第十二話 「殲滅戦(四)」
スコットは本能の赴くまま飛び退いた。
地鳴りを上げて暴風が駆け抜けた。その巨体は家屋の残骸を粉砕し動きを止めた。
あれにぶつかったら一巻の終わりだろう。特急電車並みだ。全身の骨は砕け散り内臓は破裂していたはずだ。力と重さだけの緩慢だと思っていた敵に対してスコットは考えを改めなければならなかった。
「スコットさん!」
エレンが駆け付けて来た。
「ネルソンさんが、あちらにサイクロプスを引き付けて欲しいと言ってます」
エレンが指差す先には、焼け残った建物があり、その二階の屋根にネルソンの姿があった。
どうするつもりだ? スコットがその答えを出すのにさほど時間は掛からなかった。
「そういうことか。分かった、俺がやる。アンタは身を隠していろ」
「で、でも……」
「俺達の力を信じてここへ呼んだんだろう?」
スコットが諭すと、エレンは頷いた。
「……分かりました。私は隠れてます!」
そうして駆けて行くエレンは一度だけ振り返った。
「スコットさん、御武運を!」
エレンは焼け残った建物の残骸の何処かに身を隠して行った。
さて。スコットはサイクロプスとネルソンの位置を確認した。
下手に距離を保つとデカブツは先程のように突進してくるだろう。そうなれば背後のネルソンのいる建物まで粉砕してしまう。それでは作戦が成り立たない。
やるしかねぇか。スコットは空のマガジン全てに弾を装填した。
怪物が戻ってくる。
スコットは怪物目掛けて駆け出し、距離を縮めた。
怪物が突撃体勢に身構え、スコットは肝を冷やしたが、その体勢は解除された。
スコットは安堵の息を吐いた。奴を突進させては駄目なのだ。
巨人が地を鳴らし歩んでくる。スコットは適当なところで待ち受けた。
巨人の歩みは早かった。そして肉薄し、巨人が棍棒を振り上げたところで避けて銃弾を見舞った。
弾丸は首もとに突き刺さった。巨人がスコットを潰そうと躍起になって近付いてくる。
スコットは敵の踏み付けと棍棒の一撃を寸前の距離で避け、冷や汗を流しながら銃弾を浴びせ続けてゆっくり後退した。
よし、これで良い。奴は俺に夢中だ。もっとも自分が誘導されているなんてコイツの脳では考え付けないだろうが。
スコットはマガジンが空になれば新たな物をすぐに装填し、怪物へ撃ち続けた。
背後に建物とその屋根にいるネルソンの姿が確認できた。
もう少しだ。
そしてスコットの背が建物の壁についた。
「今だ、行け!」
スコットの頭上でネルソンが怪物の太い腕に飛び移った。
サイクロプスはネルソンを振り落とそうと腕を振り回したが、ネルソンは離れなかった。それどころか、驚くことに距離を縮めてその姿は巨人の肩の上にあった。
サイクロプスが棍棒を落とし、両手を伸ばしてネルソンを引き剥がそうとしたが、ネルソンは巧みに剣で反撃した。
切り落とされた巨人の指が幾本か落下した。
スコットの見ている前で、ネルソンは怪物の角の根元を掴み、その大きな一つ目に剣を突き立てたのだった。
巨人の絶叫が木霊する。
そしてネルソンは巨人の首元へ回り込み、スコットが傷を付けた銃弾の傷痕に向かって剣を突き刺し、掻っ捌いた。
血の雨が降り注いだ。スコットは慌てて退避した。
サイクロプスは唯一の眼を失い、首から大量の鮮血を滴らせ、ヨロヨロと動き始めた。逃げようと考えているようだが、既に血を流し過ぎている。そのスコットの考え通り、巨人は二、三歩動いた後、よろめいて倒れたのだった。
凄まじい地響きだった。ネルソンは既に跳び下り、サイクロプスの死体の側に着地していた。