4:領域
大変間が開いてしまいました。
腰はちょっと再発しかけてるので、更新はまだスローペースとなります。
「……っぐ!? かはっ!! 」
意識が覚醒した瞬間。
先ほどまでの光景が頭にフラッシュバックし飛び起きる。
あまりにも凄惨な夢だったせいか、体中は汗にまみれている。
少しだけ、頭を擦り、心を落ち着かせていく。
「……なんて悪夢だ」
気分は最高に悪い。
悪夢だとは思っていても、ぶっ飛んだ内容の中にも、現実に感じる痛みや臭いといった五感があったからだろうか。
冷静に、夢の分析をしてみる。
ふと、周囲を見渡すと……自分の部屋……ではなく、辺り一面が白一色の味気ない部屋に居た。
「どこだ……ここは」
本当に覚えがない。
ここが何処なのか?そんな考えを巡らせていると
僕に向けて声が放たれる。
「おや、おきたんだね?すごくうなされていたけど……まぁ、無理もないか」
透き通るも少し幼さを残す声が聴こえてくる。
その声の方へと顔を向けると、一人……僕よりも背丈が低く見える女の子が真っ白な椅子に腰を掛け本を読んでいた。
その本を畳みながらその女の子は話を続ける。
「此処が何処か。そう君は呟いていたね……ここは、神の狭間にある私の部屋さ」
立ち上がった女の子は、検討通り僕よりも背が低い。
たぶん、140cmくらいだろうか。
なんて考えながら、今しがたこの女の子が言った言葉を思い出す。
「……神……はっ?」
思い出すだけにとどまらず、そのまま口に出てしまった。
(え?なにこいつ……すごくドヤ顔……腹立つ)
よく見ると、ふふんと無い胸を張り腕を組んでいる。
少しだけイラツキを覚えるが寛容な精神で何とかとどまり、言葉をつづける。
「そ、そうですか……じゃぁ、一つお願いがあるんですが……僕を現実に返してもらえませんかね」
なるべく穏便に、事を早急に解決しようと下手に出てみる。
「……おぉ!それは無理だよ?」
即刻拒否される。
「だって、あなた既に死んでるから」
「ブフッ!? 」
堪えきれず、思わず唾を吐き出す。
……何言ってるんだコイツは?
怪訝な表情で顔を覗き込むと茶化すように言葉をつづけた。
「あれ、理解できなかったかな……?あなたの世界風に言うなら……おー!ゆーしゃよー…・・しんでしまうとはなさけない……かな?」
後半は酷く感情がこもっておらず、どう聞いても棒読みだった。
「いや、そうゆう冗談はいらないから……」
そもそも世界風というかゲームだろそれ。あえて突っ込みはしないけども。
テンションの高い、その女の子に段々と腹が立ち始める。
「だけど、事実は事実なんだよぅ?」
こちらを見て、僕の眼が信じないぞ!! という目をしているのか、女の子は途端に語尾を弱くし潤んだ目でこちらを見つめる。
「いや、そうゆうのもいらない……というかあんたは何者なんだ?」
そう訊ねた瞬間。
よく聞いてくれました!! といった風に腕を胸の前で組み
ふふん!! といったドヤ顔をしながら語り始める。
「私?私こそは……この世界の神!! その名も、アリア・エレーギア!! 親しみを込めてアリアって呼んでね?」
腹が立っている僕をさらに怒らせるかのようなテンションで、自称世界の神を名乗るアリアは答える。
それを聞いた僕は……イライラを蓄積させながら、脳内でこの人は危ない人認定を下すのだった。
アリアは間を置いて言う。
「今度はあなたの番だよ? 私にだけ自己紹介させるなんて、とんでもない!!」
テンションは高いまま継続する。
聞くんじゃなかった……
軽く後悔をしながら仕方なく名乗る。
「……月島蓮太郎だ。これでいいか?」
アリアは顔を微笑ませる。
「月島蓮太郎……んじゃ、ツッキーね!」
何故か神にあだ名をつけられた。それもすごい軽く。
当の本人はこちらを見て、どう?気に入ったでしょ?? どう?どう?と迫ってきた。
あまりにもしつこいため、手で押しのけると不服そうな顔でこちらを睨んでくる。
「もう、冗談が通じないんだからぁ……」
と、アリアは頬を膨らませた。
