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貧乏なオレの妹は幼馴染な彼女と……

授業も終わり芽衣子にしっかりと叱られたあと、頼人は駐輪場に向かった。

すると、そこには昨日同様百合花と翼の姿があった。

なぜか百合花は頼人の自転車のサドルに座っていた。

「こんにちは。今朝ぶりですわね」

「そうだな。ってか、そこどけろ。邪魔だ」

 頼人は百合花を睨みつける。

「あら恐い。男の子がそんな恐い顔をしてはいけませんわ。スマイルスマイルですわ」

 敵対心むき出しの頼人に、百合花はわざとらしい笑顔を見せてからかう

「うるせぇ。俺は今日もバイトなんだよ」

「まあまあそんな焦らずとも。いざとなったらわたくしの車に乗って行かれれば」

「死んでもそんなことするか。いいからどけろよ。バイト間に合わなくなっちまうだろ」

「もう。しょうがないですわね」

 百合花はそう言うと、渋々自転車から降りた。

「おい。お前サドルの高さ変えただろ?」

「えぇ。そうですが。それがなにか?」

「こんな低くしたら俺が乗れないだろうが。つーか人の自転車を勝手にいじるな」

「まったくあなたは文句が多い人ですわね」

――お前が常識を知らないだけだ。

 頼人はそう言いかけたが、これ以上会話を長引かせたくないのでやめておいた。

 頼人はサドルを元に位置に戻すと、自転車に乗る。

「もう行ってしまうのですか?」

「あぁ」

「そうですか……」

 百合花がしょんぼりとした声を出すと、

「なんだよ。なんか俺に用でもあんのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが。わたくしのおもちゃがいなくなってしまうのは少々寂しいので」

「…………」

 頼人は百合花になにも返さず、自転車を漕ぎ始めた。そして、頼人が百合花から十分に遠ざかると、

「ほんと面白い人ですわね」

 百合花は小さく笑う。

 そんな百合花の姿を見て、百合花の後方に控えていた翼は百合花に一つ質問をした。

「お嬢様。お嬢様はやはり頼人さまのことがお好きなのですか?」

 翼が問うた瞬間、百合花から笑みは消え、

「いえ、大嫌いですわ」

 百合花はそう答えた。


☆☆☆☆☆



 前にも言ったが、頼人はド貧乏なので、バイトを四つ掛け持ちしている。

 そして、今日は全国にチェーン展開しているコンビニ『ファーストマート』でのバイトだ。

頼人が更衣室で着替え終え店内に入ると、そこには秋穂の姿があった。

 秋穂も頼人と同じように『センタッキ―』と『ファーストマート』のバイトを掛け持ちしている。というのも、秋穂が『センタッキー』以外のバイトを探していたので、頼人が自分が元々やっていた『ファーストマート』のバイトを紹介したのだ。

