第三話 「スコット」
内戦や紛争の話が無いわけでも無かったが、今、こうして自分は宿舎のアパートの自室にいる。
先の作戦で仲間を多く失ったため、自分達の傭兵部隊は人数が集まるまで非番の時を過ごしていた。
朝遅くに目を覚まし、熱いシャワーを浴びる。そのあとビールでも飲もうかと思ったが、やめた。もしかしたら、緊急の要請が入るのではないかと、大概は杞憂で済んできたが、今日に限ってはそんな予感が強かった。
なのでレンジで温めたチーズバーガーを食べ、ソーダ水で喉に流し込んだ後は、戦闘服に着替えてしまっていた。
何でだろうか。しかし、直感がそう告げるのだ。
アーマーベストに着替え、アサルトライフルを手にし、ハンドガンと戦闘用ナイフを腰に提げる。そして持てるだけの弾薬を持ち出した。
そんな状態でただ待っていた。
何をしてるんだ俺は。誰を待っているんだ? こんな格好で、傍から見たらただの間抜けじゃないか。
その時、足元が光った。
「何だこいつは!?」
次の瞬間、スコットは光りの中へ落ちて行ったのであった。
二
「もしもし、大丈夫ですか?」
遠慮がちな女の声に起こされ、スコットはまぶたを開いた。
女の顔が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
可愛い女だ。赤い髪をしている。だが、スコットの好みでは無かった。少々顔に残るあどけなさが原因だろうか。
頭痛がし、スコットは軽く呻いた。
そしてここがアパートの自室でないことに気付き、驚愕した。
石畳が敷かれ、中央が段になり、台のようなものが置かれていた。それだけの部屋で周囲に敵意は感じなかった。
「どこだ? 夢の国にしては面白みに欠けるな」
「夢じゃありません」
女が答えた。
「俺は部屋にいたはずだったが?」
「私がここへ呼びました」
女が答える。そして彼女は背後を振り返った。
突然空間に白い光が過ぎり、それが消えるとともに一人の男が立っていた。
スコットよりも背が高く、体格が良い。露出している腕は鍛えに鍛えこまれている。それでもスラリとした身体つきだった。
赤いバンダナで髪を逆立てている。冷徹で厳めしい面構えだが、若いのか若くないのか微妙な年齢の顔だった。
「こんにちは」
赤い髪の女が新たに現れた男に声を掛けた。
「お前は誰だ?」
男が訝る様にそう尋ねた。良い質問だ。スコットは女の方を見た。
「私はレティアシアです」
噛みそうな名前だとスコットは思った。女がこちらを振り返った。
「スコットさん、そしてネルソンさん。あなた達二人は選ばれたのです」
芝居がかった台詞だが、女の顔は真剣そのものだった。しかしやはり説得力には欠けていた。
「選ばれたって何に? 宝くじにでも当選したのか?」
スコットは相手の様子を伺いながら尋ねた。
「その確率よりもずっとずっとずぅぅぅっと、遥かに低い確率です」
「賞金はどれだけ貰えるんだ? それとも世界を豪華客船で巡る旅行券とかか?」
「宝くじじゃありませんし、豪華客船もありません」
噛みそうな名前の女はそう言い話を続けた。
「あなた方、二人は神に選ばれたのです」