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貧乏なオレとお嬢様な彼女はある人物に救われる

 リムジンをパンクさせられると、頼人たちは源蔵の警備隊によってリムジンの外に出された。

「やあ百合花。気分はどうだい?」

 源蔵はそう言いながら百合花に近づく。

「……お父様」

 百合花がどこか怯えた様子でそう言うと、

「百合花。なぜこんなことをしたんだい?」

 不意に源蔵が百合花に訊ねた。すると、百合花は無言のまま顔を俯かせる。

「百合花。僕の言ったことをちゃんと聞いていたかい? なんでこんなことをしたのかって聞いてるんだよ?」

「おい。そこまでにしたらどうだ」

 百合花が源蔵の問いに答えられないでいると、頼人が源蔵に向かって言った。

「君か。僕の娘をたぶらかしたのは」

 源蔵は頼人に鋭い視線を向ける。

「たぶらかした? 麗華堂の婚約者を勝手に決めておいてよくそんなことが言えるな。それでも親かあんたは」

「あぁ。たしかに僕は娘の結婚相手を決めた。でもそれの何が悪い?」

「はっ? お前なに言ってるんだ?」

「だって僕は百合花の娘なんだよ。ボクが娘をどうしょうと僕の勝手だろ?」

 源蔵は自らの言葉がまるで当然のように言う。

「っ!? こいつ」

 この時、頼人は麗華堂 源蔵という男に抑えきれないほどの怒りを感じていた。

 幼い頃親を亡くした頼人にとって他人の親というのは羨ましくあり、また子供を常に愛している親という存在を尊敬していた。しかし、源蔵は頼人が今まで見てきた親とは違った。子供を自分の物であるかのように扱い、そんな源蔵には百合花に対する愛を全く    感じられなかった。