「あっ」

 不意に秋穂が声を上げた。

 どうやら向こうも頼人の存在に気づいたようだ。

 しかし、秋穂は頼人からすぐに目を逸らし、店内の奥の方に行ってしまった。

 おそらく、先日頼人がバイト終わりに百合花たちに暴力を振るわれた時のことを気にしているのだろう。

 あのとき、頼人は秋穂が言ったことに従わずに、病院に行かず更に秋穂の優しさを無碍にしてしまったのだ。

 ――これは俺が謝った方がいいな。

 そう思った頼人は品物を並べながら、さりげなく秋穂に近寄る。

「先輩」

「えっ、うわぁ!」

 突然声を掛けられたためか、秋穂は思わず大きな声を上げる。

「ど、どどどうしたの? 頼人くん」

「その……先輩に謝りたくて」

 頼人はそう言い、

「こないだはどうもすいませんでした。先輩がせっかく俺なんかに優しくしてくれたのに」

「いやぁ全然。私は気にしてないから」

「で、でも……」

 申し訳なさそうにする頼人。

そんな頼人を見ていると、秋穂はなんだか面白くなってきて、

「クス、本当に大丈夫だよ。だからそんな顔しないで」

 秋穂は笑顔でそう言った。

「す、すみません」

「もうぅ。だから謝らないでって。それよりもほら。飲み物並べるの手伝って」

「は、はい」

 頼人は秋穂から品物であるペットボトルを渡されると、それを保冷庫に並べていく。

「ほんとはね、少しショックだったんだぁ」

 秋穂は頼人と同じようにペットボトルを並べながら話す。

「ショック……ですか?」

「うん。だって、あの時の頼人くんすごく苦しそうだった。なのに、頼人くんには私の言葉は全然届かなくて。頼人くんになにもしてあげられなくて……」

 秋穂は話していくうちに段々声が小さくなっていく。

「それでね私決めたんだ。もっと頼人くんのことを知ろうって」

「俺のことを?」

 頼人が尋ねると、秋穂は「うん」と頷く。

「もっと頼人くんのことを知って、頼人くんの力になれるようにがんばろうって」

 そう言い秋穂は笑う。

「そ、そうですか……」

「むっ。なんだその反応は。結構いいこと言ったつもりだったのに、「感動しました」とか「先輩好きになりました」とかないのかなぁ」

「い、いえ……その……先輩もこんなこと言えるだなって思って」

「むむっ。それは心外だなぁ。これでも私頼人くんより先輩ですから。一年長く生きてますから」

 手を胸に当てえっへんする秋穂。

「そうですか……でも、ありがとうございます」

「いやぁいやぁ。なんのなんの」

 秋穂がそう返すと、頼人と秋穂は二人で笑いあった。


 バイトに来てから一時間が経過したところで、ふと頼人が秋穂に言った。

「そういえば、先輩って俺がシフトのときにいつもいますよね」

 頼人の言葉に秋穂は身体をびくっとさせる。

「そ、そうかなぁ。そうでもないと思うんだけどなぁ」

「いや、絶対そうですって。だって俺がバイトきたらいっつもこうやって先輩と話してますし」

 頼人がそう言うと、今度は秋穂から変な汗が流れ始めた。

「ぐ、偶然だよぉ。頼人くんとたまたまシフトが被っちゃうだけで、たぶん大した意味はないんじゃないかなぁ」

 心臓が跳ね上がりそうになりながらも、なんとか誤魔化す秋穂。

 それに対して頼人は、

「まあたしかにそうですね。学校終わる時間とかも大体同じですしね」

 頼人が納得してくれたようで、秋穂はほっと息をつく。

「まあ俺は先輩がいてくれた方がいいんですけどね。先輩と話すの楽しいですし。じゃあこれ片づけてきますね」

 そう言うと、頼人はこの場を去った。

「…………」

 この時、秋穂の顔は真っ赤になっていた。

 まさにピンチがチャンスに変わった瞬間であった。



☆☆☆☆☆



頼人がバイトをしている間、頼人の妹である麻友は自宅へ帰るために校門へ向かっていた。

麻友は部活にも委員会にも入っていない。

なぜかというと、それは頼人がバイトを終えて帰ってきたとき、少しでも家で落ち着けるようにするためだ。部屋を片付け、美味しいご飯を作り、あったかいお風呂のお湯を沸かし頼人の帰りを待つ。それはもう頼人の妻同然といってもいいように。

 しかし、これは頼人のためにでもあるが自分のためでもあるのだ。

 こうやって毎日頼人に尽くし続けることで、いざ頼人とエッチなことをしようとなったときに、頼人に断りにくくするためだ。

優しい頼人のことだろう。ずっと頼人を支え続けた妹の頼みを断ることはできまい。

 「あぁ。早くお兄ちゃんとエッチしたい」

 校門前を歩きながら呟くと、ふと麻友はある車を発見した。

 黒く、長く、すごく高そうな車。

 それを見た瞬間、麻友は嫌な予感がした。

 そして、それは見事に的中する。

「麻友さん。待っていましたよ」

「……なんですか? 麻友今急いでいるんですけど」

 今朝麻友たちが乗ったリムジンから出てきた真美に、麻友は嫌そうな顔をする。

「そんな顔をしなくてもいいではないですか。私は麻友さんと少しお話をしに来ただけなのですから」

「話って……嫌ですよ。麻友は家に帰っておにいちゃんの帰りを待たないといけないんです」

「あら、その心配はありませんよ。頼人の家には乃絵を置いてきましたから」

「な、なんですと!?」

 真美の言葉に、麻友が驚いていると、

「なので、麻友さん。私とじっくり話しましょう。場所はそこの喫茶店でどうでしょうか?」

「むむ……しょうがないですね」

 麻友は渋々真美の誘いを受け入れると、本日二度目のリムジンに乗った。


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