パワーマン ~倒せグランドスラム男~
ここは岩場だ。風が吹き荒んでいる。
岩場の中央は、崖に囲まれた広場になっている。
もちろん、遊ぶための広場などではない。
では何をする場所なのか?
命がけの戦いを行う場所なのだ。
さらに、賭けるのは命だけではない。
世界の命運もかかっているのだ。
今、広場にはグランドスラム男が立っており、誰かを探すように周囲の崖を見回している。
グランドスラム男とは、まるで廃液のような泡を体中にもった凄まじき姿。そしてそのデコボコとした体表のほかにも、口には小さい牙があり、目はカメレオンのように見開いている。つまり、人間をはるかに超えた能力を持った男なのである。
彼がその目で探しているのは誰なのか?
諸君はお分かりか?
この男である。
「待たせたな!」
勇ましい声と共に崖の上に現れ、堂々たる様で立つこの男の名は……そう、パワーマンだ。
パワーマンは遥か下方に立つグランドスラム男を見下ろす。
体中に、世界平和の命運を賭けた戦いへ向かう力が漲ってくるのを感じる。
グランドスラム男がパワーマンを指差しながら叫んできた。
「出たな、パワーマン! 今日は負けんぞ!」
パワーマンも負けじと返す。
「ふん、何度やっても同じことだ!」
そしてパワーマンはジャンプして地上へ降り立った。
グランドスラム男とパワーマンが向かい合う。
グランドスラム男が再びパワーマンを指差してくる。
「パワーマン、前回のようにはいかんぞ! 今日こそ決着をつける!」
パワーマンも指を差し返す。
「グランドスラム男、この間はあと一歩という所で取り逃がしたが、今日こそはお前を打倒してやる!」
次の言葉は両者が同時に発した。
「ゆくぞ!」
である。
二人は同時に駆けだして、広場の中央で組み合った。
力勝負ではパワーマンが優勢だ。
パワーマンはグランドスラム男を持ち上げると、そのまま投げ飛ばした。
グランドスラム男は崖に衝突して転がった。
「おのれ。ならば、これでどうだ」
グランドスラム男は立ち上がると、体中の泡から無数の酸を発射した。
パワーマンは酸をよけていくが、何発かの酸は命中した。体に激痛が走る。
「くそ」
パワーマンはベルトのバックルのボタンを押した。
すると、本部の基地からガムマシンガンが転送され、その手に握られた。
「それは!」
グランドスラム男はガムマシンガンを見て狼狽した。
「狼狽えるのも無理はあるまい! この銃はお前の酸を無力化する!」
パワーマンは銃を発射した。
銃口から、連続してチューインガムが発射されて、グランドスラム男の泡に命中していく。
ガムによってグランドスラム男の泡は覆われ、酸を吐き出せなくなったのだ。
「おのれ、パワーマン! 汚い真似を!」
「そのガムは酸をかけられようとも溶けない成分で出来ているのだ!」
グランドスラム男はガムを引き剥がそうとしているが、ガムは絶対に剥がれることはない。
「酸が駄目なら、これでどうだ!」
グランドスラム男は、その見開いた目からレーザー光線を発射した。
パワーマンはレーザーを受け、背中から転がった。
「おのれ、グランドスラム男!」
パワーマンは再びベルトのバックルのボタンを押した。
本部から今度は銀色のマントが転送され、パワーマンの身体を覆った。
「そんな物で防ぎきれると思うな!」
グランドスラム男は再びレーザーを放った。
しかしこんな物でもレーザーを防ぐには充分だったのだ。
マントはミラーコーティングされており、グランドスラム男のレーザーは悉く撥ね返された。
さらには跳ね返ったレーザーがグランドスラム男に命中する始末だ。
「くそぅ!」
グランドスラム男はさすがにダメージを受け、倒れ込んだ。
「終わりだ!」
パワーマンは、グランドスラム男を指さすと、大げさなポーズを取って、空高くジャンプした。
さらに空中でも大げさなポーズの違うパターンを決める。
「パワーマン、ハイグラビティングヘッドクラーッシュ!!!!!」
もちろんパワーマンの必殺技の名前である。
パワーマンは、地上数十Mの高さから猛烈なスピードでグランドスラム男に向かって頭から突っ込んでいく。
まるで生きる弾丸だ。
グランドスラム男は何とか立ち上がろうとするが、体がいう事を聞かない様子だ。
「お、俺は負けるわけにはいかんのだ……」
グランドスラム男の口から言葉が漏れた。
パワーマンは空中を弾丸の如く飛びながら叫ぶ。
「行くぞぉ!!」
グランドスラム男はなおも立ち上がろうとしている。しかし、とても立てそうにはない。
「お、俺が負ければ……」
「死ねー! グランドスラム男ぉ!」
「ここで……死んだら……」
「俺の勝ちだぁ!!」
「この手で世界……」
パワーマンがグランドスラム男に直撃した。
大爆発が起きた。
暫くすると、煙の中に立っているのはパワーマンだけであった。
彼の足もとにはグランドスラム男の腕が転がっている。
「やった……。ついに……我々が勝利したんだ……」
息も切れ切れながら、パワーマンが勝利の喜びを噛み締めるように呟いた。
その時、どこからかパワーマンの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
パワーマンがその声に振り向くと、長い間一緒に戦ってきた仲間達が遠くから駆けてくるのが見えた。
パワーマンは勝利を示すかのように、腕を高く掲げて応える。
駆け寄ってきた仲間達はパワーマンを囲むと、そのまま胴上げを始めた。
「やったぞ! ついにグランドスラム男を倒したんだ! さすがパワーマン! わっしょい! わっしょい!」
しばらく胴上げは続き、それが終わるとパワーマンは地面に降りた。
そして、仲間達と握手を交わす為、手を伸ばす。
「ついに我々が勝利したんだ! みんな、これまでの協力を感謝する!」
仲間達は握手に応じた。全身を黒いタイツで包んだその手でパワーマンと握手する。
パワーマンは、目の前の仲間達が黒の目出し帽から覗かせている満面の笑みを一つ一つ見渡していく。
その黒の目出し帽はどれも髑髏の模様をあしらっており、いつ見ても恐怖と絶望を的確に表現しているな、と感じられた。
パワーマンと握手を交わしていく仲間達の上げる喜びの声は、いつしか「やったー」というものから「イー! イー!」という意味不明なものに切り替わっている。
こちらの方が彼等は普段から言い慣れているのだろう。
パワーマンは握手を終えると、足元に落ちているグランドスラム男の腕を軽く蹴り、鼻で笑った。
「グランドスラム男は、このパワーマンの前についに敗れ去った。これで我らの邪魔をする者はいない! このパワーマンが、世界の帝王となるぞ!」
パワーマンはそう言うと再び大仰なポーズを決め、そして世にも嫌な笑い声を「ウワッハッハッハ!」と上げた。
終




