第五話 「急行」
「スコットさん、スコットさん! 起きて下さい!」
暗い世界に聞き覚えのある、しかも忘れたかった女の声が聴こえた。
何てこった、俺はまだ付き纏われているらしい。しかも寝ていた。
スコットは目を覚ました。
あの女の心配そうな顔が目の前にあった。名前は……忘れた。
「あの光り、実は催眠ガスか何かも入ってただろう?」
スコットは軽い吐き気を覚えながらそう尋ねた。
「そんなんじゃありません」
彼女は手を差し出した。
スコットは相手の厚意を辞退し自分で起き上がった。
ネルソンと呼ばれた男もいたが、こちらには興味を示す様は見受けられなかった。ジャリジャリと音をさせて何かをしている。リンゴの皮むきでもしてるのかと思えば、長く太い刃のあるナイフを、いや、ナイフでは無い。あれは剣だ。とにかく、それを石で研いでいた。
ネルソンの剣を見たせいで、今度は自分が何かの映画の撮影場所にでも連行されてきたのだろうかと思った。
「良いですか、ここは森です」
確かに森だった。
「見りゃ分かる」
スコットが応じると女は頷いて言った。
「この森を抜けた先に村があります。そこが今、大変なことになっています。私達はその村を救うためにやって来たのです。さあ、急ぎましょう!」
女が駆け出した。ネルソンも後に続く。
映画の撮影は既に始まってるってことか?
スコットは夜の森の中を見回したが、カメラも映画スタッフの姿も見えなかった。夜だからだろう。きっと木陰の中でこっちを撮影してるのさ。
「スコットさん! お早く!」
女が振り返って声を上げた。
スコットは溜息を吐いた。ここがどこかも分からない。だが、映画に出演となればギャラもそれなりに貰えるんだろう。仕方ない、そのギャラのためにあの女について行ってみるか。
スコットは意を決し、二人の後を追った。
「で、アンタの名前何だっけ」
「レティアシアです」
「そうだ、そんな噛みそうな名前だったな」
駆けながら話を続けた。
「私の名前が言い難いのでしたら、エレンと呼んで下さい」
「レティアシアの欠片も無いぜ?」
「そうですね。でも、前に地上に降りた時はそう名乗ってました」
「地上ね……」
これはそういう映画なんだろう。レティアシア改めエレンは神だと自分のことを言っていた。そしてスコットとネルソンを地上を救いに来た勇者だと言っている。
そういうストーリーなんだろうな。すっかり役にはまっているような相方ネルソンのことを見つつスコットは仕方なく後に従った。




