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ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第三章 キングバルズ王国編

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030 メイド捕獲

『姉を返して欲しくば夕方までに外周街北西の指定の場所まで来い』


 何度読み返しても書いてある内容は変わらない。指定の場所というのが、ちょっとした地図入りで手紙には記されているが、それ以外には特に変わったところのない、普通の脅迫文章だ。

 うん、ちょっと落ち着こうか俺。


 姉っていうのは、まず間違いなくティアのことだろう。普段ティアと呼んでいるが、たまに姉と呼ぶこともあるし……。

 ティアと別行動を取ってからまだ数時間ほどしか経っていない。しかも別行動すると知ってるのは……あの伯爵様だけじゃないのか?

 いやいや、普段からずっと二人一緒だから、俺たちを監視していて別行動した瞬間を狙ったのかもしれない。まあ常時監視されてるような気配はなかったが。

 しかしだ。ああ見えてもティアはそこそこ強い。冒険者ギルドランクはDではあるが、実力は最低でもランクCはあるはずだ。それに俺たちを狙うのであれば、見た目子どもの俺の方が誘拐しやすいと思うのだが。

 ……実際は前衛の俺より後衛のティアの方が狙い目ではあるけれど。


 しかし目的がわからないな。王都に来たのも最近だし、誰かに恨みを買った覚えもないし。さて、どうしたもんか。


 あ、そうだ。


「ねえねえ、女将さん。この手紙をくれた人って、どんな人だったか覚えてる?」


 とりあえず目の前に情報を持ってそうな人がいるのだ。聞かない訳にはいかない。


「ん? そうだねえ……。灰色のローブにすっぽりフード被っててたから、ちょっとわからないねぇ。でも声は男の人だったよ。

 その手紙がどうかしたのかい?」


「あ、ティアが攫われたらしいんですけど、手がかりになるかなーって思って」


「ええっ!?」


「あ、よくあることなので気にしないでください」


 なんでもない風を装ってこれ以上突っ込まれないように牽制する。


「そ、そうなのかい……?」


 女将さんも一応引き下がってはくれたようだ。

 しかし人相はわからずか。残念だ。

 しかしだ、本当に誘拐されたとすれば、相手はかなりの手練れということだ。これは心してかからないと……。


 ん?


 本当に誘拐されたのかな? 手紙には書いてあるけど、別に証拠はないよね。宿で待ってたらひょっこり帰ってくる可能性もありってことだよね?

 いやでもあくまで可能性の話だよな。万が一ってこともあるし、とりあえず指定の場所には行くとするか……。時間的にあんまり悩んでる暇も無さそうだし。

 先にティアが帰って来てもいいように部屋に書き置きでもしておくか。


「女将さん、このペン借りるね」


「あいよー」


 台帳と一緒に置いてあるペンを手に取ると、手紙の封筒を広げて一枚の紙にしてペンを走らせていく。


「これでよし」


 部屋へ書置きを置いたらさっそく出発だ。夕方まではまだ時間はあるが、ちょっと急ごうか。早めに現場に行って周囲の状況を確認しておいたほうがいいだろう。

 そうと決まれば早速行動だ。この宿は外壁の北エリアなので、まずは北門へ向かって走る。途中の道具屋で、念のためにロープと投擲できそうな太目の針を二十本ほど購入して、ロープは腰へ提げ、針は懐に忍ばせておく。

 門番にギルドカードを見せて外に出ると、今度は壁沿いに向かって西へ走る。人が見当たらなくなったところでスピードアップだ。


 ――と、十分ほど走ると木製の柵が見えてきた。


 あれが外周街のようだ。近づくにつれて中の様子が見て取れるようになる。

 外周街は壁の外であるが、街の周辺はそれほど厄介な魔物がうろつくわけでもないので比較的安全ではある。なので、街に入りきらない住人があふれているのであろうが……、そこはスラム街のようだった。

 まず、外周街を囲う柵は、柱しか残っていなかった。ただ単に等間隔で並ぶ柱である。本来であれば柱と柱を繋ぐようにして木材が張られていたのだろうが、これでは柵の意味をなしていない。

 そして比較的新しい建物も散見されるが、ほとんどが壁や扉が壊れている。さすがに壊れた隙間から出入りできるような建物は少ないが、何かしら異常のある建物が多い。

 外から見回した限りでは今のところ人影はない。ただし、建物や物陰からは多少ではあるが人の気配がするのだが。


 手紙に記されてある場所は、どうやらこのスラム街の中心地あたりのようだ。

 柵の柱の間をすり抜けて外周街へと入っていく。北西エリアの中心地というと、結構な距離があるな。俺が見た目どおりの女の子だとしたら、たどり着けない可能性大だろうがどういうことだろう。スラム街の住人に絡まれそうだ。それともたどり着くこと前提にしてるのかな?

