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ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第一章 カロン王国編
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004 魔法訓練

 お昼からは魔法訓練とのことである。

 魔法と聞いてワクワクが止まらない。

 火を出したり空を飛んだりできるんだろうか。

 どこかで見たアニメの光景が目に浮かぶ。


 ここは食堂の隣にある部屋だった。小中学校の教室程度の広さだろうか。

 テーブルが二つと、それぞれに四つずつ椅子が置かれている。

 その椅子のひとつに腰掛け、足をぶらぶらさせながらあれこれ魔法について妄想しているのであった。


「おまたせ」


 そこにミリアーナが入ってきた。


「あれ、魔法の先生もミリアーナ先生がやるんですか」


 読み書きの勉強を進めるうちに、ミリアーナの呼び方が先生に変わってしまっていたのだが、特に気にする様子はなかったのでそのままにしている。


「ええ、そうよ。あなたには昼食は必要ありませんからね」


 どうやら昼食のためにちょっと離れていただけのようだ。

 食堂はどうにも評判が悪いらしい。いや、ただのキッチンだったか。

 研究員と聞くだけでなんだか自炊ができなさそうな印象ではあるし。

 というのはまったくもって偏見ではあるのだが。


「なるほど」


 そういえばまったく空腹感を感じない。

 時計もないので時間の経過もさっぱりわからないし、もうそんな時間になっていたようだ。

 そういえば魔法訓練はそもそもお昼からだったっけ。


 ん? そもそもこの世界の時間ってどうなってるんだろう。

 地球の自転は二十四時間だったが、果たしてこの世界の一日とは何時間になるのか。

 そもそも時計という時間を計る道具があるかも怪しいな。

 まぁそのうち午前中の授業中にでも先生に聞いてみるか。


「さてと、さっそく始めましょうか」


「はい。よろしくお願いします」


 ミリアーナが俺の向かい側に座り、さっそく講義が始まった。


「あなたの場合、魔法というのはまだ見たことがないはずなので、まずは見てもらいましょうか」


 そう言うとミリアーナは目を閉じて静かに集中を始める。


「万物の根源たるマナよ。我が手に集いし力となれ。『トーチ』」


 右手の人差し指を掲げたかと思うと、指先五センチほどのところに火が灯る。


「おおぉ」


 思わず声が漏れた。


「これはともし火の魔法ね。主に周囲を照らす魔法ではあるけれど、火属性の魔法なので触ると熱いわよ」


「火属性ですか」


「そうね。魔法には属性があって、基本となる属性に四大元素の地、水、火、風の四種類あるわ」


 指先の火を消して、親指以外の四本の指を立てる。


「さらに他に拡張属性と言われるものがいくつかあるけど、それは今は置いておきましょうか」


 光、闇や雷とかがあるのかな?

 昔やったゲームなどにはそんな属性があったはずだ。

 しかし拡張って、後から取って付けたみたいな気がするぞ。

 だがまぁ、何においても基本からというのは当たり前である。今はこの四つの属性だけでいいだろう。


「魔法と言うのは、体内に宿す魔力を自身がイメージする現象へと変換と言えばいいのかしらね」


 起こしたい現象に必要な魔力を発動させたい箇所に集めて発動させるのだとミリアーナは言う。

 詠唱そのものが魔力を集める助けとなり、最後に真名を唱えることで発動する。

 そして人によって得意な属性というものがあるらしい。とは言っても誤差程度とのことだそうだが。


 このイメージというのが相当大事らしく、身近にある四大元素魔法でもどれか一種類が使えるという人でも全体の三割だという。

 さらに各種魔法にはレベルが設定されており、それぞれ消費魔力や扱いやすさというものがあるようで、数少ない魔法を使える人の平均としても初級であるレベル一止まりだそうだ。

