第三十八話 「海の魔物(一)」
体高のある大きな影は茶色のヌメヌメした身体をしていた。
六本の触手を伸ばし、空を彷徨わせている。
「イカか!? デケェ!」
「クラーケンです!」
スコットの後にエレンがそう訂正した。
エレンの持つ神の機器が激しく明滅する。こいつがイレギュラーな存在で間違いは無さそうだ。
「まだ撃つな! 引き付けるんだ!」
アルヴィナが言う。志願兵達の数人は魔物の迫力に押されて呆然自失の状態になっていた。
クラーケンが沈み悠々とこちらに迫ってくる。その姿は船ほどの大きさがあった。
その大イカが再び海上に姿を現し佇立した。
「右舷大砲撃てぇっ!」
アルヴィナの声が響き渡り、轟音が木霊した。
だが、大砲が飛ぶ前にクラーケンは海に潜った。
そして船が揺れた。
「奴め、船底に張り付いたな!」
そう思った瞬間、反対側から声と鋭い音、木材に亀裂が入る音が聴こえて来た。
「向こうだ!」
アルヴィナ先頭に急行する。
と、驚くべき光景がそこには待っていた。
左舷が破壊され、砲門は既に失われていた。
クラーケンの茶色の大きな身体が露わになっていた。触手を鞭の様に振るい、木材でできた甲板を破壊していた。
「矢だ! 矢を放て!」
アルヴィナが叫ぶ。
志願兵と船員達が慌てて大量の矢を放った。それらはクラーケンの身体に突き刺さるものあったが、全くダメージは受けていないようだった。
太い触手が振るわれた。
ネルソンが飛び出し、それを一刀の下に斬り捨てた。
その姿を見て志願兵も船員も感心していた。
だが、驚くべきことに血を噴き上げた触手の断面から体液を撒き散らし、新たな触手が生えて来たのだった。
触手の攻撃は続いた。
志願兵達がまともに攻撃を受けて吹き飛んだ。
「ちっ、よくも!」
アルヴィナが飛び出しネルソンの隣に並んで襲ってくる触手を剣で斬り捨てた。
だが、再生する以上、二人の攻撃は無駄だった。
不意に、触手がアルヴィナの攻撃をかわし、横から彼女を叩いた。アルヴィナの身体が宙に投げ出され、海面に落ちた。
「お頭!」
船員達が叫び、恐慌状態に陥った。
アルヴィナの身体を触手が巻き上げ空高く持ち上げた。
大イカは隠されていた大きな口を開いた。
その時、ネルソンが甲板からクラーケンに躍り掛かった。




