第六十三話 「黒幕」
一時は頓挫するかのように思えた旅だったが、スコットは全てを許し再び旅の仲間に加わり使命を果たすことにした。
だが、彼は訊かずにはいられなかった。不幸にもこの地で生を受けたグリフォン、いや、その他の怪物達、本来存在しないはずの世界に誰が生を授けたのだろうかと。
その問いにエレンは真剣な顔で応じた。
「サラフィー様です」
スコットには聞き覚えが無く合点がいかなかったが、ネルソンが答えた。
「……運命神サラフィーか?」
「そうです」
エレンが頷いた。
「私よりも格上の神です。ので後に様と付けることをお許しください」
そしてエレンは語った。
「サラフィー様は私がこの世界を上手く扱っていけるのか、試すつもりで今回のことを行ったのだと思います」
それを聴き、沈んだはずの怒りが沸き立つのをスコットは感じた。
「ようはテストか。そのために存在しないはずの怪物どもを呼び寄せて、お前のこの世界を混乱させたわけか」
「はい」
エレンが申し訳なさそうに応じたので、スコットはその頭を力強く撫でつけた。
「わわ!?」
エレンが混乱気味に声を上げる。スコットは静かに怒りながら言った。
「お前のせいじゃない、気にするな。俺にはこの世界は充分平穏そうに見えた。それをわざわざぶっ壊してテストだとか言う奴に腹が立つ。奴の起こしたイレギュラーで死んでいった人間達もそうだが、この世界に呼ばれた怪物どもだって言ってみれば被害者だ。俺はそいつらの分の仇も討つ。それが例え神でもな」
スコットの決意にエレンは戸惑いの顔を見せていた。さすがに神殺しに同意はできないだろう。スコットはそんな彼女を別段失望したり嫌ったりはしなかった。彼はもう一度彼女の頭を撫でた。
二
そうして新たな村に到着し、夜を明かす。イレギュラー発見装置はやや大きな点になりつつあった。
もうすぐまた怪物達と出会うことになるだろう。神の悪戯で呼び寄せられ適応できない地で生を受けた者達と再び刃を交えるのだ。
建物の陰でスコットは少し離れた井戸の前で鼻歌交じりに洗濯する女神のことを見ていた。
ネルソンが旅支度を終えて帰って来た。
その時、エレンが明らかに見覚えのあるスコットの上着を取り上げ顔を近付けるのが見えた。
毎回そうなのだ。エレンはスコットの上着を洗う前に必ず顔を近づける。あれは何をやっているのだろうか。
「そんなに汚したつもりは無いけどな。どう思う?」
スコットが尋ねるとネルソンが応じた。
「違う。あれは、においを嗅いでいる」
「においを!?」
スコットの己の腕や胸に慌てて鼻を近づけてにおいを確認した。
「正直に言ってくれ。俺って臭うか?」
「いや」
ネルソンは短く答えた。
二人が見守る前で女神はしばらくスコットの上着に顔を埋めた後、意を決するようにして泡立つ桶の中に入れたのだった。