 レベル一で生活の助けになるという程度、レベル二になってようやく戦闘で使えるかどうかというところとのこと。


「なかなか難しそうですね……」


「そこまで悲観しなくても大丈夫よ。ホムンクルスは魔法適正が高いはずだからね」


 ふむ。自ら造りだした生物だけあってそういうところは弄れるのだろうか。

 さらにイメージが大事ときたか。どこぞのウェブ小説で見た話のように、現代日本の知識を生かして無双とかしできたりするんだろうか。


「まずは魔力の感知をしてみましょうか。

 さっき私が言った詠唱をしてみましょうか。

 体内にある魔力を手のひらに集めるイメージで唱えてみると魔力の動きというのがわかるはずよ」


「わかりました」


 右手のひらを見つめられるように胸の前に持って行き、何かよくわからないが魔力とやらが手のひらに集まってくるイメージを思い浮かべる。


「えーと、万物の根源たるマナよ。我が手に集いし力となれ」


 若干恥ずかしさを覚えながらも唱えてみる。

 過去の黒歴史が浮かび上がってくるが、きっと誰もが通る道だと思い込み気にしないことにする。


「どう?」


「……うーん、特に変わったところはないような」


「あら。私の場合だと手のひらがあったかくなる感覚がするんだけど。

 まぁ適正が高いからと言って一朝一夕で身に付くものでもないし、がんばるしかないわね」


「はい。がんばります」


 うーむ。一発成功とか無双はできないのだろうか。

 手のひらからミリアーナへ視線を向けると、特に残念そうには見えないのでやはりそういうものなのだろう。

 これは根気よくやるしかないか。


 何度か唱えてみるもやはり変化はない。

 コツというものはないのだろうか。

 せっかく先生がいるのだから聞いてみない手はないだろう。


「先生。その、魔力感知のコツとかいうのはありませんか?」


「コツ? うーん。私の場合だと、魔力が集まってくると暖かいと感じるのかしら。

 全身を巡ってる魔力が体温を伴って集まってくるイメージなのかしらね」


「ふむふむ」


 魔力というものは全身を循環しているものなんだろうか。血液みたいなものかな?

 というかそもそも魔力ってなんなんだろう。


「そういえば、そもそも魔力って何なんでしょうか?」


「……ふーむ。そうねぇ。魔法を行使するための燃料みたいなもの、とでも言えばいいのかな。一種のエネルギーではあるわね。

 魔物の中には食事を必要とせず、魔力を周囲から直接取り込むことで生きるものもいるらしいし」


「へぇー。周囲から……ってことは、魔力はそこら辺にも漂ってるものなんですか」


「そうね。全身を巡ってはいるけど、体の中だけで完結しているものではないわ。

 私たちも魔力は少量ながら周囲から取り込んで全身を巡って、周囲へ発散もしているのよ」


 魔力が尽きたところで昏倒したりとかはないが、多少なりとも体調に支障を来たすとのことだ。

 自然と魔力を使って代謝も行っているのだろうか。

 また二、三日ほどすれば尽きた魔力も全回復するのは、やはり周囲から自然と魔力を取り込んで循環させているからとのこと。


「ただし、周囲に漂う魔力については直接扱えないので、魔法を使うときは自身の魔力を使うようにイメージをすることね」


 なるほど。あくまで自分の魔力を使うイメージか。周りの魔力が使えないのは何故なんだろう。

 種族的な特性とか、または二、三日しないと全快にならないということから、漂う魔力量そのものが微量すぎて効果が薄すぎるとかか。

 なんにしろ、全身の血液を集めるイメージで行くか。


「わかりました」


 今度は全身の血液が手のひらに集まるイメージを浮かべながら詠唱を行う。


「万物の根源たるマナよ。我が手に集いし力となれ」


 うーん?

