第十九話 「休息」
これは夢だとは分かっていた。
何故ならいつも見るのは戦場の夢、作戦中の夢ばかりで現実的だが、今回に限っては全く違う風景だったからだ。
とにかく静かで清らかで優しい夢だった。
見渡す限りの広大な草原。雲の仕業か、空は幻想的な色を帯びていた。そよ風が草を、そこに寝転ぶ彼の頬を柔らかに撫でていく。その度に空気が煌めくのが見えた。
このまま永遠に風に吹かれていたい。そんな気分だった。
だが、不意にそうじゃなくなるのを感じた。彼を呼ぶ声が微かに、徐々に大きくなってゆく。
「スコットさん、お願いです! 戻って来て! スコットさん!」
エレンの声だった。
神様はやけに必死な声音だった。そういえば、あの骸骨の化け物はどうなったのだろうか。
「スコットさん!」
エレンの呼ぶ声が聴こえ、スコットは立ち上がった。
「神様、俺ならここにいる」
二
スコットは目を覚ました。
まだまどろみを覚える眼がエレンの覗き込む顔を捉えた。
「スコットさん!」
彼女の驚く顔はすぐ目の前にあった。涙が頬を濡らしているのに気付いた。
「泣くなよ神様」
スコットは微笑み掛けて、ポケットからくしゃくしゃになった青いハンカチを取り出して両方の涙を拭ってやった。
「おお! 息を吹き返したぞ!」
見れば村人達が集って興味深い顔でこちらを見下ろしていた。
スコットはエレンに膝枕されていた。これはなかなかカッコ悪いよな。
彼は苦笑して身を起こした。関節がパキパキ音を立てていた。
「良かった、良かった」
そう言って村人達は去って行く。
どうやら情けない格好で寝ていたのをずっと見られていたようだ。
ふと、唇に何かが触れていたような感覚を覚えた。左胸の上にも何か重い物でも乗せられていたような感覚が肌にも骨にも残っている。それが何かを考える前にスコットは大事なことを思い出して尋ねた。
「骨と言えば、死者の王はどうなった?」
「大丈夫です、私が駆け付けた時には既に消滅していました。ネルソンさんが言うにはスコットさんが斃したそうですよ」
スコットは思い出した。相討ち覚悟で敵に挑んだことをだ。どうやら俺の、いや、俺達三人の勝利というわけだ。
エレンは立ち上がった。
「私は少し神界へ戻ります」
「忘れ物か?」
「そうですね。すぐに帰ってきます」
エレンは微笑んだ。その身体が消えた。
さすがは神様だ。スコットはその姿を見送る。空は晴れ渡り太陽が眩しかった。もっと違う光景を夢の中で見たような気がしたが思い出せなかった。
ふと、ジャリジャリと音が聴こえて振り返った。
ネルソンが剣を研いでいた。
「よお、ネルソン。アンタも無事だったか」
ネルソンはこちらを見た。
「……お前に助けられたようだな」
ネルソンがまさかこんなことを言うとは思わなかった。スコットは応じた。
「俺一人じゃ無理だったさ。アンタは最強の戦士だ」
「……世辞はいらん。それよりも休んでおけ。女神が言っていた。俺達にはまだやることがあるようだ」
「そうかい。ところでここから帰った時の言い訳はどうすりゃ良いと思う? まさか神様に呼ばれて違う世界で化け物と戦争してました。なんて上官には言えねぇだろう?」
「……俺もそれを考えているところだ」
ネルソンが言い、スコットは思わず笑ったのだった。彼はネルソンのことが好きになった。




