第二十四話 「百獣の王(二)」
キマイラがスコット目掛けて突進しようと身構えた時だった。
「ぐおおおおおっ!」
わきから声を上げてネルソンが駆け付けて来た。彼らしくない緩慢な動きは、痺れの呪いに抗っているのだろう。
ネルソンはぎこちない動作で跳躍し、それでもキマイラの背に飛び乗った。
そしてヤギの首に向かって剣を突き立てた。
ライオンとヤギの絶叫が木霊する。
呪いの歌が中断された。途端に痺れが無くなり身が軽くなった。
スコットはマグナムを拾い上げ、キマイラに狙いを定めたが、ネルソンを振り下ろそうと暴れるその身体には、上手く狙いが定められなかった。エレンもライフルを構えたまま成り行きを見守っている。下手をすればネルソンを撃ってしまうかもしれないと彼女も分かっていたようだ。
ネルソンはキマイラの背の上で剣を突き刺し、ヤギの首を力任せに切断していた。
ライオンの顔が再び絶叫し、ヤギの顔は断末魔の声を上げて、大量の血と共に地面に転がった。
これで呪いの歌は封じられた。
だが、ネルソンもまた地面に落ちて行った。痺れに抗い無理を続けた結果だろう。しかし、その無茶のおかげで掃討が格段に楽になったのは事実だった。
スコットはマグナムを連発させた。銃弾はライオンの顔に幾つもの穴を開けた。
キマイラは、倒れて地面を苦し気に這い進むネルソンに組みかかった。
大きな後ろ脚で立ち、太い前足でネルソンの身体を押さえ付けた。
「ネルソンさん!」
エレンが慌ててフルオートのライフルを連射する。スコットも懸命にマグナムを撃ち込み続けた。
キマイラは大口を開けてネルソンに噛みつこうとしたが、銃弾に頬を幾つも貫通させられ、気を削がれたようだった。
その巨体がこちらを向いた。
「そうだ、お前の相手は俺だ!」
スコットはマグナムを撃ち続けた。
ネルソンが脱出して行く。その身体に毒蛇の尾が襲い掛かって来たが、ネルソンは懸命に剣を振るって毒蛇を切断した。
キマイラの絶叫が響く。ネルソンは立とうとしていたがその身体は崩れ落ちた。
スコットの弾丸がライオンの右目に突き刺さった。
するとキマイラはこちらへ向かって突進してきた。
スコットは飛び退いてかわした。強い風が彼の身体を打ち付るようにして過ぎて行った。
エレンのアサルトライフルの弾丸がその後を追い続け、大きな獣に身体に幾つもの小さな穴を穿った。
キマイラがこちらを振り向いた。
そして突進してきた。その矛先はスコットでは無くエレンの方だった。
「エレン避けろ!」
スコットは声を上げたが、俊足のキマイラは、その時にはエレンにぶつかり空高く彼女を弾き飛ばした後だった。