「この野郎!!」

 頼人は源蔵に向かって殴りかかる。しかし、それは警備隊によって簡単に制された。

「哀れだね。君は」

 警備隊に抑えつけられている頼人を見て、源蔵はつまらなそうに言った。

「お前、それでも親か」

「そうだよ。僕は百合花の親さ。だから僕の決めることは全て百合花のためになること。百合花にとって正しいことなんだよ」

 源蔵は頼人に平然とそう言うと、

「おい。百合花を教会へ連れていけ。そして教会着いたら式を再開する」

 警備隊は源蔵の指示を受けると、百合花を源蔵が乗ってきた車に乗せようとする。

 百合花はすでに呆然としており、抵抗する気力もなくなっていた。

「おい! やめろ! やめ、ぐっ……!?」

 頼人が叫ぶと、警備隊はすかさずその口を塞いだ。

「やれやれ。じゃあ僕も戻ろうとするかな」

 そう言い、源蔵が車に乗り込もうとすると、

「待ってください」

 唐突にそれを遮る声が聞こえる。

「? 君はたしか……」

「翼です」

 翼はそう返すと、源蔵の前に立つ。

「あぁ。百合花の執事か。そういえば君があのリムジンを運転していたんだね。まあ処分は後で決めるとして……で、そんな君が僕になんのようだい?」

 源蔵の高圧的な物言いに、翼は一拍置いたあと口を開いた。

「百合花お嬢様の結婚を取り止めてもらいないでしょうか?」

「ははは。何を言うかと思えば。何で君にそんなことを言われなきゃならないんだい? 君は僕に雇われている身だろ?」

「それは違います。私は百合花嬢様の執事です。なので私の雇用主は百合花お嬢様です」

 躊躇いなく翼が否定すると、源蔵は少し踊りた様子を見せる。

「なるほど。でも、それは僕が君の言うことを聞かなければいけない理由にはならないよ」

「たしかにそうですね。ですが、私は百合花お嬢様の執事です。なので私は百合花お嬢様を守る義務があります」

「だから?」

「力ずくでも奪わさせていただきます」

 そう言うと翼は源蔵に襲いかかる。

しかし、それもすぐに源蔵の警備隊によって制された。

「くそっ! 話せ! このっ!」

 翼は何とか警備員を引きはがそうとするが、地面に抑えつけられたまま身動きが取れなくなる。

「はぁ。全くくだらないことで時間を駆けさせないで欲しいよ」

 源蔵はそう言うと車の方へ向かった。すると、

「あんたは麗華殿ことが大切じゃないのか!」

 頼人が源蔵に向かって叫ぶ。

「そんなの大切に決まってるじゃないか」

「ならどうしてこんなことをするんだよ! もっと麗華堂の気持ちを考えたらどうなんだ!」

 頼人の言葉に源蔵は溜息をつくと、

「全く君は何もわかってないね。子供の間違いを正す、子供を正しい方向へ導くのが親の役目なんだよ」

「わかってないのはあんたのほうだろ! 今あんたが麗華堂にしようとしていることは絶対に間違っている!」

「ほう。なかなか面白い意見だね」

源蔵は頼人を見てニヤリと笑う。

「もし君の言う通り僕のやり方が間違っているのだとしたら、君はそれをどうやって証明するんだい?」

「そんなの麗華堂を見ればわかるだろ?」

「百合花を?」

 源蔵は怪訝な顔で百合花の方を向く。

「今麗華堂は幸せそうにしているか? 楽しそうに笑っているか? 違うだろ。あいつは今苦しんでいるんだ。あんたのせいでな」

「まあそうだろうね。でも後々百合花は僕に感謝することになるよ。きっとね」

 源蔵が自身満々に言い切ると、

「そんなわけねぇだろ!」

「っ!?」

 突然の頼人の乱暴な物言いに源蔵は驚くと、

「言ったろ。今あんたは自分の子供を苦しめているんだ。おそらくあんたの勝手な都合でな。もうこの時点であんたは親として、というか人間として失格だ。そして、そんな人間に感謝するやつなんて一人もいない。例えそれがあんたの娘だとしてもな」

 頼人がそう言うと、源蔵はフッと鼻で笑い、

「君は一体なにを言ってるのやら。どうやら君と話した時間は全て無駄だったようだね。僕はそろそろ失礼させてもらうよ」

 源蔵はそう言い、この場から立ち去ろうとする。

「おい! 待ちやがれ! このっ!」

 頼人は源蔵を追いかけようとするが、警備隊に抑えられ身体が動かせない。

「じゃあ教会まで頼むよ」

 源蔵が運転手に向かってそう言い、車に乗り込もうとした。その時、どこからか大きな音がこちらまで響いてくる。そして、その音は段々と大きくなり、

「おい! なんか来たぞ!」

 警備隊の一人が声を上げると、その視線の先には黒のセダンが猛スピードでこちらに向かってくる。そして、その黒のセダンはそのまま源蔵の乗っている車に突っ込み激しい音を上げた。