 まあもう少ししたらわかるかな。


 中心部へ向かって歩いていると、物陰からこちらを覗く者や壁際で寝転がる者などがちらほらと目に入ってくる。


「おやおや、お嬢ちゃん一人でこんなところうろうろしてたら危ないよ?」


 建物にもたれかかって座っていた髪の毛ボサボサのおっさんが、俺が近づいたことで立ち上がって声を掛けてきた。グレーのズボンに煤けたシャツといった見た目だが、長い間着替えなどもしていないのだろう。いたるところが擦り切れている。


「あ、大丈夫です。ご心配なく」


 右手のひらを前に突き出して拒絶を示す。あんまり効果があるとは思えないが。


「まあまあそう言わず。どこか行きたい所あるなら案内するよ?」


 もみ手をしながら近づいてくるおっさん。


「あ、そういえば」


「ん?」


 俺の一言で歩みを止める。


「色白で髪の色も真っ白なお姉さんを見かけませんでしたか?」


 とりえずティアについて聞いてみよう。見た目はそれなりに目立つので、もしかしたら知っているかもしれない。


「ん~? 白いお姉さん?」


「はい」


 問いかけたところでおっさんが腕を組んでうーん、うーんと唸りだす。


「うーん、見たような……、見てないような。

 もうちょっとで思い出せそうな気がするんだけどなあ」


 腕を組みながらチラチラとこちらを窺うおっさん。

 うん。このおっさんは白だな。誘拐事件とは関係なさそうだ。最初から関係あるとは思っていないが、だがティアを見かけたというんならそれは知りたい情報でもある。

 しょうがないので腰のポーチから銅貨を一枚出しておっさんに渡す。


「おお、コレコレ。ちょうど思い出したよ。

 ……白いお姉さんなんて見てないね」


 はいそうですか。銅貨で見てなかったことを思い出すとかどんだけ都合のいい記憶力だよ。


「ありがとうございました。ついでに中心地ってここまっすぐ行けば大丈夫です?」


 ついでなのでもう一問、答えてくれないかなと期待して問いかけてみる。


「ああ、ここまっすぐで大丈夫だ。ありがとね」


 銅貨一枚でご機嫌なおっさんが答えてくれた。


「いえ、こちらこそ。――では」


 もう用はないとばかりにおっさんの横を通り抜けて歩き出す。……が、なぜかおっさんが後ろからついてくる。しばらく歩くが離れる気配がない。


「なんでついてくるんですか?」


 振り返って不機嫌さを隠さずに尋ねるも、おっさんはどこ吹く風だ。


「道案内するって言っただろ? 代金ももらったしな」


 あれで道案内料も込みなんだ……。こういうところだともっと吹っかけられるかもとか思ってたけど。


「それに、お嬢ちゃんひとりでこんなところ歩いてたら、めんどくさいヤツにいっぱい絡まれるぞ」


「もう絡まれてますけどね」


 ジト目でおっさんを睨む。


「はっはっは! まあ硬いこたぁ言わずに」


 くっそ、おっさんは関係ないと思ったけどちょっと怪しくなったじゃねーか。要注意だな……。

 しばらくおっさんに注意しながら歩くも、確かに絡まれることはなくなった。こっちを伺う人たちの数は減らないが、声をかけてくる人はいない。

 進むにつれて建物の損傷具合がマシになっていく。もしかしたら外周が酷かったのは魔物のせいかもしれない。


「ほれ、あそこの高い建物の前にある広場がここの中心だぜ」


 広場まであと百メートルほどのところでおっさんから声がかかる。おっさんの様子を見ても特に変わった様子はない。まあ、警戒は緩めないが。むしろここからが本番だ。


「へー、ここですか」


 集中して気配を読む範囲を前方に広げながら進む。残り五十メートルを切ったあたりで、人の気配がちらほらと感じられるようになった。

 一応隠れてるんだろうけど、バレバレである。あ、隠れてない人もいるね。


 こちらをニヤニヤと眺めながら広場の中央に佇む人影がひとつ。

 どうやら犬獣人のようだ。茶色い髪の間から伸びた耳がこちらを向いている。二十代くらいだろうか、若干痩せた体つきだからか雰囲気で十代でも通りそうだ。

 にしてもいかにも俺を待ってましたっていう顔してるな。わかりやすくていいけど。


「メイドがこんなところに何の用だ?」


 広場の中央の痩せ男から質問が飛んでくる。


「お姉ちゃんを探しに来たの。色白の白い髪のお姉ちゃん見なかった?」


「白い姉ちゃん?」


 しばらく考え込んでいたかと思うと、先ほどのニヤついた顔よりもさらに顔を歪める。


「オレと一緒に来たら会わせてやるぜ」


 うーん。……怪しいな。ティアは誘拐なんてされていなくて、あの手紙は俺をおびき出すためだけの物っていうのが、俺の予想ではあるのだが。

 少なくとも目の前にいる人物や後ろにいる勝手についてきたおっさんには、ティアをどうこうできる実力があるとは思えない。そして周囲にもそれらしい気配は感じられない。


「……知ってるの?」


「ああ、知ってるとも」


 自信満々に答える痩せ男。


「じゃあ、案内して」


「――じゃあ、ついて来い」


 そう言って痩せ男が後ろを向いて背の高い建物へ歩き出したときだった。


 俺を案内すると行ってついて来たおっさんが後ろから襲い掛かってくると同時に、周囲の建物の影に隠れていた人間が飛び出してきた。

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