1:とある夏の日
予約投稿です…。
高校二年の夏……
蝉が忙しく鳴き、連日猛暑日が続く最中。
僕はいつもの通いなれた通学路を自転車で走り、自宅へと帰っている途中だった。
「ったく……なんでこんな朝から真昼間にかけて、部活動なんてものが存在するんだ……」
おかげで、貴重な夏休みの時間の半分以上は部活動に費やすことになっているぞ……
……そう僕はぼやく。
僕が所属している学校では、部活動が盛んであり強制的に、部活動に所属させられる。
(まぁ、入部する部活は選ぶことができるんだけど)
そして、僕こと『月島 蓮太郎』は、幼い頃から護身術として親から剣道場へと通わされていた事と、とある事情からこの学校でも剣道部へと所属している……。
――とある事情とは何か? それは、過去の僕の試合歴にある。
悲しくも、護身術として習い始めた剣道に天賦の才があったのだろう。
小学校4年生頃から出る大会を総ナメにしていた。
また、中学2年の頃には全国大会にて優勝を果たした。
そして、次の年には、全国大会二連覇を達成した。
この頃の自分は少し、自己陶酔していて、この日本に、自分に勝てるヤツはいない。
天狗になっているわけではなく……事実。少なくても僕はそう思っていた。
まぁ、他人からすればそれこそ天狗になっていると笑われるのだろうが……。
そして、高校進学の際……僕に、ぜひうちの高校に来てほしいと打診があった。
僕は、楽して入れるならとその打診を受け、スポーツ特待生として、この高校に入学したわけだ。
まぁ……そして現在に至ると。
では、何故そんな特待生として入った僕が部活動をこんなにも面倒くさがるのか……
それは、……同じ部活動に所属している、学校の理事長のプライドだけ高く実力のない、糞ったれな息子の癇に障ったからだろう。
特待生として、実績を作ってほしい。そういわれて意気込み、一年で初出場の大会で見事優勝。
それが気に喰わなかったのだろうか?後日、校長室に部活の顧問と呼び出されれば一言
「君はもう、試合には出なくていい」……これだ。
聞けば、反対する生徒は一人も居なく、僕の事を庇っていたのは、その顧問一人だけだったらしい。
そしてその上で、部活には出て来いというのだから……いよいよもって乾いた笑いしか出ない。
だから、僕の中ではもう過去の事なのだ。この部活動に所属しているという事実は……。
今は惰性で、先輩方の道楽に付き合っている様な物だ。
仕方のない……なんて、低俗な先輩なのだろう。
幸い……僕には、部活とは別に通いなれた道場がある。
だから、これでいいんだと……自分を言い聞かせていた。
♦
そんなわけで、部活動を終えた僕は、竹刀袋を背中に背負い自転車にまたがったまま帰宅路についている途中というわけだったのだ。
「しかし……暑いな、暑すぎるぞ……」
少し、コンビニに寄って飲み物でも買うか。
……詰め寄る暑さに勝てるはずもなく、僕は寄り道をし、コンビニで炭酸飲料を購入し、一息つくのだった。
喉を冷たい感覚が満たし、体が冷えていく。
一時的な感覚ではあるが、暑さをごまかした所で帰宅路にふと目をやると、今朝がたまでは無かった筈の工事の看板が立てられている。
『本日、午前10:00から午後7:00までの間、この区間の老朽化した水道管の交換の為、道路を封鎖しております。お急ぎの方、お手数をおかけしますが迂回頂くよう、お願いいたします。』
時刻は、午後2:30を少し過ぎた頃……看板から僕の眼の見える範囲には作業員はいないようだが……
「……っち、ツイてないな……」
そうは言っても仕方がないと、来た道を少し戻り、普段は通らない小路へと自転車を走らせる。
「こっちの道は、嫌いなんだよなぁ……」
時間的には、こっちの小道を走って通った方が、実は距離的には近く、短い時間で通学する事が出来る。
だが、全体的に薄暗く……途中にある、明かりの一切ないトンネルは地元では屈指の心霊スポットとして有名だった。
小学の頃から付き合いのある、オカルト好きな友人曰く『トンネルから出ると背中に赤い手形がついていた』だの……『トンネルの真ん中で金縛りにあった』だの、『真後ろから……タスケテ……といった声が聴こえてくる事がある』だの……胡散臭い話ではあるが、幼い頃からずっと聞いていた為、いつの間にか恐怖心を覚えてしまっていた。
一度、その友人と夜中に来た時には、風の音にビビッて一目散に逃げだした実績があり……それを後日、友人に笑われたことがあるぐらいだ。
だから有事の際の時以外は、通らない。そう決めていたのだが……
「かといって、あと4時間以上も待てないしなぁ……えぇい、男は度胸。まだ明るいんだどうにでもなれ!! 」
そう、決心をした僕は、自転車のペダルをこぎ、その小路へと走っていくのだった。
……しばらくすると、件のトンネルにたどり着く。