普通なら可愛い……と思う仕草であるが、中々本題に入らない今、僕にとっては中々に腹立たしさを募らせる仕草にしかなっていなかった。
意図的にやっていた事なのか、アリアは急に真剣な表情となり言葉を続ける。
「と、まぁ……ここまではほんの戯れさ。何せここ何千年人に干渉するなんてものは信託の時以外なかったからね、つい羽目を外してしまったのよ……」
先ほどとまでは違い妙に静かな……独白にも似た言葉を紡いだアリアは、すこしだけ物悲しそうな顔をした。
「……そうか、それはしょうがない……わけないよな。それに僕を巻き込むのか……」
同情を誘うかのようにアリアはウルウルと上目づかいで僕を見るが……
(喜怒哀楽の激しい自称神様だなぁ……)
心でそう思い、僕は顔をそらし回避し、盛大にため息をつくのだった。
♦
「さて、じゃぁ本当の本題に入りましょう!! 」
アリアは言う。
「あなたがここに来たのは夢でもないし、偶然でもないのよ?」
「……どうゆう事だ?」
当然の疑問を投げかける。
「最初に言った通り、あなたは一回死んだのよ?あの時、確かにあった現実でね?」
……途端に空気が張り付く。
また、その言葉か。
「いや、それは嘘も嘘だろ?」
アリアにいい加減にしろというテンションで話す。
だが、アリアはただ静かに首を横に振り話を続ける。
「……事実よ、まずツッキー、あなた周囲の様子は見えてるのに、あなた自身の状況は全く見えてないのね。」
少し頭を冷やして自分の状態を確認なさい……そう真面目な顔で、僕へと促してくる。
ゆっくりと見える範囲を確認していく。
……頭、けがはない至って正常。つづいて体、シャツは肌に張り付くほど濡れていて、不快感はあるがそれだけだ。
続いて視線を足に視線を向ける。
両側とも健常だ。何ならその場でもも上げをしても痛み一つ感じることは無い。
衣服にも、乱れはない。最後に腕を確認する。
左手も右手もそこには確かに在った。
力を入れる事に違和感はない……だが、右手の詳しく言うと右上肢の肘から先の服が黒く煤け、無くなっている。
残っている服の部分も紅く染まり、まるで先ほど何かに焼き斬られたかの様だった。
……冷や汗が垂れる。
先ほどまでの、光景が痛みがフラッシュバックし頭を駆け巡る。
余程、鮮明に脳内のその様子が残ってる居るからなのだろうか。
吐き気を催し、その場に思わず屈む。
……アリアが目の前に居ることも忘れ、耐えきれずに嘔吐する。
「っぐ、げほ……」
少しだけ抗っては見たもののそんな行為に何か意味があるわけではなく、すぐに決壊し吐き続ける事となる。
……落ち着いたころに、アリアはやさしく声をかけてきた。
「これで、実感したかしら?一度あなたは死んだって事を」
みっともなく涙を流しながら嗚咽を含んだ声をあげその事実を受け止める。
これは、夢ではなく現実なんだと……
そして、僕の時間は、この時確実に一度止まった。
「さて、そんなツッキーがなぜここにいるのか、それをこれから説明するよ?いい?」
アリアは言う。
若干心が落ち着いてきた僕は静かに頷く。
すると、にこっと笑ったアリアはすぐに悲壮感漂う顔となり短く言った。
「ツッキーあなたにね、私が管理するこの世界……『オルガヌム』を救って欲しいの……、だからツッキーをいいえ、月島蓮太郎君……あなたの運命に私が介入したの!! 」
……はい?
理解できる範疇は超えていた。
ただ、わかることは一つ。この時彼女は……アリアは静かに涙を流していた。
そして、その言葉に仕草に……息遣いに僕の心は激しく脈を打っていた。
アリアは言う。
このままでは近い未来に『オルガヌム』は滅んでしまうだろうと。
それは、魔族の王『イブリス』によって世界が混沌に染まっていってしまうからだと
その後、アリアは涙ながらに語っていた。
『私はこの世界の神だから、この世界が勿論大好きなの……でもね、直接は関われないのよ。それが神のルール……なの……』
だんだん、言葉尻が弱くなっていくアリアは泣きながらそう語り
最後には、「ごめんね、こんなところ見せて……」
気丈にふるまいながら、そう語っていた。