらい時間がたっただろうか。ふと気がつけば、足音が聞こえてきた。どうやら、村の人達が戻ってきたようだ。


村の人達が息を呑んだ。どうしたのかと思ったが、すぐに理由は理解できた。

血が撒き散っているこの状況。そして、私も反り血にまみれていた。なかには、堪えられずに吐いていた人さえもいた。



そんななかで、冷静にいた私は私自身が恐ろしいと思った。こんな状況に前世で慣れてしまった自分が化け物のように思えた。



「スピア」


聞きなれた人の声がした。いつも私に優しくしてくれていた、ルバルトの声。

でも、今の彼はいつもとはどこか違い棘があった気がした。


「ルバルト……」


私はルバルトの元へ行こうとした。ただ、それは他の誰でもなくルバルトによって止められた。


「近づかないでくれ」


そう言った彼の声は苦しそうで、恐怖という感情が見えた。それはまるで、化け物を見るような眼だった。

それが私に対するものだということに気づくのに、そう時間はかからなかった。私にはどうすることもできなかった。


他の村人もルバルトと同じような眼で私を見ていた。そして、そんな彼らの後ろ後ろに母がいるのが見えた。

とっさに私は母の方を見ないようにした。


母にまであんな眼でで見られるのは耐えられない。どんな顔をしているのかは分からない。もしも他の人達と同じでそれを見てしまったなら___。

そう考えたらとてもではないが見る勇気がなかった。


だから、逃げた。


後ろは決して振り向かず、ただただ全力で走った。この先に何があるかなんて分からない。でも、あそこにいるよりはどこでもいい気がした。

あそこにはもう行けない。もう母の顔を見ることはないだろう。化け物の私はいない方がいい。

私は逃げ出した。




それから数日、私はひたすら歩いていた。

時には睡眠をとって休息をとっていた。だが、もともと何も考えずに衝動的に村を出てきたため、食料を持たずお金も持っていなく、何かを食べたりすることはなかった。


体はひどく冷えていて、氷のように冷たかった。でも、そんなことなんて気にならない。気づけないほど頭がいっぱいいっぱいだった。

私はひたすら村から離れた。



そして、森を歩いていた時に、当然のように倒れ意識を失った。


このまま終わるのもいいと思えた。

決して死を望んだわけではない。ただ、生きたいとまでは思えなかった。


薄れ行く意識のなかで、この終わりに満足している自分がいるのを感じた。


人知れず、私は意識を失った___。


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