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第一話 始まり


私はただの平民。多くの物語に登場する主人公のように貴族の令嬢でもなければ、強大な魔法を使う事も出来ない。

ただ一つ、私にはみんなと違う事があった___。






私が住んでいるのは、国境近くの辺境の村。こんな小さな村には名前もなく、ただの『村』と呼ばれていた。


ここでの生活は単純。

朝、日の出と共に起きてご飯を食べ、そして働く。この村では、女だって子供だって働ける年齢になれば誰だって働く。そうしていかなければ、食べていけない。


男は畑を耕したり、山で狩りをしたりする。

女は家事をして、空いた時間で縫い物などの内職をする。作ったものは時々来る商人に売り、そのお金で必要なものを買う。

ただそれだけの毎日。


私の家族は父と母に私。それと、少し前に10歳になったばかりの弟。

父は畑に行ったり狩りをしたりしていて、弟はそれについて行っている。私も母を手伝い、家で働いていた。



そんな毎日で少し大変だけれど、私は今の生活を気に入っている。

決してらくではない。むしろ経済的には厳しい生活だけれど、いつでも笑顔にあふれていたこの家が大好きだった。


それを村の友達に話せば、そんなの当たり前でしょと笑われたけど、それが当たり前ではない事を私は知っている。

家族と笑いながら一緒に暮らせてご飯を一緒に食べている、当たり前で当然のような毎日は、とっても幸せなことだと私は思っている。

こんな田舎じゃなくて都会に住んでみたいと言う周りの子達とは違って、ことまま同じような生活を送っていけたらいいなと思っていた。






農民の朝は早い。いつもは日の出と共に起きだして働く。ただ、この日はなぜかいつもより少しだけ早くに目が覚めてしまった。

二度寝ができる程の時間があるわけでもないので、そのまま起きることにした。



「あら、おはようスピア」

「おはよう、お母さん。ちょっと目が覚めちゃったの。お母さんも?」

「ええ。でも、全員だなんてすごい偶然ね」


どういうことなのか疑問に思っていると、母は体を横によけて後ろの方に視線をうつした。

つられて私も見てみれば、そこには朝食を食べている父と弟のケルトの姿があった。


「お、スピアも今日は早いな」

「お姉ちゃん、おはよう」


家族全員早起きとは珍しい。

「おはよう、ケルト。お父さんも」

「本当に、すごい偶然ね。今日は何かあるのかしら?」

「ははは、そうかもな。取りあえず、今日は早く帰ってこれそうだな」



心から笑いあえる家族。私は、本当に家族が大好きだった。




今日はよく晴れた日で、朝食が終わった私は洗濯物を干していた。


「スピア、おはよう」

突然後ろからかけられた声に少し驚いたけど、親しい人の声に嬉しくなる。


「おはよう、ルバルト。これから畑仕事?」

「ああ。大変だけどスピアに会えた事を考えるとうれしくなるな」

そう言って、二人で笑いあった。




ルバルトは村の村長の息子で、もう少しで私の結婚相手となる。私は、あと一週間で18歳の誕生日を迎える。

彼と私は数ヶ月違いの誕生日で、幼なじみだった。喧嘩なども特になかったし、むしろ仲が良かったと思う。


そんな私と彼が結婚することになるのは必然だった。

とにかく、私は今幸せの絶頂にいたの。



「じゃあ、頑張って行ってらっしゃ___」


ドカッン。


最後の『い』は言うことがなく終わった。

爆発の音がした。その方向を見れば、煙が上がっているのが見えた。その方向は、国境がある方向だった。


「キャー」


少し遅れて誰かの悲鳴も聞こえてきた。この距離では何が起きているのか分からなかったが、何かよくないことが起きているのだけは分かった。



「スピア、逃げるぞ!!」

驚いて固まっていた私は、ルバルトの声ではっとなった。


「待って、ルバルト。お父さんとケルトがあそこにいるはずなの」

いつもならそろそろ家を出る時間。けど、早起きした今日はもう畑にいるはずだ。


「ガルドさんなら大丈夫だ。今は避難しよう」


ルバルトの言葉はまったく根拠のないものだ。私が危ない目に合わないよう、私の事を想って一緒に逃げようとしてくれていることは分かっていた。

今まで一度も起きた事がない、異状事態だった。だから怖い。逃げたい気持ちもある。


でも、いいえだからこそ父とケルトの事が心配になった。現場にいるだろう二人は、特に10歳になったばかりのケルトはもっと怖い思いをしているはずだから。

何が出来るとか出来ないとかの話しではなくて、自分に出来ることを探しに行くのだ。



「スピア!!」

ガルドの私を呼ぶ声がした。

でも、ごめんなさい。私はお父さんとケルトの所へ向かうわ。






煙が出ているのは国境近く、村の(すみ)の畑がある場所。

まだ時間が早かったから、殆どの村人はまだ畑へ向かう途中の時間帯だった。それでも、畑にわりと近い家の人たちも畑に着いているかもしれない。


生まれてから17年。あと一週間たてば18年間となる時間、村で過ごしていたことになる。その人達を心配しない何てことは出来ない。



もしも、神という存在がいるなら願おう。お願いだから、みんな無事でいて。




畑の方向へ行く途中、何人かの人とすれ違った。

その間も爆発の音や悲鳴は聞こえていた。その度に不安が胸を(よぎ)り苦しかった。


そうして、私はようやく父とケルトの元へたどり着いた。




そう、確かに父とケルトの姿はあった。辺りは火が出て、一部の家屋は既に全焼していた。まだ残っているものも、手を出せない状況になっていた。

そして、倒れて動かずに血を流していた父とケルトがいた。



「いやああああぁぁぁ!!」


それは何よりも恐れていた光景。そこには、父やケルトだけではなく小さい頃から遊んでくれていた友人。かわいがって、時々お菓子をくれていたやさしい人。


今までの思い出が崩れ去ったように感じた。

頭の中が真っ白になって、そしてまた目の前の変わり果てた父とケルトの姿に絶望を覚えた。



私の声を聞いてか、鎧身に(まと)った人達が集まって来ていた。鎧には隣国の紋章が刻まれていて、手には血に濡れた剣を持っていた。

一目でこの人の中の誰かがやったのだと分かった。


そして、生まれて初めて人が憎いと思った。その感情とともに心が語りかけてくる。


殺せ。復讐しろ。その力がある。解放しろ。




私は語りかけてくる心のままに行動した。

一番近くの敵に襲いかかり、隙をついて剣を奪う。そのままの勢いで剣を振る。

そうすれば、鉄の鎧ごと敵を切れた。


それを繰り返し、やがて敵は私の手によって全滅した。

心の声のまま復讐した私には達成感はなく、いつの間にか流れていた涙が頬をつたった。






心の中から語りかけてくる声は、私の醜い部分。そして、多くの人々を殺しまわった前世の私だった。


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