まだ、真昼間だというのにもう夜中なのでは?と錯覚するぐらいには暗く……
友人の話を沸々と思い出した僕は、軽い目眩を覚える。
「……この時間でも、こんなに暗いのか」
あまりの暗さに、すこし動揺し後ずさる。
しかし、退路はない……ここで、引き返すという事は即ち、あと4時間半この炎天下の中を自転車と供に過ごさないといけないからだ。
……そいつだけは御免だ。
僕は、一刻も早く家に帰ってそして冷房の効いた部屋で、残り少ない今日という日を謳歌するのだ。
その為なら……その為なら……この一瞬の恐怖など。
「待ってろよ……僕の愛しき空間……!」
耐えて見せる!! と、でも若干怖いので目を瞑りペダルを漕ぎ始める。
トンネルの中は若干の下り坂となっていた為か、徐々に加速しスピードを上げていく。
「おっ……おっ……!? おぉぉぉぉぉぉ!?」
思ったよりも、回転数を上げスピードを上げていく自転車にたまらず目を見開き、しっかりとブレーキを握る。
……目を閉じて自転車を運転するといった愚行を犯したが故に、切る急ブレーキ。
当然、待つのは……転落である。
ガシャーン……とトンネルの中に、自転車が倒れる音が響き渡る。
「っつぅ……苦手だからって目を閉じながら運転しようなんて……なんて馬鹿なんだ僕は」
……ぶっちゃけ、冷静に考えれば幼稚園児でもしない様な事をしたと振り返って思う。
丁度、トンネルの中腹に当たるのだろうか……下り坂を終え、今度は緩やかな上り坂へと差し掛かっていた。
そして、トンネルの中に入ってしまえば……なんてことはない。
出口には光が当たり、トンネルの中を薄く照らしていた。
「ふむ……外と中からではこんなにも景色が違ったのか。必要以上にビビッて見たけど……これなら平気だな」
転倒した際に、体に怪我はないか、埃を被った制服を軽く叩きながら確認し立ち上がる。
派手に転んだが、幸いな事にとくに、痛みや怪我はない……
「全く、自業自得とはいえ……災難だったなぁ」
悪態をつきながら、自転車を起こし跨る。
少し力を込めペダルをこぐが……車輪は歪な音をたて空回りし続ける。
「はっ!? こんな所でチェーンが外れんのかよ……ついてないなぁ」
ふと脳裏には、よくある心霊現象時の風景が浮かぶ。
……いやいや、まさかな?
若干、額には冷や汗を浮かべながら自転車から降り、駆け足で自転車を押しながら道を進み始める。
――瞬間、地面が派手に振動する。
「ちょ……は?地震……!? 」
あまりの揺れに立っている事ができず、膝をつく。
その際に自転車からは手を放してしまい、再度自転車は横に倒れた。
……揺れが収まったらすぐに自転車を起こしてこのトンネルから出よう。
何故か、このトンネルに入った瞬間からついてないことが立て続けに起こる
(まぁ、最初のは完全に自業自得だけど……)
友人のオカルト話を信じるわけじゃないが、これは……いくらなんでも薄気味悪い。
そう感じ……揺れが収まるのを必死に待つ。
……待つ……1分……2分……
だが、一向に収まる気配はない……むしろ揺れはどんどん強くなっている。
「嘘だろ……外は!? これだけ強ければ外だって揺れ……」
言葉はここで途切れる……というか続きを発せない。
少なくても、僕の目に映っている外は『一切揺れて等いなかった』
心臓が、一際早く脈を打つ。
呼吸が乱れ……浅く、早い呼吸へと変わる。
額には、先ほどよりも多量に……大量の冷や汗が浮かぶ。
急激に気分が悪くなる。
「……いや、流石に嘘だよな……?おい」
冷静に……冷静に……目を瞑り、呼吸を整えようと意識して深くゆっくり呼吸をする。
……さらに数分の時間が経過しただろうか。
不意に、背中を触られる感触が走る。
その感触は熱を伴わず、ひどく冷たいものだった。
「ひっ……」
思わず情けない声が漏れる。
(嘘だろ……嘘だろ!嘘だろ!?)
折角、落ち着いてきた思考はたったそれだけの事で、あっさりとパニックに陥った。
次いで、耳元で聴こえる声
『ヤット……ミ……ツケ……タ』
口をパクパクとさせ余りの衝撃に、呼吸を忘れる。
サァ……と血の気が引いていき、意識が遠くなる。
そして、小さくトサッと膝を崩し……僕は意識を手放した。
トンネル内にはその後、続きの言葉がこだまする。
『繋がった!! 突然の無礼をお許しください……この声が今届いている貴方様!! どうか、私の世界を……いいえ、この国をお救いください!! いえ、もう魔法は発動させてありました……貴方様には拒む権利は……ありません。ごめんなさい』
だが、それを聞く者はいなかった。
当事者は、しっかりと意識を手放し気絶しているのだから。
そして、その数十秒後にトンネルは淡い光に包まれ……
光が収まったころに残ったのは……一台の自転車のみだった。
ホラーが苦手系、主人公はお好きですか……?