第五十話 「束の間の平和(二)」
ネルソンの後に続いて行くと、彼が足を止めて振り返った。
「お前はここに残れ」
「……やっぱり神様一人にはしておけないよな」
スコットが答えるとネルソンは頷いた。
「じゃあ、買い出しは頼む」
スコットが言うとネルソンは去って行った。
エレンは神様だ。それに度胸はあるが、華奢な娘である。先程言った通り一人にはしておけない。
路地から顔だけ出して様子を窺う。と、言ってもさほど距離は無かった。エレンの楽しそうな鼻歌が聴こえてきていた。
エレンは順調に洗濯を終えて行く。洗われた衣類がロープに吊るされ陽光を受けて風に靡いている。
エレンは楽しそうだった。もしも苦痛そうならば、ここから姿を見せて自分が変わってやっただろう。
すると調子の良く進んでいたエレンの手が止まった。
どうしたのだろうか。
見れば手にしているのはスコットのシャツだった。
エレンはそれを見詰めたまま微動だにしなかった。
ようやく動いた時、彼女はスコットのシャツに顔を近づけていた。それにしても近い。
あれは、エレンは一体何をやっているのだろう。
すると隣で洗濯をしていた女がエレンを見て言った。
「歌が聴こえないと思ったら、お嬢ちゃん、手が止まってるじゃないの」
「え? あ、すみません」
エレンが応じると女はエレンの手からスコットのシャツを取り上げた。
「どれどれ、そんなに酷い汚れなのかい?」
すると女はむせった。
「ちょっと、アンタ、これ物凄く酷いにおいじゃない!? 最後に洗ったのはいつなの!?」
女の言葉にスコットは心の中で苦笑していた。エレンの表情は見えなかったが、こちらと同じだろう。
「どれどれアタシが手伝ってやるよ」
「あ!」
女がスコットのシャツを桶に浸そうとするとエレンが声を上げた。
「ん、何だい?」
女が尋ねた。するとエレンは何故か決まり悪そうに応じた。
「い、いえ、何でもありません。ありがとうございます」
「それもよこしな。どれもこれも酷いにおいだね、まったく」
そう言って女が取り上げたのは全てスコットの衣類だった。
エレンは僅かに手を伸ばしていたが、我に返った様に引っ込めた。
そうして女神は再び洗濯を始めていたが、先程のような陽気な歌声は聴こえてこなかったのだった。




