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幼馴染な彼女は傷の手当てができない

頼人の幼馴染である()(なみ)の家は、頼人の家の隣にあった。

 黒の寄棟屋根に白塗りの壁面。大きさは18坪で二階建ての一軒家。

 金持ちの集まりである華園学園に通っている割には、真美の家は至って普通だった。

 なんでも真美は今年から親元を離れたらしい。理由は自立するためだそうだ。

 つまり、真美の家は真美の親が娘の自立のために買った家であり、家の外見は普通だが買った経緯は全く普通ではない。

『はい、清宮ですが』

 頼人が玄関先でインターフォンを押すと、それに真美が応答する。

「俺だけど。ちょっと用があるんだ。中に入れてくれ」

「頼人ですか。わかりました。そこで少し待っていてください」

 真美がそう言うと。頼人は言われた通り待つ。

 数秒後、ガチャリと音がして扉が開くと真美が出迎える。

「どうぞ。中へ入ってください」

 頼人は家の中へ入ると真美に案内されるまま、廊下を進みリビングへ通された。

 広さは16畳ほどで、部屋の真ん中には栗色のカウチソファが置かれている。ソファの前には34インチの液晶テレビ、部屋の脇にはモダン風のフロアスタンドが暖かみのある光を発していた。それ以外には特に目立った家具などはなく、解放感に溢れる部屋だ。

「そこへ掛けてください」

 真美が二人掛けのソファを勧めると、頼人は素直にそれに従う。

 すると、すぐに真美も頼人の隣に腰掛けた。

「で、私の家になんのようですか?」

「あぁ。それなんだが……」

 急に頼人は服を脱ぎだし、身体にある傷を露わにする。

「これはひどいですね。またいじめられたのですか?」

「まあな。それでこれの治療をして欲しいんだが」

 申し訳なさそうに言う頼人に、真美は「はぁ」と大きく溜息をついた。

「しょうがないですね。わかりました」

 そう言って真美は徐に立ち上がると、

「ちょっと待て。一体お前は何をしようとしている?」

「何って、救急箱を取ってこよう思ったのですが。何か問題が?」

 不思議そうに首を傾げる真美に、今度は頼人が大きく溜息をつき、

「問題大アリだ。だってお前包帯とか巻けないだろ」

「っ! し、失礼ですね。包帯くらい巻けます」

「嘘つけ。お前昔から美術も家庭科もひどいじゃないか。中学校の調理実習でお前と作ったカレーなんかこの世の物とは思えない味がしたぞ」

「そ、そんな言い方はないではありませんか。これでも頑張って作ったのですよ」

「頑張ってあれだから問題なんだろ」

 頼人がツッコむと、真美は納得いかない表情をしながらも、

「では、誰があなたの治療をするんですか?」

「そりゃもちろん()()さんだろ」

 真美の家には真美の他にもう一人住人がいる。

 名前は咲波(さきなみ) ()()