「いてて。ちょっと飛ばし過ぎたか? まあいいか間に合ったみたいだし」

 そう言いながら黒のセダンンから出てきたのは一人の女性だった。

 長い黒髪は腰元まで伸びており、目は高圧的だがどことなく優しさを秘めていて、まさに大人の女性といった感じだった。

「お母様!?」

 不意に百合花が言う。

「お母様……ってことはこの人って麗華堂の母親か?」

 頼人がそう言うと、その女性は頼人の方を見てニコリと笑った。

「いかにも。私は百合花の母、麗華堂 恵美だ」

 堂々と仁王立ちする笑みの姿には百合花の母親と思わせる要素は何一つなかった。

「……まじか。全然麗華堂と似てねぇ」

「失礼だな君は。これでも正真正銘百合花の母親だよ。とまあ自己紹介はこのくらいにして」

 そう言うと恵美は源蔵の方を見る。その目は先ほどの優しそうな目とは違って明らかに怒りを秘めているものだった。

 そんな恵美に源蔵はどこか怯えた様子で、

「や、やあ恵美。ひ、ひひ久しぶりだね」

「そうだな、ってかお前は一体何をしているんだ?」

「なにって、そ、それは……」

「これが小せぇなぁ。はっきり言えよ」

「ゆ、百合花の結婚式をしていたんだよ。百合花もそろそろそう言う時期だろ? だから……」

「はぁ? 高校生で結婚だぁ? お前はいつの時代のやつだよ。つーか私の許可なしになに勝手してくれてんだよ。あぁ!」

「ひぃぃ!」

 恵美が声を大にして言うと、源蔵は身体をガクガクと震わせる。

「おい。なんかお前の母ちゃんやばくないか?」

「あの人の娘として言ってはならないかもしれませんが、それは否定できないですわ」

 頼人の言葉に百合花は同調すると深く溜息をつく。

「おいてめぇらもなにうちの娘と娘の友達に手出してんだ! 早くその手を離せ。じゃねぇ傷害罪で訴えんぞ!」

 恵美の言葉に警備員もたじたじしながら頼人たちの拘束を解いた。

「ふう。助かった」

 頼人がそう安堵すると、

「すまないな。私のダメ夫のせいで」

 恵美は頼人に声を掛ける。

「いえそれは……」

 頼人が気まずそうにすると、恵美はくすっと笑い、

「別にダメと言っていいんだよ。あいつはとんでもないことをしたんだから。それよりも君が娘を式場から連れ出してくれたそうじゃないか。ありがとう」

「いえ俺は大したことはしてませんから。こっちこそ助けていただきありがとうございます。ですが、なぜ麗華堂を連れだしたことを知っているのですか?」

「私は海外で仕事をしているんだけどね、こういう非常事態が起きた時のために日本に一人見張りをつけてそいつに度々私に連絡をするように言っているんだよ」

「見張り……ですか?」

「あぁ。まあそいつはそこにいるんだけど」

 そう言って恵美はある方向に指をさす。すると、そこには百合花の執事である翼の姿があった。

「こいつが見張り!?」

「なんだ。その反応は。失礼だぞ」

「いやだって。ってことはお前百合花の母親が今日来ることを知っていたということに……」

「あぁ。そうだが」

 平然と言う翼に頼人は苦笑する。

「まじかよ。じゃあなんで俺に百合花を助けてくれなんて言ったんだ? 最初から百合花の母親に頼めばよかったんじゃ」

「それは単なる時間稼ぎだ。恵美様が時間的に百合花お嬢様の結婚式を終えるまでに間に合いそうになかったからな」

「……まじかよ」

 翼の言葉に頼人はがっくりとうなだれる。

「だが、君がいなかったらあのバカ夫のせいで娘の結婚が決まってしまうところだったよ。そうならなかったのは君のおかげだ。本当にありがとう」

「えっ、あっ、いえ……」

 恵美が礼を言うと、頼人は照れからか顔が赤くなる。

「お母様。お久しぶりです」

「おぉ百合花。久しぶりだな」

 そう言うと恵美は百合花をギュッと抱きしめる。

「ちょっ、お母様!?」

「いいだろこれくらい。たまには娘の身体を味わわせろ」

「なんですかその言い方は!? やめてください」

 百合花は恥ずかしそうにするが、恵美は依然と娘を抱きしめている。

「ほんとに親子似てねぇな」

「安心しろ。あの二人はきちんと血はつながっている。ちなみに百合でもない。セーフだ」

「いや別に疑ってないから」

  それから数分して、恵美がやっと百合花を離すと、

「これから私は百合花と一緒に学校へ行くんだけど、君も私の車に乗って行くかい?」

 恵美は頼人にそう言った。

 時間的には午後になったばかりで、今学校へ行ったならギリギリ最後の授業には出られるかもしれない。

「はい。そちらがよろしいのであれば」

「では私も」

 そう言い翼も恵美の車に乗ろうとするが、

「ちょっと待て。お前はダメだ」

「なぜですか!?」

 思いがけない言葉に翼は動揺する。

「お前。勝手に車を運転したろ。いくら執事の訓練でやっていたからといっても、未成年の無免許のくせに何やっているんだ」

 恵美の言葉に頼人と百合花は今更ながら驚く。

「そういえばそうだったな」

「そうでしたわね」

 恵美からそう言われると翼は恵美から目を逸らし、

「そ、それは……」

「それはもくそもない。お前はうちに戻って、私が帰ってくるまでに反省文を書いておけ。ついでにあのバカ野郎も家に連れて帰ってな」

 そう言った恵美が示すのは源蔵である。

「……了解しました」

 落ち込み上がらそう返すと翼はとぼとぼと源蔵の方へ行った。

「厳しいですね」

 頼人の言葉に恵美は、

「いつもはこんなこと言わないさ。でも今日はあいつが百合花にべったりだと少し困るのでね」

 恵美の言葉に頼人は首を傾げる。

「じゃあそろそろ行こうか」

 恵美のその声で頼人と百合花は恵美の車に乗りこんだ。


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