第十三話 「蘇った死者達」
家屋は殆どが焼け崩れ、死人も出てしまった。
村人達は悲観に暮れながらも、突如現れた異形の者達を斃した英雄達に感謝の意を現したのだった。
それぞれ無事だった食料を持ち寄り、朝食が振る舞われた。
濁ったスープの野菜と肉のごった煮は、スコットの口には合わなかったが、村人の気持ちを思い、彼は嫌な顔を見せずに食べきった。
「御三方のおかげで助かりました。感謝の言葉も見つかりません。このようなものでしか報いることが出来ず本当に申し訳ないことです」
初老の村長が言った。
「そんなことはありません。私達がもっと早く到着することが出来れば、犠牲者を出さずに済んだはずです。本当にごめんなさい」
エレンが顔を伏せて言った。
神としての率直な思いなのだろう。スコットはエレンを見てそう思った。
そして自責の念が湧いてくるのを感じた。
俺が、ぐずぐずせずもっと早く現実を受け入れていれば、何人かは救えたかもしれない。
傍らを見ると、ネルソンは無言で剣を研いでいた。
これから村の再建に取りかかろう、そんな空気が漂い始めた時だった。
悲鳴が上がった。
見れば遺体を安置しているところで村の男が立ち上がっていた。
その男は顔を半分失っていた。
両手を前方に持ち上げ、口から虚ろな声を漏らして、ゆっくりゆっくり歩み出して行く。
すると更に並んでいた他の亡骸もゆっくりと起き上がり、同じく物悲し気な声を出してヨロヨロと歩み始めた。
「おおっ! 神よ、これは一体どういうことなのですか!?」
焼けただれた村が騒然とする中、エレンが声を上げた。
「皆さん、離れて! 残念ですが、その方々は邪悪なる力によって蘇らせられたゾンビです!」
ゾンビだと?
スコットはマグナムを構えた。
映画じみて来たが、こいつは現実だ。
しかし、死んだとはいえ、村人の前で村の仲間を撃ち殺すことに躊躇いがあった。
すると比較的見栄えがまともだったゾンビに家族が駆け寄って行った。
「アンタ、生き返ったのね!」
「父ちゃん!」
だが、ゾンビは妻の身体をがしりと掴み、大口を開けてその肩口に喰らい付こうとした。
その時、アサルトライフルが火を噴いた。
ゾンビは銃弾を受けると、白い霞となって消えて行った。
ライフルを構えたままのエレンを誰もが振り返った。
銃口から煙が立ち上っているライフルは白い光りに包まれていた。
「残念ですが、私達にできることは神聖なる力で魂を浄化し、天へ導くことしかできません。スコットさん、ネルソンさん、こちらへ」
二人が来ると、エレンはマグナムと剣に手を振れた。途端に二つの武器は白く輝き出した。
「こいつは?」
「聖なる力です。不浄なる力を浄化する作用を持ってます。これでゾンビとなった人々を天へ導いてあげて下さい」
エレンの目は涙に染まっていた。
死人と村人に同情しているのだろうか。スコットには本当の涙の訳を察することはできなかったが、己がやるべきことだけは分かった。彼は声を上げた。
「みんな、ゾンビには近付くな! 残念だが、そいつらは死人なんだ。俺達ができることはそいつらを眠れぬ死者という運命から解放し、神様の元へ届けるだけだ。俺達がその役目を引き受ける!」
闊歩する死者に向かってスコットは銃を構えたのであった。