 ……お? おぉ、なんだか手がじんわりとしてきたような気がするぞ。

 たぶん気のせいじゃないはず。

 今は手のひらにしか変化は感じられないが、全身を巡る魔力も感知できるようになれば詠唱なしで魔力操作ができるようになるのだろうか。

 あくまで助けとなるだけらしいし。


「なんだか手がじんわりと暖かくなってきた気がしてきました」


「じゃあ、トーチの魔法を発動してみましょうか。イメージが大事だからね」


 よし。何をイメージしようか。明かりの魔法とは言え火属性らしいから、蛍光灯なんかイメージしちゃまずいよな。

 蝋燭かマッチくらいの炎をイメージしてみるか。

 最初だから想像未満の出力になる可能性はあるが、まぁ失敗したら失敗したで次は松明くらいをイメージしてもう一度やればいい。


 あらためて蝋燭を頭に浮かべ、真名を口にする。


「『トーチ』」


 言葉とともに、音もなく手のひらの上に小さな炎が灯る。

 本当に小さな炎だ。想像していた蝋燭よりも小さい。いやむしろ消えそうな蝋燭といった感じである。


 ――と考えている間に炎は消えてしまった。


「おぉー、やったわね。

 一日目で成功するなんてさすがね」


 若干驚きで目が見開かれている。

 適正が高い以上の結果ということだろうか。


「最低でも一週間はかかるかと思ったけど……、想像以上ね」


「一週間ですか」


「ええ、そうね。一般人なら才能のある人で半年といったところかしら」


 ホムンクルスの魔法適正半端ねぇ。チートじみてるな。

 にしても一週間とか半年とかって言葉が出たけど、地球と同じ暦で考えていいのかな。


「あの、ところで一週間って何日なんでしょうか?」


「えっ? あ、あぁ」


 唐突な質問に驚きはしたものの途中で納得したのか表情が戻る。


 話によると、一週間は六日あり、光の日、地の日、水の日、火の日、風の日、闇の日というサイクルで、一ヶ月は三十日、一年は十二ヶ月とのことだった。


「そういえばあなた、常識がないんだったわね」


 なんだか誤解を招きそうな言い方だな。

 常識を知らないのは確かだけど。


「常識の範囲があなたに判断できるかどうかはわからないけれど、常識で疑問に思ったことを質問するのは私だけにしてもらえるかな」


「……わかりました」


 若干不機嫌さを出して返答する。


「さぁ、次の魔法にいきましょうか」


 満面の笑顔で告げる。

 不機嫌さは伝わっていないのか、無視しているのか。


「次は水属性いってみましょうか。レベル一の魔法については詠唱は共通だから同じものでいいわ」


 そう言ってポケットからなにやら取り出すとテーブルの上に置いた。

 どうも木でできたコップのようだ。

 水属性というからには水でも出すのだろうか。

 どこからともなく水を出せるのであれば便利ではあるな。


 しかし詠唱が共通とか、なんか適当すぎやしませんかね。

 ゲームやらアニメだと色々あったような気がするが、実際はこんなもんか。


「火はもういいんですか?」


「一度成功すればあとはほぼ慣れの問題なのよ。だから次、次」


 なんだか急かされているようである。


「よく見ていなさい」


 右手の人差し指をコップの上にかざして詠唱を開始するミリアーナ。


「万物の根源たるマナよ。我が手に集いし力となれ。『ウォーター』」


 真名とともに、指先の少し離れた虚空からチョロチョロと水が流れ出した。


「おー」


 さっきよりは少な目の感動が口から漏れる。

 二回目ともなると驚きは減少するものだが、やはり不思議なものは不思議なのだった。

 しかしトーチといい、ウォーターといい、真名ってのは英語なのか……?

 しゃべっている言葉は英語でもなんでもないんだが、まぁわかりやすいのはこちらとしてもありがたいのだが。


 チョロチョロ流れる水をひたすら集中して眺める。


「同じ詠唱で魔力を集めるところはできてるから、あとは適正があるかどうかだけね」


「なるほど……。やってみます」


 今度は右手のひら下にしてコップの上へ持ってくる。

 また全身の血液が手に集まってくるイメージを広げる。


「万物の根源たるマナよ。我が手に集いし力となれ」


 そして次は水道の蛇口を少し捻ったくらいのチョロチョロとしたイメージを思い浮かべ、真名を唱える。


「『ウォーター』」


「……あれ?」


 何も起こらないと思ったのか、ミリアーナは小首をかしげる。


「あ、いや、なんとなく手のひらが湿ってるので水は出てると思います」


 手のひらをひっくり返してみると、手のひら全体が濡れていた。

 汗……、と言うにはちょっと無理がありそうな濡れ具合だ。


「ほー、これは成功と見て問題なさそうね」




 こんな調子で続けて風属性、地属性と問題なく成功させる俺。

 風は『ウィンド』。

 あまりにも微風すぎてミリアーナが手に灯した炎のゆらめきで確認した。

 地は『サンド』。

 ミリアーナは土魔法は使えなかったようだが、どのような魔法かを教えてもらい、試行錯誤の上でさきほどのコップに手をかざして砂をぱらっと生み出すことに成功した。

 やはり目の前で実演されない魔法はなかなか難しいようだ。


「すごいじゃない、アフィシア!

