第七話 「死闘」
「スコットさん!」
エレンの止める声を無視し、スコットは拳を握り締めて、怪物と向き合った。
見たところ、分厚そうな衣装だ。本気の一撃を見舞ってもたいして中の役者へのダメージは無さそうだ。
思いっきりやらせてもらうぜ!
オーガーが斧を振り下ろしてくる。
おっと、当たってやるわけにはいかねぇな。格好がつかないぜ。
スコットは攻撃を避け、オーガーの懐に飛び込み腹部に拳の一撃を見舞った。
だが、驚いた。その衣装ときたら予想以上に固いのだ。今、スコットは全力で拳をぶつけたが、自分でも分かるほどダメージは全く通っていない。
ならばと、スコットはオーガーの側頭部目掛けて回し蹴りを放った。
が、またも衣装の固さに阻まれた。
何だこれ。もしかして俺の役回りって、手も足も出ないまま怪物に殺されることなのか?
オーガーが斧を薙ぎ払ってきた。その一撃が身体を深く抉ったのが分かった。
「スコットさん!」
エレンの声が聴こえる。
スコットは吹き飛び地面に倒れながら素早く立ち上がった。着ていたアーマーベストは見事に大きく裂けていた。
おいおい、あの斧本物じゃねぇのか?
何かがおかしい。映画で使うなら模造品のはずだ。刃を通さないベストをここまで傷つけることなんて到底できやしない。
「スコットさん!」
エレンがアサルトライフルを構えてスコットの前に躍り出た。
「待て、そいつは本物の銃だ! 撃ったら相手は死ぬぞ!」
「その通りです、今からあなたに現実を見せてあげます!」
次の瞬間、ライフルが幾重にも火を噴いた。
オーガーの身体中から血が吹き上がった。
やってしまった! ああ、神様、これも演出の一つでありますように!
そしてオーガーは自らの血の海の中へと倒れた。
「ふうっ」
エレンが振り返った。
「わかりましたか? これは現実です。あなたはきっとあなたの世界で言う映画の撮影だとでも勘違いなさっているのでしょう?」
「違うのか?」
「……違う」
そう言って現れたのはネルソンだった。炎の灯りが彼の身体中を染め上げる鮮血の痕を照らし出した。
まるで地獄の悪鬼の様だった。どうやらネルソンは残りのオーガーを一人で倒したらしい。
「足手纏いはいらん。現実を直視しろ。……死ぬぞ」
「映画の撮影じゃないのか?」
するとネルソンはオーガーの死体に屈み込み、その背に血塗れの太い剣を突き刺し、そして引き裂いた。
背骨が見え、血と異臭と共に臓器が流れ出て来た。
中に人なんていなかった。
どこからか泣き声が聴こえる。
振り返る。
村人達が仲間の、犠牲となった家族の死を前に嗚咽を漏らしていた。
「現実……これが……」
「スコットさん。私は神です。この地を救って頂くためにあなたとネルソンさんを呼び出しました」
エレンが言った。
スコットはアーマーベストの深い傷跡を手でなぞり、生唾を呑み込んだのだった。




