第七十二話 「別れ」
三人は宴に包まれる王都を後にした。
神の機器イレギュラー発見装置ももう反応を示さなかった。
「そうか、これで俺達の役目は終わったわけだな」
スコットが言うとエレンが頷いた。
「お二人には本当にお世話になりました」
そして沈黙が続いた。ネルソンは知らないが、スコットは一抹の寂しさを覚えていた。色々あったが三人での旅は悪いものでは無かった。今となってはそう感じていた。
「神よ、無事使命を果たせたのなら俺がここにいる理由はもう無い。俺の在るべき場所へ帰してもらおう」
重い均衡を破ったのはネルソンの一声だった。
「そうですね、お二人をもとの世界へ帰して差し上げます」
そうして女神はネルソンの肩に触れた。
「ネルソンさん、本当にありがとうございました」
ネルソンの身体が霞みがかってゆく。
「スコット、手入れを怠るな」
そう言ってネルソンは愛用していた剣用の棒ヤスリを彼に放り投げた。
「ああ、大事に使わせてもらうぜ。ネルソン、アンタみたいな戦士に出会えて俺は本当に良かったと思っている」
半ば感極まってスコットが言うとネルソンは頷いた。
「俺もだ、スコット」
そうしてネルソンの身体は消えていった。
「行っちまったな」
「そうですね」
スコットは棒ヤスリをベルトに挟んだ。
「スコットさん、これをお返しします」
エレンがアサルトライフルを渡してきた。
「ああ。お前さん、良いガンナーになれるぜ」
「そうでしょうか?」
「そうだとも」
スコットが応じる。沈黙が再び続いた。
「あ、あのスコットさん」
「何だ?」
「変なお願いですけど聞いてくれますか?」
「可能ならばな」
「だったら、スコットさんの上着を下さい。あの、変な意味じゃないです。この上着を見ているといつでもスコットさんが側にいてくれるような気がして」
「良いぜ。どうせ支給品だ」
スコットはアーマーベストを脱ぎ、次いで脱いだ上着を女神に渡した。
エレンはその上着を愛しそうに抱き締めた後、真面目な口調で言った。
「では、スコットさんももとの世界へ戻して差し上げます」
エレンはスコットの肩に触れる。と、エレンはスコットに抱き付いてきた。
「スコットさん、お別れなんて本当は嫌です」
スコットはその頭を撫でて言った。
「そうだな。だけど、俺とお前とじゃ領分が違うんだ。俺は俺の世界へ帰るさ。そうしなければならない。さもなきゃ、その装置の標的が俺になっちまうかもしれないぜ」
スコットが微笑むとエレンは頷いた。
「さよなら、スコットさん」
「じゃあな、エレン」
二
見れば見覚えのある自室だった。
スコットはその真ん中に立っていた。
下着の上にアーマーベストを羽織り、腰にはマグナムとナイフ。手にはアサルトライフルを持っていた。
何だ、この奇妙な格好は。俺は何をしてたんだ。
スコットはライフルを置き、ベストを脱いだ。何週間か部屋を空けていたような気がした。
そして腰に棒状の何かが挟まっていることに気付いた。
ヤスリだった。
不意に何かが彼の記憶を過ぎった。
だが、思い出せない。スコットは思い出そうと努めた。だが、その記憶の裾は二度と姿を見せてはくれなかった。
とても大切なことを俺は忘れてしまったような気がする。
涙が自然と溢れ出て来た。
俺は泣いているんだ。きっと泣きたくなるほど切なくて素晴らしい夢を見ていたに違いない。
いつかその夢を思い出せる日がくるのかな。
二人の傭兵 完




