第二十九話 「首無しの騎士達(一)」
この町で夜を明かすのは三人だけでは無かった。神父を含めた二十人ほどの旅人が同じく一晩町に滞在することになった。
多くが教会の前に集められただけで、まだまだ埋葬されていない町の人々の亡骸を思ってのことだった。彼らは明日も埋葬作業に精を出すということだった。
エレンはその言葉を聴いて感謝で涙を濡らしていた。だが、彼女は念のため警告もした。
「今晩も首無しの騎士が現れるかもしれません」
すると旅人達は各々の護身用の得物を叩いて見せて応じた。
「その時は戦うさ。町の連中の仇を討ってやらなきゃな。それに首無しの騎士なんているものか。野盗の仕業に決まってる」
旅人達は気楽な様子でそう言った。
「本当だ、首無しの騎士どもは本当に存在する!」
一人生き残った男が訴えたが、旅人達に一蹴されるだけだった。
スコットの見たところ、エレンはやはり心配しているようだった。
「デュラハンってのは強いのか?」
「はい。実体のある亡者の中では最上級の存在です」
「そうかい……」
スコットは復讐に燃える旅人達を横目に、不安ばかりが募っていた。旅人達には一晩だけ出て行ってもらった方が良いのではないだろうか。失礼だが、彼らが武術に長けているとは思えなかった。無駄死にするだけかもしれない。
「デュラハンは強敵だ」
ネルソンが口を開き言った。
「お前達では無理だ。一晩、町の外に出ていろ」
ネルソンがスコットの気持ちを代弁するかのように人々にそう言った。
「強敵だろうが何だろうが、乗り掛かった舟だ。やってやるさ」
旅人達はそう応じた。
「ネルソンさんの言う通りです。敵はおそらくデュラハンと言って、一言で言えば怪物です。私達がどうにかしますから、皆さんは町の外へ出て――」
「馬鹿な、だったら尚更だ。アンタみたいなお嬢さんが残って戦うって言うんだ。俺らが逃げられるかい」
エレンの説得も旅人達には通じなかった。
女神の悲痛な心中をスコットは察したのだった。
二
夕刻、人々は町の広場に集った。
無数に焚かれた篝火がその顔を照らし出す。
旅人達の多くが復讐に燃えていたが、相変わらず野盗の仕業だと決めつけているようだった。もしも野盗なら、もうここには戻って来ないだろう。それがデュラハンでも果たして戻ってくるかどうかは分からない。
夕日が沈み、辺りが暗くなった。
旅人達の復讐心も半信半疑になり始めていた。つまりは、一度襲い尽くしたところを野盗が再び襲いに来るとは思えない。今更ながらそういう空気が漂い始めたのだ。
その時だった。
電子音が鳴り、エレンが神の機器を取り出す。
すると大きな矢印が明滅し、正面を指していた。
「来ます!」
エレンが声を上げた。
篝火を反射しながら黒く濃い霧が一同の目の前を覆った。
突然の異質な出来事に旅人達は勿論静まり返り、唖然としていた。
そして霧が解けた時、そこに現れたのはまさに剣を手にしたファンタジーの騎士達の姿であった。
騎士達が勢揃いし、月へ剣を掲げた。甲冑が鳴り響く。
「お前達はここで死ぬ」
左手に抱えられた青白い兜首が、ゾッとする声音でそう告げた。




