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ホムンクルスの育て方  作者: m-kawa
第三章 キングバルズ王国編

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028 メイドへの招待状

 今日も冒険者ギルドで仕事探しである。

 キングバルズ王国の王都ロイズグリードに来てから今日で四日目だ。

 俺たち二人のパーティランクもDとなり、討伐依頼も受けられるようになってはいたが、この王都に着いてからはまだ採集依頼しかこなしていない。

 近場には討伐依頼の出るような魔物はいないからだ。さすがに王都だけあって、周辺の魔物はきっちりと駆除されているようである。

 初めて王都に来てすぐに遠出が必要な依頼をこなす気にはならなかっただけであるが。


 依頼で外に出たついでに魔法の訓練も行っている。

 最近重点的に訓練しているのは浮遊(レビテーション)の魔法だ。以前台車を引いていたときにかろうじて成功した魔法であるが、今では拳大の石程度であれば持ち上げられるようになっている。

 将来的には自分を浮遊させて空を飛べないかと画策しているのだ。

 あえて属性に当てはめるとすれば、重力に相当するのだろうか。少なくとも風圧で持ち上げているわけではない。


 そんなわけで今日も採集依頼を探している。俺の着ている服も一周巡ってまたメイド服になっている。

 若干俺に視線が集まっている気がしないでもないがそこはスルーだ。

 一緒になってティアも依頼を探している。


「あ、これなんてどうかな?」


 ティアが見つけた依頼を覗き込む。


「どれどれ」


 見るとセイレン草の採集依頼だった。

 実物はお目にかかったことはないが、以前本で見た覚えがある。特徴は確か、僅かに青い光を放っているんだっけか。少し魔力を帯びた草らしく、邪気を払う効果があって教会で使われる聖水の材料になるとかならないとか。


「おおー、珍しいね。わたしは実物を見たことはないけど……」


「そうなの? じゃあやめとく?」


 見たことないものは探しようがないのだが、特徴はよく覚えている。


「大丈夫だよ。本で見たことあるから」


「そうなんだ」


「うん。じゃあこれにしよう!」


 そう言うとティアは依頼票を剥がしてカウンターへ持っていく。

 受付にいたのは薄い緑の髪を腰まで伸ばした耳の長い女性だった。エルフの特徴が出ており、長い耳をはじめ、小柄な体格と整った顔立ちからは温和な雰囲気が見て取れる。


「これお願いします」


「はい、かしこまりました。ではギルドカードのご提示をお願いします」


 冒険者ギルドという荒くれ者が集まる場所には不似合いな丁寧な言葉遣いで対応する受付。さすがエルフだ。

 ポケットからギルドカードを出してカウンターに提示する。


「ありがとうございます。ランクも問題ないようですね。御武運をお祈りしております」


「あ、ところで、このセイレン草ってどこで採集できるかご存知ないですか?」


 本で見たことあるといっても生息地がわからなければ探しようがない。湖のほとりに生えているとは確か載っていたとは思うが、王都周辺に湖があるかどうかも俺は知らなかった。


「セイレン草でしたら、東の森の中にある湖に群生地があると聞き及んでおりますよ」


「へー、そうなんだ。ありがとう」


「徒歩でも一日かかるらしいので、野営の準備はしておいてくださいね」


 ほほぅ。日帰りは無理ということか。まあ王都周辺に森は確かに見当たらなかったし、そこそこ距離があるのだろう。


「わかりました。じゃあ行ってきますね!」


 ティアが元気良く受付嬢に返事をしている。

 今までの依頼は日帰りで大丈夫だったが、今回の予定は二日である。王都周辺の平原については大した魔物も出るわけではないし問題はないだろう。

 にしても、以前に周辺地域の情報を聞いたときに東に森があるのは教えてもらっていたが、そこに湖があったのか。あの森だったら出てくる魔物も大したことがないので安心である。

 まぁそもそもこのセイレン草採集依頼のランクもEだからして、特に危険はないのだろうが。


 東門から出ることになるので、街の乗合馬車を利用することにする。乗り場は冒険者ギルドのすぐ傍にある、右回りルートのところへ並ぶ。

 街中を移動するための馬車であるため、その本数は多い。と言っても日本の片田舎の鉄道レベルではあるが。おおよそ三十分に一本程度だろうか。

 今日は運がよかったようで、ちょうど目の前に目当ての馬車がきた。街中を走る馬車は、街の外のそれと違いいくらか割安だ。一人銅貨三枚を払ってティアと共に馬車に乗り込んだ。


 一時間半ほどかけて東門へとたどり着く。

 ちょうど隣には東門から外へ出て行く乗合馬車乗り場もあるようだが、今回は徒歩なので用はない。

 乗り場の横をすり抜けて東門へと向かう。目指すは東にある森だ。門番にカードを見せて外に出る。


 東側の門の外は北側と同じく広く草原が広がっていた。ここからでは森の影も形も見ることはできない。とりあえず進めば見えてくるかな?