 頼人や真美と同じ華園学園に通っており、真美のメイドである。

 ちなみに不器用な真美の代わりに、料理やら洗濯やらの家事全般をメイドである乃絵が全てやっていた。

「……そんな人、この家にいません」

「おい、勝手に消すなよ」

「う、うるさいですね。乃絵は今出かけているのです。ですから、私が頼人の身体に包帯を巻いてあげます」

「いやまじでいいから。乃絵さんが帰ってくるまで待つから」

 引かない真美に、頼人は拒否し続けていると、

「あの……呼びましたでしょうか?」

 不意にリビングの扉から少女が顔を覗かせる。

「乃絵さん!」

 頼人は助かったとばかりに少女――咲波(さきなみ) ()()の名を呼んだ。

 華園学園二年。黒髪のミディアムヘアーに清純そうな顔立ち。身にエプロンドレスをまとい、背はやや小さめだが胸はかなり大きい。

「乃絵さん。一体どこにいたんですか?」

「わたくしは真美お嬢様のご命令で二階の掃除をしておりましたが……」

 乃絵の言葉を聞くと、頼人はジロリと真美を睨む。

「おい真美。さっきお前乃絵さんは出かけてるって言ってたよな」

「……チッ」

「お前なぁ……」

 舌打ちをする真美に、頼人が呆れていると、

「あ、あの……わたくし何か悪いことでもしてしまったのでしょうか?」

 真美の態度に怯えながら乃絵が訊ねる。

「大丈夫ですから。乃絵さんは一切悪いことしていませんから」

「そ、そうですか……」

「あの、乃絵さん」

「は、はい。なんでしょうか?」

「……その……あなたに頼みたいことがあるんですが……」

 頼人が乃絵にケガの治療について話そうとしたとき、

「乃絵。今私すごくコーヒーが飲みたいわ。コンビニに売っている缶コーヒーが」

「えっ……は、はい。わかりました。今すぐに買ってきます」

 真美がそう言うと、乃絵は急いで缶コーヒーを買いにいこうとする。

「乃絵さん! それ嘘ですから! そいつコーヒー飲めませんから!!」

 以後、真美から頼人への邪魔は三十分間も続いた。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

「はい。もうこれで大丈夫ですよ」

 頼人の治療を終えると、乃絵は優しく微笑みながら言った。

「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ。これくらい大してことでは」

 乃絵がそう謙遜していると、

「そうですよ。これくらいで図に乗らないことね」

 真美は姑の嫌味のような物言いをする。

「包帯すら巻けないお前が言うな」

「っ! ま、またそれを言いましたね! いいでしょう。でしたら、私が今あなたの包帯を巻き直してあげます」 

「あーはいはい。そういうのいいから」

 頼人は真美の言葉を軽く受け流すと、

「じゃあ俺そろそろ帰ります」

「そうですか。また何かあったら頼ってくださいね」

「はい。そうさせてもらいます」

 頼人は乃絵にだけ頭を下げると、自宅に帰るため玄関へと向かう。

「待ってください」

 靴を履いていると、真美が頼人を呼び止める。

「なんだよ? 包帯は巻かせないぞ」

「そ、そんな話をしたいのではありません!」

 真美は顔を赤らめてそう言ったあと、

「妹さんは元気ですか?」

「麻友か? あぁ。めちゃくちゃ元気だが」

「そうですか……妹さんにも偶にはこちらに遊びに来てくださいと伝えてください」

 なぜ妹のことなんて聞くのだろうと頼人は思ったが、今の真美の言葉で納得する。

「あぁ。わかったよ」

 そう返すと頼人は真美の家を出た。 



☆☆☆☆☆



 頼人(よりと)が自宅に帰ると、()()がパジャマ姿で仁王立ちしていた。

「おにいちゃん。遅い」

 頬を膨らませる麻友。

「悪いな。少し話が長引いて」

「へー話が長引いたねぇ」

 麻友はジト目で頼人を睨む。

「な、なんだよ?」

「べつにぃ。まあおにいちゃんがどこの誰と仲良くして、その結果彼女なんかできたりしちゃっても麻友には関係ないけど」

 麻友が可愛らしくむくれると、頼人は怪訝な顔をして、

「お前は一体何が言いたいんだ。つーか、俺に彼女とかできるわけないだろ」

「そんなのわかんないじゃん。もしかしたらおにいちゃんのことす…すす…好きな人とかいるかもしれないよ?」

「好きな人ねぇ」

 頼人はそんな人物がいるか考えてみるが、学園に行ったらいじめられるか、授業を受けているか、昼飯を食べているかのどれかなので、そもそも女子ときちんと話したことすらない。

「絶対いないな」

 そう断言する頼人に、麻友は不安げな表情で、

「ほんと? ほんとにいない?」

「あぁ。だっておにいちゃんモテないし」

「なんならいじめられてるし」と頼人は脳内で付け足す。

「そっかぁ。おにいちゃんモテないんだぁ」

 麻友は嬉しそうに笑う。

「そんなに笑わなくても……そういえば(まな)()が麻友も今度家に来いって言ってたぞ」

「えっ、真美さんが?」

 頼人の言葉に驚く麻友。

「あぁ、そうだが。なにか問題でもあるのか?」

「そ、そんなことないよ。麻友も一度行ってみたかったんだよね真美さんの家」

「そうか。なら良かったな」

「う……うん」

麻友はこくりと頷いた。


 頼人は洗濯物を干し終え茶の間にいくと、先ほど敷いた布団の上に麻友が寝転んでいた。

「麻友。そろそろ寝るぞ」

 頼人はそう言うと、部屋の隅にある段ボールを床に敷いた。

「おにいちゃんまた段ボールで寝るの?」

「しょうがないだろ。布団は一つしかないんだから」

 二宮家に布団は妹用の一つしかない。故に頼人は毎日段ボールで寝ていた。

 段ボールの大きさはちょうど体を覆えるくらいで、これを二枚使い敷布団、掛け布団代わりにしている。

「べつに麻友と一緒に寝ればいいじゃん」

「そういうわけにもいかないんだよ」

「むーおにいちゃんのケチ」

 ふくれ面をする麻友を「あーはいはい」と頼人は受け流すと、

「それより明かり消していいか?」

「おにいちゃんが一緒に寝てくれるって言うまで消しちゃダメ」

「はい消します」

 頼人が明かりを消すと、一瞬にして部屋は暗闇に包まれる。

「おにいちゃんってたまに優しくないよね」

真っ暗な中、麻友がぶすっとした声で言う。

「おにいちゃんも厳しくするときはします。それよりも麻友。早く寝なさい」

「ぶー……」

 麻友はふてくされた声を上げたあと、ようやく静かになった。

 それからしばらく静寂が続き、


……ごそごそ。


 頼人の隣から何かが動いているような音が聞こえる。

その音は頼人に段々と近づいてゆき、


 パチンッ。


頼人が明かりをつけると、麻友が頼人の段ボール布団にもぐりこもうとしていた。

「麻友。お前なにやってんだ?」

 頼人が麻友を睨みつけながら訊ねると、

「え、えーと……よばい?」

 麻友の言葉に頼人は呆れながら溜息をついた。




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