第六十八話 「最終ステージへ」
空気を孕む重い羽ばたきが響き渡る。
城壁まで飛翔してきたそれは口を開き炎を噴射する。
応戦していた兵士達が火に包まれ悲鳴を上げて石畳の地面を転げまわる。
スコットもまさかとは思ったが、それはドラゴンだった。漆黒の鱗に覆われた三階建ての建物ほどもある巨体をしている。背中の左右には皮膜の翼があった。
神の機器の反応をもとに辿り着いたのは王都だった。
城は突然現れたブラックドラゴンの脅威に晒され続け、被害も深刻だという。
騎士が、兵士が、民衆が、こんな絵本の中でしかお目にかかることのない存在に驚き戸惑っていた。
「応射せよ!」
指揮官の声が木霊するが、矢はバラバラに飛び怪物の身体当たってパラパラと落下していった。
「長弓では駄目か」
そう漏らす指揮官の隣でネルソンが弓を引き絞り矢を放った。
その矢は真っ直ぐ飛びドラゴンの腹部に突き刺さった。
恐らくは初めてだったのだろう、ドラゴンの上げた悲鳴に兵士達が驚き喚起する。
「おお、何という強弓だ」
指揮官はそう言った。
「弩は無いのか?」
ネルソンが指揮官に尋ねた。
「あいにくこの城には残されてはいない。全て必要な地域へ輸送されてしまった。確かに、弩ならあるいは……」
悔し気に指揮官はそう言った。
耳をつんざく様な咆哮を上げてドラゴンが接近してきた。
そして障壁の上へドスンと着地する。
「馬鹿目、地上へ降りたなら我々にも分がある! 槍隊進め! 串刺しにしろ!」
指揮官の声で勇躍して槍部隊が猛然と突進してゆく。
と、背後で触れていたドラゴンの尾が突如として振るわれた。
槍隊の兵士達は横合いから強かに打ち付けられ、断末魔の声も無く二度と起き上がらなかった。
「くっ、鍛錬を怠らなかったとはいえ、我々がこうもあっさり負けに傾いてしまうとは……」
指揮官は剣を抜いた。
「ならば、この私自らが国王陛下に代わって決着をつけてくれるぞ!」
「落ち着けよ。アンタが死んだら誰がここの指揮を執るんだ?」
不意に若い声が割り込んできた。
見れば、見たことのない服装に身を包んだ男が立っていた。
「ま、俺達に任せて置けよ」
その男はこれもまた見たことのない道具を指の中で回転させると、まるで弩をそうするかように敵に狙いを定めていた。