 四大元素すべて使えるって、かなり優秀よ。ホムンクルスの適正補正を考えてもこれは想像以上ね……」


「そうなんですか……」


 成功したとは言え、すべて効果が微妙だったのでなんとなく素直に喜べないところがある。


「効果が微妙だったからって落ち込む必要なんてないんだから。

 最初にも言ったとおり、一般人の才能ある人でも半年よ、半年!」


 かなり興奮している様子のミリアーナ。

 立ち上がり右拳を握り締めて力説している。


「はい。……確かにそうですね。めげずにがんばります」


「うんうん。がんばりなさいよー。この調子で魔術師団をギャフンと言わせるのよ!」


「魔術師団……ですか?」


 しかもギャフンて。因縁浅からぬと言ったところなのか。


「ええそうよ。この国の軍隊には、騎士団と魔術師団の二つの部隊があるの。

 騎士団は剣と盾で戦う部隊で、魔術師団は魔法使いの部隊ね」


 なんだかえらい部隊が出てきたな。


「軍隊って、なんだか強そうですね……」


「まぁ、仮にも軍だからね。最低限レベル三の魔法が使えないと入団試験すら受けられないから」


 瞳から炎が立ち上ってくるように見えるのは気のせいか。

 突っ込んで聞かないことにしよう。

 軍と聞くと厳しいイメージしかないので今後できるだけ関わらないようにすべきか。

 自分の就職先がどこになるかはわからないが、なんとなく遠慮しておきたい。

 ミリアーナと仲悪そうだし。


「さて、なんにしろ一通り終わったわね。キリもいいし、今日はここまでにしましょう」


「はい。ありがとうございました」


「ところで、何か疑問に思ったことはある?

 魔法についてでもいいし、常識のことでもいいし」


 ふーむ。そうだなあ。

 やっぱり気になるのは、拡張属性というやつだろうか。

 あとは時間の区切りかな。六日で一週間というのはわかったけど、一日という時間はさらに分割されてたりするんだろうか。

 少なくともお腹が減らないので腹時計がまったく役に立たない。「腹減ったな。そういえばもうお昼か」という感覚が使えないのである。

 時計みたいなものがあればいいんだが、それらしい道具は見かけていない。


「えーっと、ひとつずついいでしょうか」


「ふむ」


「拡張属性というのが気になっていて、具体的にどういう属性があるんでしょうか」


「そうね。四大元素というのはありふれた自然現象を指しているのだけれど、拡張属性というのはそれ以外の自然現象を指す、と言われているわね」


 大地や水、風といったものはどこにいても常に存在するものである。また、火山などには火というものが存在し、我々も日常において火を扱うことがよくある。

 一方それ以外というと、単に珍しい自然現象とでも言うのだろうか。このあたりはまだ明確にはなっていないそうな。

 そこはここと同列にある魔法開発研究室で研究中とのことだ。


 今のところ拡張属性として一般的に定められているのは、光、闇、雷、治癒、不死、聖、無とのこと。

 ゲームでよくありそうな属性ではある。治癒も属性のひとつとされているのか。

 魔法での回復手段があるというのはすばらしい。


 そしてもうひとつの疑問としての一日を分割して数える単位であるが、一日を十二刻に分けて、太陽が出て明るい間と、太陽の出ていない暗い間をそれぞれ六刻ずつということだ。

 昔の日本と同じなのかな? まあ一日二十四時間かどうかはわからないけど、同じと思っておこう。

 少なくとも二十四時間という考え方はないようなので、「今何時?」とか口に出さないように気をつけよう。


 そんなやりとりを経て、初日の魔法訓練は終わるのだった。

時間の考え方を修正。

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