「しゅっぱーつ!」


「おー!」


 元気良く歩き出す。

 右回りルートの馬車を降りてそのまま東門から出て行く人は他にはいないようだ。そのまま二人だけで門から出て行く。

 三十分ほど歩いて遠目にも人が見えなくなったことを確認すれば、魔法の訓練を開始する。


 足元の拳大ほどの大きさの石を拾ってそこに魔力を集中させていく。

 すると、手のひらから石がふわりと浮き上がる。そのまま手を下ろして何もないようにしてまた歩き出した。

 浮き上がらせられる重さを増やすのもありだが、意識しないでも自由自在に動かせるようにもなっておいたほうがいい気がするのだ。

 小さいものでも自由に動かせれば何かに使えるかもしれないし。


「なかなか自由に動かせるようになってきたわね」


 ティアが感心したように浮いている石を見ている。

 よし、そろそろ二個目いってみようか。

 もうひとつ親指大の石を拾うとそちらにも魔力を込める。


 ガンッ


 どうやら先に浮いていた石が落ちたようだ。

 ……これ難しい。


「あらー。さすがに二個は難しいんじゃない?」


「うー」


 そんな感じで魔法の練習をしながら歩き続けるのだった。

 が、もちろんそんなことをしていると歩く速度が鈍るわけで。


 一日目で湖へ到着することなく森の中で野営をするハメになるのだった。




「やっと着いたー!」


 湖に着いたのは翌朝の昼前である。今のところ魔物には襲われてはいない。運がいいね!


「早く採集して帰りましょうか」


「賛成! えーと、セイレン草は微妙に青く光る草なの。魔力もちょっと帯びてるから、魔力感知でもわかるかも」


「へー、そうなんだ。魔力感知なら――」


 ティアは目を瞑り意識を集中し始める。俺はそんなティアをじっと観察する。

 自然とティアの体の中に入り、外に出ていた循環する魔力の流れが意思を持って動き出すのを感じる。地面すれすれを通過していった魔力がティアの中を通り、上空へ放出される流れのように思う。

 十秒ほど経っただろうか、ティアが目を開く。


「あっちかな?」


 湖を目の前にして左側を指すティア。


「おっけー」


 ティアが感知したという方向に歩き出すと、確かに前方から魔力の揺らぎが感じられる。

 目当てのものがあるかな?


「お、あったあった」


 しばらく歩いていると前方に、沢山茂る青い草が見えてきた。が、本で見たとおりのぼんやりと光っている草は見当たらない。


「もうちょっと先かな?」


 ティアは小首をかしげながらそう呟くので、言葉通りにさらに奥へと進む。

 と、ようやくぼんやりと光る青い草をひとつ見つける。


「これでひとつかー」


 確か依頼達成は十束のはずである。さらに奥を見渡すと、湖の畔に沿って青い草が広がっているのが見える。


「……がんばって探そう」




 ようやく王都ロイズグリードの東門に着いた。二日で往復できると聞いていたが、結局三日かかってしまった。

 余計な道草を食ったせいではあるが、特に急いでいるわけでもないので帰りも道草を食って帰った。

 おかげで石を三つくらい同時に操れるようにはなっていた。


 いつものように街へ入る列に並び、門番にカードを見せて通してもらう。

 街の活気は出発前と変わらずだ。帰りは左回りの乗合馬車に乗る。冒険者ギルドへ到着すると、ギルドの影から俺を待っていたかのように一人の男が現れた。


「失礼。アフィシア様で間違いございませんか?」


 年のころは五十代ほどだろうか。見た目はまんま、執事だ。

 黒い燕尾服を見事に着こなし、びっちりと整えられた白髪と白髭の好々爺然とした佇まいだ。


「あ、はい」


 この人誰だろう?


「私《わたくし》、スティルヴィス公爵家に仕えております、執事のハウリルドと申します。以後お見知りおきを」


 執事が懐から一枚の封を施された手紙を取り出してこちらに差し出してくる。


「旦那様より屋敷への招待状を預かっております」


 タイミングよく差し出されたためか思わず受け取ってしまう。


「はあ? わたしにですか」


「確かに、お渡しいたしました」


 それだけ言うとさっと身を翻してハウリルドさんは去っていく。何がなんだかわからず呆然としている間に、その姿は角を曲がって消えていった。


「招待状?」


 ティアが不思議そうにこちらの手紙を覗き込む。

 裏返すと封をした蜜蝋には何かの家紋らしきものが見て取れる。これがスティルヴィス公爵家の家紋だろうか。

 とりあえず開封してみよう。


 ――簡潔に、ただ屋敷へ招待する旨が記載されているのみであった。要件も書かれていない。


「あさってのお昼前か……」


 なんだか厄介ごとの予感しかしない。

 ないとは思うが、俺の正体を知ってる人だったら全力でお断りしたいところだ。


「行かないっていう選択肢はないんだろうなあ」


「それは止めておいたほうがいいわね。貴族に目をつけられるよ。

 ……もうつけられてるのかもしれないけど」


 不吉なことを呟くティア。後半の声は小さくなっていたが、ばっちり聞こえている。


「まあ、とりあえず今は依頼の報告しようか」


 そうして冒険者ギルドで報酬をもらい、宿に帰還するのであった。

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