第四十九話 「束の間の平和(一)」
霊山を後にし、一行は新たな歪みを正すため旅を進めた。
神の機器、イレギュラー発見装置は北を指して小さな光点の矢印を点滅させている。次なる目標までまだまだ距離があるということで、急行したいのも山々だが、倒れてしまっては元も子もない。スコットとネルソンの暗黙の内のエレンに対する気遣いで、村や町で晩を明かしつつ足を進めていた。
「アンタ達、言いたくないけど、酷いにおいだよ」
宿に入るや女将が顔を歪めてそう言った。
「そうですか? 毎回、町や村ではお風呂には入ってるのですが」
エレンが応じると女将は頭を振った。
「最後に服を洗ったのはいつだい?」
そう言われスコットとエレンは顔を見合わせて苦笑した。
その表情を見て宿の女将は察したように溜息を吐いた。
「この裏に井戸があるから洗濯しといで。桶と洗濯板、あと石鹸も貸すからさ」
二
まず三人は適当な服を買い、それに着替えて宿の裏に来た。
そこは広くて女将の言う通り井戸があった。
桶と洗濯板を交互に見てエレンが尋ねた。
「これはどう使うんでしょうかね?」
スコットも頭を振った。
「俺のところは全自動洗濯機だったからなぁ」
「うちも似たようなものです」
エレンが困ったように応じた。
不意にネルソンが桶を受け取り井戸の水を入れて、板も受け取った。そして水を張った桶に衣類を浸し、石鹸を溶かして、凹凸の並んだ板に洗濯ものを擦りつけた。
板が衣類が桶が、見る見る泡立って行く。スコットもエレンも感動した。
すると桶と他に衣類をどっさり抱えた恰幅のある中年の女が現れた。
「おや、見ない顔だね、アンタ達」
「旅をしてるんだ」
スコットが応じる。
「へぇ、そうかい」
女も井戸水を汲み上げて洗濯を始めた。
その時、エレンが申し出た。
「洗濯のやり方は分かりました。後は私がやります」
「いや、自分のものぐらいは自分でやるさ」
スコットが応じたが、エレンは頑なに首を横に振った。
「私はいつもお二人に頼りきりです。このぐらいはどうかやらせてください。お願いします!」
ネルソンが立ち上がった。
「そこまで言うならやってみろ」
戦士がそう言うとエレンは頷き、板と洗濯物を手にして洗い始めた。
「こうですよね?」
ネルソンは頷いた。
エレンはニッコリ笑って懸命に洗濯を開始した。
「ここは私に任せて、お二人は旅の品物を揃えに行ってきてください」
そう言われ、ネルソンが立ち去りスコットも後に続くしかなかった。




